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ミーントーンでバッハ [演奏]

バッハの1000曲以上におよぶ膨大な作品の中から,ギターの親せき筋にあたるリュートの作品はBWV995から1000までと1006aの7曲とされてきました。しかしこれらの曲が,当時用いられたバロックリュートのための曲なのかどうかもはっきりしないようです。ましてや,そこで用いられた音律もはっきりしません。

当時は別の楽器での編曲奏も盛んに行われたようですし(バッハ自身リュート曲含め別の楽器同士の編曲をしています),ギターの音色は現代のピアノよりもリュートやチェンバロに近い上に,音程のずれも少なくダイナミクスや音色の変化が出せます。これをプラスにとらえれば,バッハなどのバロック曲をギターで弾く意味も大いにあると思います。

感情的な議論を除けば,残る合理的な課題は調性でしょう。ギターやリュートのような楽器はどうしても調性による演奏の可否が発生し,オリジナルの調からの移調奏が必要な場合があります。しかし,音律を度外視したオリジナル調性の議論は,全く皮相的です。逆に音律を考慮してやるならば,移調奏だって楽器が違ったってぜんぜんOKかも知れません。

さて通常ギターで弾かれるのは,リュート曲,無伴奏ヴァイオリンとチェロの曲などです。今回弾いてみるのはギタリストになじみの深い,リュート組曲第1番BWV996からのBourréeです。

何故かこの組曲第1番はホ短調で,ギターが最も得意とする調性です。音域を下回るバスのオクターブ移動のみでほぼそのまま弾けます。ついでながら,第4番はホ長調で,これもギターが得意とする調です。むしろ後者はヴァイオリン・パルティータ第3番からの編曲とみられるので無理もないのですが,第1番はリュートのオリジナル曲とされているのに,♭系ではなく♯系です。

♭系調弦のリュートではすごく弾きにくいはずですが,実際リュートでオリジナル調弦で弾かれているのでしょうか?正統性を重視してもマトモに演奏できなければどうしようもありません。そのため,リュート・チェンバロの曲だとの説もあるようです。実際,リュートに鍵盤と脚をつけた,まるでハンプティ・ダンプティの様な楽器まで近年試作されたようです。もちろん,鍵盤なら演奏は楽勝ですが。もしかしたら,バッハ先生「私は個別の楽器の詳しい事情は知らないから,都合いいように移調して弾いてくれ。」ということだった?のかも知れません。

ともあれ,第1番はギターの得意な調で出来ており,移調せず原調で弾けます。私この組曲全曲レッスンを受けたのですが,7,8年経つとぜんぜん弾けなくなっています(汗)。このBourréeはこの組曲の中ですぐ弾けそうな曲という意味で(本来なら全曲弾いて示す必要が)あります。リュート曲ならば,ミーントーンを想定していると思いました。というか,手当たり次第弾いてみたところ,ぴったりはまるので,上げてみました。


この使用楽譜は現代ギターから昨夏出た以下のものです。

現代ギター増刊 ギターのための原典版準拠バッハ・リュート作品全集 2010年 07月号 [雑誌]

現代ギター増刊 ギターのための原典版準拠バッハ・リュート作品全集 2010年 07月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 現代ギタ-社
  • 発売日: 2010/06/21
  • メディア: 雑誌

バッハなどの曲は,主調の主要和音で構成された曲ではないですから,安全な調といえどもカウンターポイントの動きで,ミーントーンのウルフを踏む危険性があります。この曲で唯一ウルフを踏む長三度F#-B♭(A#)では,B♭音にトリルが付いています。ちなみに,ギターで原調で弾ける組曲第4番も弾いてみましたが,プレリュードの途中,様々に調性を変えるところでダウンです。ヴァイオリン・パルティータの第1番ロ短調もダメですね。ヴァイオリン・パルティータの第2番二短調は検討中です。

終止部分には日常的にトリルを付けたくなるのですが,上の演奏では指定箇所のみに付けました。

タグ:Bourrée BWV996
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REIKO

ああ~、この曲、ピアノの楽譜にもありました。
(本来はリュートの曲・・・と注釈付きで)
あまりちゃんと練習しませんでしたが、少し弾きましたね。(笑)
まずい音程を装飾音でカバーするのは、ウルフがまだ残っていた音律では、よく使われてたんじゃないかと思います。
by REIKO (2011-03-10 07:48) 

koten

おー良いですね良いですね(笑)。
私が最初に習ったギターの先生も、この曲が余りにもギター的なんで、「これはギターの曲じゃないか!」と叫んで?ました。 で、私が「えっ、この時代にギターあったのですか?」と質問したら、「いや、ありましたよ!」って真面目に答えられたので、今考えてみるとバロックギターのことだったのでしょうかね・・・でも他にも何か色々あるみたいですよね、この時代のギターって。

