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フレッティングの考え方(12・最終回) [音律]

ギターの様々なフレッティングを示して来ました。今回は最終回として,まとめと補遺です。

ピタゴラスとミーントーンのフレッティングのところで,リュートのフレッティングも示した方がヨイというコメントをもらいました。ルネサンスリュートとギターのチューニングは大枠で短三度のちがい,五度圏で時計3時間分,ギターの3フレットカポに相当するわけですが,リュートでは3弦が相対的に半音低いチューニングですから,この場合のフレッティングも見ておきたいと思います。

固定フレット楽器の音律としては フレットがまっすぐになるかどうかも結構重要でしょう。ガットフレットは移動容易ですが,うねりは難しいでしょう。時代が下って各種のウェルテンペラメント音律が用いられた際は,移動フレット楽器が用いられたことでしょう。

フレットが真っ直ぐになるかどうかは,音律の構成が等比数列になっているかどうかです。これは比率が一定の系列のことで,ピタゴラスとミーントーン,平均律がそうなります。ピタゴラスは3/2の五度,ミーントーンはやや縮めた五度,平均律は平均律五度の等比です。ただしウルフを持つ音律はどこかに段差を生じます。15音のオイラー純正律では細かいダブルフレットを発生しました。不等分律のウェルテンペラメントではかなりうねりますが,開放弦間で均等なコンマ分割になっていれば真っ直ぐないしは斜めでも直線的となりました。

以下に,ルネサンスリュート調弦での,ピタゴラス音律によるフレッティングを示します。C基準です。
FretLutePythagorean.png

次に,ミーントーンによるフレッティングを示します。やはりC基準です。ついでですから,極端な1/3コンマのミーントーンから示します。これは行き過ぎたものだと思います*が,ガットフレットなら実現容易です。ダブルフレット前提ならかえってやり易いかも知れません。(*これは短三度純正をねらったものとコメントいただきました。)
FretMacroLute1_3Meantone.png

次は2/7です。これも行き過ぎたミーントーン**です。(**これも短三度純正と長三度純正の1/4ミーントーンの中間ですから,むしろこのあたりが標準ミーントーンと言えるかも知れません。)
FretMacroLute2_7Meantone.png

これは純正長三度を実現する,標準の1/4ミーントーンです。
FretMacroLuteMeantone.png

後は少し緩和したほうの,2/9,1/5を示しておきます。
FretMacroLute2_9Meantone.png
FretMacroLute1_5Meantone.png


以下に補遺として,ギターのG基準のキルンベルガーI, II, IIIを示します。
FretMacroKIG.png
FretMacroKIIG.png
FretMacroKBIIIG.png

ついでにD基準のキルンベルガーI, II, IIIも示します。
KirnbergerID.png
FretMacroKIID.png
FretMacroKIIID.png

同様にE基準です。なお,A基準は「フレッティングの考え方(9)」で,C基準と共に示しました。
KirnbergerIE.png
FretMacroKIIE.png
FretMacroKIIIE.png

同様にB基準です。
KirnbergerIB.png
FretMacroKIIB.png
FretMacroKIIIB.png

ここまでにします。かなりおとなしいフレッティングもあることが分かります。実際に合うかどうかは,音だしして見ないと分かりません。

最後に,前回とりあげたオイラー律(C基準)53平均律12平均律のフレッティングと色分けして比較してみました。
FretMacroComparison.png
53平均律はオイラー律の全ての位置をほぼカバーしますが,12平均律はオクターブと5フレット・7フレット除いてかなりずれていることが分かります(おわり)。

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koten

完結お疲れさまです。非常に勉強になりました。

>行き過ぎたミーントーン
・・これにつき、今日「古楽の音律」を改めて読んでいたのですが、それによると、1/3も2/7も2/9コンマも含めた「6種類のミーントーン」が、ルネッサンス・バロック時代には『すべて用いられていたことになる。』って書いてあります(第76頁、但し「鍵盤楽器」の話)・・・なので、正確には、「現代人にとっては行きすぎたミーントーン」という表現の方が適切かも知れませんね。 私も上記3つのミーントーンの響きには未だ違和感があるので、これらの響きが「自然」に感じられるようになるまでは半人前の域を出ていないんだろうな、と感じる今時分です(汗)。

KBⅢのG基準フレットは、思ったより2-3弦間の段差があるのがやや残念でしたが、それでも十分弾けそうな感じがします。
by koten (2011-12-30 00:58) 

