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11月のある日 [曲目]

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大家ブローウェルの小品「11月のある日」は,2001年の渡米直前に東京で楽譜を入手し,滞米中良く弾いていた。今もほぼ「そら」で弾ける。その当時バッハの「プレリュード・フーガ・アレグロ」も暗譜して,結構弾けていたつもりだったが,今はさっぱりだ(この曲に限らずだが)。難度の違いはあるが,手が行くところに音があるギタリストの作品と,音に手を合わせないといけない非ギタリストの作品との違いも大きいのではないかと思う(「プレリュード・フーガ・アレグロ」はバッハの作品の中でもかなりギター的ではあると思うが)。

職場の女性に演奏を披露したところ,いたく感動され,「ほろりと来た,出だしだけでも良いからもう一度弾いて欲しい」と懇願された。出だしだけでも何なのでと,二回弾くことになった。11月の,えも言われぬ切ないような雰囲気が良く表現されているとのことだった。お子さんが大学進学して家もとを離れた喪失感にもはまったと告白された。それがご縁で,その後旦那さんが再開するのに使用されるギターの調達までを仰せつかったのだった。

このような,大家が肩の力を抜いて作った小品には滋味深いものがある。プロは却って難しいのだろうが,素人は無邪気に弾く。この曲は「ポスト・禁じられた遊び」の最右翼ではなかろうか。カヴァティーナもすばらしいが,これは技術的に難しい。それでいて,うまく弾けば弾くほど,簡単な曲と思われてしまう損な曲だ。中級者がこれを非ギター関係者の前で弾くと,初級者と見られてしまうので注意が必要。その点「11月のある日」は後半冒頭のストレッチさえ注意すれば,きついところは少なく,音楽に入れる。

プロの演奏を幾つか聞いても,テンポ始め弾き方が随分と違う。多くの人が弾く各人各様沢山の「11月のある日」があることだろう。演奏当人は当人なりの,聞く人はそれなりの感情を持って聞く。具体的な経験は異なっても,非言語の感情の共有である。

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やーさん

変なタイミングで失礼します。

職場の女性に請われて弾いた「11月のある日」の話、いいですね。この曲には独特の郷愁のようなムードがありますね。最もブラウアーらしくない曲ですが、こんな対極のような曲を書いてしまうのですね。

このブログ記事を見て、久しぶりにこの曲を弾いてみました。デビューコンサートで弾く予定が、金縛りに合い、結局弾かなかったのですが。。。今弾いてみると、あのころよりずっと楽に弾けるように感じます。これは多分錯覚だと思いますが。

by やーさん (2009-11-18 02:00) 

Enrique

本番の後の方が力が抜けてうまく弾けたりするのものですね。やはり,これで最後とがんばり過ぎないで,その曲をレパートリーとして末永く愛奏して行こうという意識が大事なのだと思います。
やーさんの場合は熟成効果も出てきていると思います。デビューコンサートでの強い仕込みが熟成されてきているのだと思います。楽に弾けるのは錯覚ではなく,その曲自体弾かなくても,他の曲を練習している間にも,こなれてきたものと思われます。
by Enrique (2009-11-18 07:36) 

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