(兼横レス(笑))
 私も鍵盤楽器用の楽譜持ってます。それだと、このホ短調組曲が確かイ短調に移調されていたんじゃなかったかな。あと、ハ短調パルティータ(妖しいフーガが入っているやつ)やBWV998(P&F&A)の入っている鍵盤楽器用楽譜もあります(と、さりげなく自慢(汗))。
by koten (2011-03-10 13:04) 

Enrique

REIKOさん,コメントありがとうございます。
これピアノのバッハ入門曲の一つですね。完全に二声ですから,両手でぴったり。鍵盤曲ではないかという説もありますね。オリジナルのリュートでは恐ろしく難しいようですが,ギターで弾くバッハでもやさしい部類です。
同組曲の他の曲も検討してみないといけませんが,楽器はさておき,音律はミーントーンが使われた公算が高いと思います。
by Enrique (2011-03-10 13:27) 

Enrique

kotenさん,nice&コメントありがとうございます。
この辺2段譜で書いてあるものもありますね。たしかオリジナルも?
むしろギター譜が一段に押し込んでいるのでしょうか。ピアノのバッハ小品集みたいなのにも,BWV999プレリュードなどと共に入っていたりしますね。
音律の適合性どうでしょうか?ミーントーンぴったりと思うのですが。鍵盤と違い,原調通り弾けるものが少ないので余り沢山は見れませんが。

by Enrique (2011-03-10 13:33) 

koten

>音律の適合性どうでしょうか?
私もぴったりだと感じました。(これ、E♭じゃなくてD♯使ってますよね?)
確かに、バッハの「ホ短調」は、ミーントーンが適合する曲が多そうだなってイメージありますね。例えばフルートと通奏低音のためのホ短調ソナタがあるじゃないですか(確かBWV1034)。あれなんか本当ミーントーンの曲だよなぁって感じします。 ただ、バッハのホ短調曲につきKB音律を未だ十分に試していないこともあり、「想定音律」についての確定的(断言的)なことが言えないのが残念ではあります(ここが音律ワールド(笑)の深いところ&面白いところでもあります。)。

ま、何にしても、平均律で演奏するよりかは何千倍(何億倍?(笑))も良いと感じる、ってことだけは書かせていただきます(爆)。

 前のコメントで私が書いた「この時代のギター」(&バッハのリュート組曲)の件ですが、竹内氏のサイトで、氏がバッハのリュート組曲で使った楽器は「この種類だ!」的な見解を述べられていたことを思い出しました。
http://www.crane.gr.jp/~tarolute/index.html
 ただ、何時の記事だったかはもう覚えていませんので(汗)、キーワード使ってじっくり検索する必要がありそうですね。

>この辺2段譜で書いてあるものもありますね。たしかオリジナルも?
 私の持っている楽譜は、完全に鍵盤楽器用に「編曲」した感じのものなので、2段譜です。ただ、ギター譜とは微妙に違う音があるので、もしかしたらこっちの方が(音自体は)よりオリジナルに近いのかな、と思うこともあります。但し調性がイ短調だったりするのでその辺の問題もありますが(あくまでオリジナルはホ短調のはず)。

(余談(MYブログの最新コメントレス欄の追記)ですが、ピッチ論につき周波数「帯」って概念を使った説明であれば、技術者としてのEnriqueさんの「触手」が動いてきませんか?(笑)。 ピッチ論につき「点」で捉えようとするから胡散臭く感じるのであって、(例えば虹の7色スペクトルのように)「ある程度の幅」を見越して考えれば、そう変な話でもないと私は考えています。)

by koten (2011-03-10 15:04) 

Enrique

kotenさん追コメおおきにです。
ミーントーンフレットはEs/Dis兼用にしましたが,Esを使うことはめったになく,ほとんどDisを使っています。これももちろんそうです。やはり,ギターは#系ですね。
バッハはやはり一筋縄ではいかないですが,この辺は素朴に分かりやすいのではないかと思います。