Enrique

kotenさん,nice&コメントありがとうございます。
>非常に勉強になりました
そう言ってもらえると光栄ですね。いうまでもなくフレッティングをやり出したのはkotenさんの強力な刺激です。私のほうも純正系の開放弦問題は解決していません。

ハゲしいミーントーンに関しては,リュートの方が見た目合いそうな気がして一応絵だけ示しました(1/4だけでは,3弦の違いだけでオモシロくなかったので)。私は試したわけではないですが,これらを評価していません。

優れた標準版が出ると,色んなバージョンが発生するのは昔も今も同じではないでしょうか?1/4がヨイのだから1/3や2/7はもっとヨイだろうというテの試みではなかったのかとも思います。本を書く人にとっては色々ネタあって面白いでしょうし,歴史的事実なら人の行為として受け入れないといけませんが。

五度を縮めるのは手段であって目的では無いはずです。もちろん狭めた五度が嗜好の対象ということであればいくらでもOKで,とやかく言う問題でないですが。

現在でも例えば優れた特許が出ると,それを回避しようとするモノも沢山出ますよね。時に後発が優れていたり本家を食ってしまうものもありますが,やはり元祖は偉大です。歴史は繰り返しますし,むしろ現代人は歴史を俯瞰できますから,冷静に見る事も出来るのではないでしょうか。
by Enrique (2011-12-30 11:07) 

kagefumimaru

1/3scミーントーンは行き過ぎてるわけではなく短三度を純正にしたものです。
また理論的な定式化は1/4より2/7のほうが先に行われてます。
もちろんそれ以前から数値によらず、鍵盤楽器のためには5度を少し狭めるというかたちでミーントーンは実践されていたので、細かい数字にこだわっても仕方のない事なのですが。
by kagefumimaru (2012-02-21 17:52) 

Enrique

kagefumimaruさん,コメントありがとうございます。
>1/3SCは短三度純正
確かにその通りですね。長三度の方のみ注目しましたので,行き過ぎと書いてしまいました。無意味に5度を縮めているわけではないので,行き過ぎでなくてこれが究極ですか。
1/4では長三度純正ですが,短三度がやや狭いわけですね。1/3では短三度純正になるかわり長三度,五度ともに狭くなり,五度,長三,短三の音程間の感じ方の順序からすれば,短三度純正の根拠はあるにしても,かなりマニアックであることは確かですね。
7/2の方が理論的定式化は先とのことですが,私には間を取った様に見えるのですが,ミーントーンを長短三度をなるべく純正にとるものとすれば両者の間のこのあたりが標準と言う事にはなるのでしょうね。
>細かい数字にこだわっても仕方のない事
いえいえ,実用的にはそうでもやはり基礎理論となるときちんとしていないといけないと思います。
「行き過ぎ」の記述,行き過ぎだったようです。ある意味「標準」ご指摘内容,本文中に注釈を入れておきました。
by Enrique (2012-02-26 00:35) 

藤田伊織

いろいろな調律法がありますが、アンサンブルではたいてい、Aの音で楽器をあわせます。古楽演奏ではA=415Hzくらいが多いですが、モダンではA=440Hz+αです。で、C基準の調律では、Aから戻すのが大変なんじゃないかと思います。それに鍵盤楽器ではきっとC基準に鳴るでしょうが、弦楽器などはそもそもC基準ではないだろうし、なんでC基準に合わせなくてはならないのかとも、悩んでいます。そのうえ、Aで音を合わせても、曲はイ長調やイ短調のものばかりでないし。変イ長調だって普通です。

by 藤田伊織 (2012-03-25 08:00) 

Enrique

藤田伊織さま,コメントいただき有難うございます。
一点確認です。ここで言っているC基準とか,G基準とか,D基準その他というのは,これらの音を基準にそれぞれの音律(音階)のピッチを合わせる(調律する)という意味ではなくて,たとえばC基準というのはハ長調近辺の和音がなるべく良くなるようにウルフ位置を選ぶということです。ミーントーンの場合では,Es型ミーントーンと言うものです(ウルフ位置がGis-Es間ですのでハ長調で悪影響が少ないです)。もう一つはG基準、若しくはGis型(同じくウルフ位置がDis-B間です)と言って,ややシャープ系の調に振ったものです。ピタゴラスやミーントーンのような原始的な音律を使いこなそうとするとウルフ位置の選定は重要です。上の2つの標準的なミーントーンはもちろんのこと,他の基準としている型(様々なウルフシフトしたミーントーン)でも,ピッチ基準音は標準通りA音です。そうしないと実用的に大変使いにくいものになると思います。もし各音律でCを基準にピッチを合わせてAで合う様にしようとしたら,少しずつピッチの異なったC基準音の音叉を用意しないといけません。そのようなご指摘ではないかと思いますが如何でしょうか?いずれにしても,各音階音の相対的な周波数の比率と絶対的なピッチの上げ下げとは全く別物です。各種音律は基準音から作りますが,A音のところでモダンピッチならば440Hzなり442Hz,バロックピッチなら415Hzなりに合わせます。それは約束ですから従うのみです。一連の記事で示した音律表でA音のところを1にすれば誤解が少なかったと思いますが,音律を比率で議論する際通常は(便宜的に)C音基準でやると思います。
ミーントーンは鍵盤楽器やフレット楽器用の音律です。これをアンサンブルに使うのは難しい(というかもっといい方法がある)と思います。オケなどでは弦はピタゴラスないしは純正律,管楽器は自然倍音ですからやはり純正律,もしくは平均律的な音階とってもアンサンブル間はハモるように微調整するかではないでしょうか?古楽オケなどのアンサンブルでミーントーン使用とか称しているものは間違い(アンサンブル用のチェンバロの音律?)だと思います。
いずれにせよ基準ピッチはA音で合わせます。しかし移調楽器ではA音(記譜音は別の音)で合わせても他の音では厳密には合わないのではないでしょうか。やはり多少の音程はハモルように微調整(もしくは発音伝達機構に非線形性を持っていればシンクロナイズ)するのではないでしょうか。
殆どの音律で約束通りA音基準ピッチで不便は無いと思いますが,キルンベルガーI,II,IIIという音律は,それぞれでA音の高さが違ってきますので,例えばキルンベルガーIでA音で基準ピッチを合わせても,姉妹音律のIIやIIIでは他の音を調整しなければならないという問題があります。この音律に限ってはA音以外のC音などをピッチの基準にした方が面倒はないと思います。もちろん,他のウェルテンペラメント音律間でもわずかにA音の高さが変わって来ますので,厳密に言えば同じ様な問題はあると思います。
by Enrique (2012-03-26 07:34) 

藤田伊織

ギターは普通EADGBEなので、何でC基準とかに合わせる必要があるときがあるのかなあ、と思う次第です。それは、鍵盤楽器の都合でしょうか。クラリネットだってA管とかBb管とかですし。バロックトランペットはミーントーンやキルンベルガーI,II,IIIと関係がないと思うし、少し外れているところが、逆に味があるとおもいます。
「音律表でA音のところを1にすれば」とのお話ですが、調律というか調性でAを基準にする歴史的、科学的必然性はないと思います。
ギターも弦の押し方で音の高さは変わります。
バッハの平均律第1巻の表紙の上部のくるくるしたペンの絵がバッハ独自の調律の方法を示していると主張している方もいます。でもそれはCから始まります。
私は音律の不確定性原理から12音があることが基本であとは大体でいいことが許されていると考えています。それで、いい演奏なり演奏者なり楽団はその許された音の良い加減さの中で音を合わせることで素晴らしい音楽をつくるのだと思います。
by 藤田伊織 (2012-03-26 21:53) 

Enrique

藤田伊織様。
おっしゃる通りCを出発点にする必然性がないから便宜的に音律の出発点はCを1にしてある音律にもとづく音階を組み,それで作られた音階のAのところの調律の出発点を440Hzなりにしているわけです。本来は各楽器の自然倍音に基づいた音階(これは純正律ですね)があり,音律の出発音と音合わせの基準音が一致すれば便利でしょうが,音階の組立てと実際の楽器の音合わせとは分けて議論しないといけません。

音律のC基準というのは鍵盤,さらにはリュートの調弦の都合から来ているようです。ギターではA基準が良さそう(音合わせの都合とは別に)だというのは自然な事です。モダンギターならEも検討する必要があります。その他開放弦音GDBを基準にしたものを検討しているのはご覧の通りです。それが沢山の音階の種類を出す原因にもなっていますが。

A=1にするというのは,実際音合わせのためにA音を440Hzなりに合わせるというのはA=440Hzにその音階を規格化することですから同じことを言っています。CもAも特別な意味がないというのは同感ですが,どこかにピッチの基準にする音が無いと音合わせできませんね。

オクターブ12音が基本で後は揺らがせてというのは総体的には賛成ですが,それは声楽・弦(ヴァイオリンなどの)・管など,音程が調整出来て,上手くハモる楽器の場合の特性(一種のシンクロナイズ現象ですね)であって,鍵盤やフレット楽器の様に音程固定の場合は十分各種音律を算術的に検討した上で,その音階音に調律するのが基本だと思います。確かにギターではある程度の音程調整が出来,巨匠レベルの人はある程度それをやっています。しかし,ただでさえ難しい独奏ギターの演奏技術にそれを付加するのは得策でなく,フレットの方でよりハモる様にしておけば,より音楽に注力できるというのが我々の考え方です。