(余談)周波数の数字に興味おありのようですが,高め低めにピッチを取る,その目安の数字に過ぎません。444Hzが良いという時点でバッタ(もしくはジョーク,良く見て高めピッチ論者)です。だって443Hzでも445Hzでもダメなんでしょう?逆に幅があっていいのであれば435~445くらいでもいいではないですか?そうであれば440Hzに何の特別な悪さはないです。平均律は良くてピッチのことだけを言っているのでしたら,その時点で論外です。440Hzよりも整数セント値ずらした値がいいとか言い出すと,これはもう「A=440Hzの平均律を厳守」した上での議論です。
415Hzくらいの低めのピッチが良いの言うのは,歴史的にそのくらいが使われていたという,うらづけがあってのことですから当然納得できますが,高い変な値がヨイとかいうのは単なる数字アソビで,何の合理的な根拠もないですね。音律ならば響きが良い悪いはうなりの数などで客観的に測定出来ますが,絶対ピッチの良し悪しは主観の問題です。そこら辺にバッタの入りこむ余地があるのですね。周波数の数字のお遊びは,音律の整数比や自然倍音などの議論と混同したマチガイでしょう。
音律こそがスペクトルです。むしろこちらは線スペクトルで幅があってはいけません。むしろ比率のずれをごまかすのにヴィヴラートやトリルを掛けることが幅に相当します。単にピッチの高め低めの議論ならばいいのですが,そうではなくてピッチ周波数の数字にこだわるのならば,本来の音律の重要な意味を台無しにしてしまうとさえ言えると思いますね。
by Enrique (2011-03-10 22:50) 

koten

>444Hzが良いという時点でバッタ
 ・・・444Hz自体が良いのではなく、528Hzが良い周波数「らしい」んですね。で、mixiでYさんに検算してもらったのですが(例の日記をごらんいただければと(笑))、平均律であってもAを444Hzにすると、上のCが(ほぼ)ジャスト528Hzになるんですよ。つまり444Hzと528Hzとの差(セント値)は(ほぼ)ジャスト「300セント」なんです(驚)!なので、現在、ブログの最新記事コメント欄で紹介した電子音叉のソフトを使って、C=528Hzを鳴らしていて「人体実験」中です(爆)・・結構良い感じしてます。

 とりあえずポイントはお伝えしましたからね(笑)、後で、「知っていたならどうしてあの時うんぬん」ってのは無しですよ(爆)・・・(528Hzが良いってのは確か医者の情報じゃなかったかと)
by koten (2011-03-11 06:18) 

Enrique

kotenさん、はっきりいって、528Hzというのはもっと変ですよ。444Hzの300セント上というのは、平均律を100%認めることになるし、純正律で考えるなら、440×(6/5)=528ですから、今度はA音440Hzが前提になっていますよ。
私には知らないほうがシアワセな情報(笑)だと思いますが、こちらで書いても何ですから、そちらにコメントしますね。
by Enrique (2011-03-11 13:38) 

Cecilia

聴かせていただきました。難しそうですね。
笛系の楽器の方とコラボすることになり、♯系とか♭系の得意不得意の話題も出ていました。

先日友人とバッハの二重唱を歌いました。
ブログで公開できないのが残念です。
by Cecilia (2011-03-15 09:19) 

Enrique

Ceciliaさん,nice&コメントありがとうございます。
ご返事遅れてしまいました。こちらは地震の直接の影響は無いのですが,東北の知人の事やら近親の長野の状況,都内の娘の事やら間接的には色々あります。やはり大変な事です。
演奏の件ですが,ミーントーンだとずっしりとした響きになり,そのせいでリズムが重たく感じるられるかもしれません。通常のギターではもう少し軽くいけます。響きをとるか軽さをとるかですね。
一般に弦は♯系,管は♭系が得意ですが,リュートは調弦が♭系ですね。リュートが得意な♭系の調ではギターでは,移調するかカポタストが必要になります。
バッハの二重唱とは!いいですね。
by Enrique (2011-03-16 13:39) 

Cecilia

きっとEnriqueさんのほうは大丈夫なのだろうと思っていました。
私は実家が福島県いわき市ですのでいろいろあります。
気を揉んでもすぐに動けないもどかしさもあります。でも今日から母・弟夫婦・甥は分散して関東の親戚宅に身を寄せます。こちらで受け入れることも考えています。
Enriqueさんのお知り合いや身内の方々も心配ですね。
特に一人暮らしをされている娘さんが心配ですね。

by Cecilia (2011-03-17 09:08) 

Enrique

Ceciliaさんの追加コメントありがとうございます。
ご実家の方々のご不自由お気の毒です。ここは助け合いの精神がなによりも必要ですね。いわきにも親しい知人がいますが,何ともしようがありません。緊急時は逃げるが一番ですが,冷静な行動が何よりですね。
特に東北方面の方々はまじめで耐える力が強いので,余計に心が痛みます。

by Enrique (2011-03-17 09:41) 

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