音楽に揺らぎは必然的に存在するものと思いますが,それでも音程の基準は決めておかないといけません。その基準が12平均律では,イントネーションにより努力を要するので,より良い基準を見いだそうという試みです。

チェンバロやギターの発音機構には,非線形性が少ないので,なるべくもともとの発音を整数倍にした方がキレイに響きます。ピアノの発音機構にも多少の非線形性があり,電子的に出した平均律音よりは良いとは思いますが,それのみで平均律音程が自動的にハモってくれるほどの調節機構はありません。

さらに弦のインハーモニシティがありますが,これがあるから整数倍基準の音律が意味ないとは考えません。これは倍音が一定に高い方にずれてしまうものでもともと調節機構がありません。より良い音律基準をもうけた上で,これも考慮して基準からずらすべきです。

より良い調律=音律基準+一定にずれているものを補正+揺らぎ

揺らぐものを決定論的に決めようとするとなかなか決まらないというのはありますが,そこは曲に合わせてより良い音律を選ぶという事になると思います。

楽器を選ぶと曲とそうでない曲があるように、音律を選ぶ曲とそうでない曲もあるような気はします。
by Enrique (2012-03-27 12:49) 

藤田伊織

音律のことはともかく、ギターの絵がきれいで、可愛げがあります。フレットの表現もわかりやすいし。素晴らしい。
ターフェルムジーク鎌倉というバッハのカンタータを連続して塩蔵しているグループがあって、そのバイオリンでピリオド楽器で演奏と指導されている小池はるみさんの論文と言うかエッセイでは:
「バロッティの5度は純正調よりも狭いので、Aから順番に純正5度で調弦してしまうとGやCで誤差が生じてしまいます。Aより低い弦は少し高めに、E線はやや低めに調弦します。でもこれもやはり個人の感覚の差があってピッタリ一致しないので、各自が「古典音律チューナー」(古楽器奏者は大抵持っています)を買って練習するのが一番です。」
ターフェルムジーク鎌倉ではバロッティ音律でA=440Hzなんだそうです。この音の感じはすごくいいです。
まあ、どんな音律でもいいんでしょう。バロックバイオchリンは指盤が短いので、調弦の時以外は、計算ででる音律を正確にといっても、難しいように思います。
by 藤田伊織 (2012-04-01 06:54) 

Enrique

藤田伊織様
再コメント,お褒めいただきありがとうございます。
音律に関しては鳴らしてみるのが一番だと思うのですが,生楽器では中々大変です。曲との適合性も調や書かれ方と大いに関連して複雑です。また各種音律を表すダイアグラムも色々工夫されているようですが,これまた提案する人の数だけ新たに抽象的な表現を増やすだけです。音律を目に見える形でそのままイチバン分かりやすいのが,ギターやリュートのフレットパターンだと思った次第です。色んな音律のフレットパターンを描いておけば,例えば歴史的な絵に書かれている楽器のフレットパターンからその当時使われた音律を一目で同定する事が出来ます。一連の計算結果を示したものは,そのまま使うというよりは,そう言う図鑑的?な意味合いも強いですね。
電子チューナは大変便利なものだと思います。ヴァロッティやヴェルクマイスターなどの有名音律はそれでいいと思いますが,内蔵されていなかったり,内蔵されているものでも計算やデータがアヤシいものもあるようです。
計算でなんとかなるものと,そうでないものとは峻別する必要があると思います。ここで示したフレットパターンは計算で出す事が出来たという事です。ヴァロッティなどの音律はやはり音を微調整出来ない鍵盤向けの妥協音律だと思いますので,ヴァイオリンなどの実際の演奏ではこれを墨守する必要は全く無くて,純正律的になるよう微調整するのだと思いますがいかがでしょうか。
by Enrique (2012-04-01 15:19) 

藤田伊織

「ヴァイオリンなどの実際の演奏ではこれを墨守する必要は全く無くて,純正律的になるよう微調整するのだと思います」そのとおりだと、私も思います。
諏訪内晶子さんの本「ヴァイオリンと翔る」で、表現はうろ覚えですが、ニューヨークに渡って以降、ある先生から「平均律だけではないよ。」と言われたことが書かれていたように思います。それは、導音を少し上下させて主音に近づける、ことから始めてベースの音の上で、3度や5度を調和させるために、平均律の周波数から音楽的にずらすことだと私は考えました。ですから、ヴァイオリンが何とか音律で演奏するなんてことはありえません。純正律的と言うなら、すべての和音の音の構成の中で純正律ということでしょう。12音のいずれかを調性の基本とする和音があって、ある曲が全ての12音を経て移調する時に、一番純正律的になるのは平均律です。
音律と不確定性原理というウェブページを作っています。
http://www.geocities.jp/imyfujita/wtcuncertainj.html
ご意見などいただけれはありがたいです。



by 藤田伊織 (2012-04-15 14:47) 

Enrique

各調の純正律のプロトタイプにするという考え方ですね。そういう考え方ならありだと思います。日本人は平準化均等化を好むせいか,西洋化化以降平均律を無批判に取り入れ過ぎですね。日本の音楽でも例えば三味線の演奏などでは半音を短くとったりして,明らかに平均律の音階とは異なります。
ヴァイオリンなどの弦楽器では全調くまなく弾くという事はあり得ませんし,現代音楽で無い限りどんな激しい転調をしても調があります。いわば無調である平均律でそのまま演奏するという事もあり得ない事です(完全に平均律で演奏するという事は却って難しい事だと思います)。
純正律の出発点として使うにしても,各調で純正にとっているわけです。
やはり問題は音程固定の鍵盤などの音律で,各音律のメリット/デメリットは出ます。その際平均律では純正音が一つもないので,音の響きが悪く転調の色合いが無いので,そちらを重視する人たちからは「デメリットのみ」という意見も強いわけです。
by Enrique (2012-04-15 22:46) 

藤田伊織


指揮者の齋藤秀雄の講義録を読んだことがあります。音の響きのことについて面白いことが欠いてありました。Enriqueさんのおっしゃるとおり、平均律のというか普通のピアノで、ドミソを和音で弾くと、最初はミの音が低くてうなる、「けれどもちょっとするとうなりはなくなって調和したいい和音の音になる」(齋藤秀雄先生いわく)ということで、自分でも試してみましたが、本当にそうでした。不思議です。
ピアノの物理的構造のせいか、連成共振とも思いましたが、それだけでもなさそうです。聴覚のマスキングも絡んでいるかもしれないとこの頃は思っています。
by 藤田伊織 (2012-04-16 00:17) 

Enrique

生楽器では平均律でも響きが改善されることは確かだと思います。そこはご明察の通り振動系の非線形性がそうさせています。打鍵直後はスペクトルが広がって音程は分かりませんが,しばらくすると音程が分かって来ると同時に音量が下がってきます。かつ非線形性によるずれ調整が入って来ますので,ある程度聞けるのだと思います。
しかし,実際のピアノ音楽が常に平均律ピアノで響きが良くなる様には書かれていないのは,ベートーベンやショパンの例で明らかです。モダンとは楽器の構造も違う事でしょうが,彼らはキルンベルガーIやIIなどの響きの良い音律を用いています。それは譜面が物語っています。オリジナル楽器を使う試みはもう常識的に行われますが,オリジナル音律を使わないのでは「仏作って〜」だと思います。音色よりも音程の方が重要な事は論を待たないと思いますので。
1セント2セントの議論する音律の立場からすれば,ヴァイオリン演奏の音程作りは大変ラフです。ローポジションでさえ1ミリずれて5セント,オクターブなら10セント以上ずれてしまいます。それを柔らかい太い指頭で押さえて作るのですから,あれは人為というよりも明らかに弦長が良く響く様に自然に調整されるのです。良く「フレットが無いのに良く正確な音程になるものだ」と部外者は言いますが,むしろフレットが無いからこそ正確な音程になるのだと思います。もしヴァイオリンにフレットを付けるとすれば,ここで挙げた細かい53平均律くらいになると思います。そうするとフレットが細かくなり過ぎて,フレットが無いのと余り変わりません。
高説の音程の不確定性に相当するのかどうか分かりません。私はむしろ決定論的に当たり前に起こっていることだと思います。だから逆に平均律の様に微妙にずらす方が困難です。演奏される人ならば分かることと思います。ピアノの場合も弦の受けはある程度柔らかく作られていますので,若干のピッチ調整は発生するもの思いますが,弦長と弦受け部の構造からして平均律の長三度の14セントものズレがキレイに響いてくれるというのは楽観的に過ぎると思います。私には三度が響いている様には聞こえません。ただ,聴覚効果としては,響きの奇麗な方を聞いて他をマスキングしてしまうということがあるのかもしれません。
by Enrique (2012-04-16 22:11) 

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