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チューニングの実際(速攻ホ短調チューニング) [演奏技術]

各種音律とギターとの関連を述べてきた。

ギターの場合,最終的にはフレッティングにたどり着く。しかし,なかなかフレットを打ち直すと言うのは大変だし,基本的には平均律以外はすべて不等分律であり,フレットは真っ直ぐにはならない。当時の響きを再現し,本来の響きを味わう試みは中々刺激的なことではある。関連記事に,実際に古典音律で演奏している方からコメントをいただき,この方含め,製作家の方の中にもフレッティングを試みている方がおられることがわかった。実際やってみるとその魅力に取りつかれ平均律には戻れないとのことである。ゆくゆく私もやってみたいが,今のところすぐにこの不等分律を試す元気はない。やはり楽器の改造に時間がかかることと,古典以前の曲には良いが,新しい曲が弾けなくなってしまう点である。当然専用楽器としてだろう。逆に新しい曲をミーントーンなどの古典音律で弾くのも,試みとしては面白いが,正当性を欠く。このジレンマを解決する手段として,可動式フレットというものがある(あった)のだろう。前に紹介した,各種フレッティングの指板を交換できるUSパテントも奇抜な発想ではなく,その現代版ということなのだろう。

とりあえず,ここでは普通のまっすぐなフレットの楽器でのチューニングの問題に触れる。和音・重音の響きを感覚的に感じられ,直感的に調整できる人は別として,むしろチューナを使って視覚的にチューニングする方が知識としても持っておいても損は無いと思う。チューナを使えば,何弦を何セント上げる(下げる)は容易にできるはずだからである。

ただし,私自身完全版を持たず,妥協の産物である。しかし何度も書くように,最適解が無いのは原理的なものである。もちろん6本平均律チューニングは前に書いたとおり,究極の妥協策だが,ギターでは24調むらなく弾く必要はなく,良く弾く調で少しでも響きが改善されるチューニングをすべきである。

・速攻ホ短調チューニング
  1. ⑤弦の5フレット・ハーモニクスを440Hzの音叉かチューナーで合わせる。(ハーモニクスでなくてもOKな人は開放弦でも良い。言い換えれば開放弦を110Hzに合わせる。)
  2. ⑤弦の7フレット・ハーモニクスと⑥弦の5フレット・ハーモニクスが合うように,⑥弦を合わせる。
  3. ⑥弦の5フレット・ハーモニクスと①弦の開放弦が合うように合わせる。
  4. ②弦の7フレット・ハーモニクスと①弦の5フレット・ハーモニクスが合うように,②弦を合わせる。
  5. ⑤弦の7フレット・ハーモニクスと④弦の5フレット・ハーモニクスが合うように,④弦を合わせる。
  6. ④弦の7フレット・ハーモニクスと③弦の5フレット・ハーモニクスが合うように,③弦を合わせる。
⑤弦―⑥弦―①弦―②弦―④弦―③弦の順番で合わせた。誰に教わったわけではないが良く使われる方法と思う。基準が合えば⑤弦―⑥弦―①弦が一瞬で合う。その後の順番はこの通りでなくても良いが,誤差の伝播を考慮して,上下から攻めた方がよい。こうすると,2弦と3弦の間に誤差がたまる事になる。確認のため,③弦の4フレット・ハーモニクスと②弦の5フレット・ハーモニクスの合いぐあいを見る。これで正確に合うと,ホ短調純正チューニングになるわけである。いわば,オープンEmチューニングである。一般的な方法に勝手なネーミングははばかられるが,これを「速攻ホ短調チューニング」とでもいうことにする。この方法で合わせたチューニングは平均律チューニングと微妙に(3弦はかなり)違うのも以前述べた。

⑥③②①の開放弦はホ短調の純正な響きとなる。しかし,⑤④の2フレットを押さえてシとミを追加すると少し濁りが入る。むろん他の調では良くない。この方法で合わせたものを,うなりを聞きながら平均律に微調整するという方法もあるようだ。ここではそれはしない。「音律とギター(1)」等で述べてきたように,この方法では3弦が平均律よりも約2Hz(17.6セント)上がっている知識があれば安心である。

・平均律チューニング(標準的方法?)
これには,⑥弦の5フレットと⑤弦の開放などとで合わせる,教則本の最初に載っている方法(ただし,フレットが平均律と仮定)と電子チューナで6本とも合わせる方法。これらは一致するとして,平均律チューニングとする。

上で上げた速攻ホ短調チューニングと平均律チューニング,これら2つのチューニング方法での和音の濁り具合を検討してみる。純正からのずれをセントで表す。なお,本来セントと言う単位は,平均律の単位であり,半音を100セントとする。これで表すと,平均律では数字がすっきりし,純正率では半音が伸び縮みするので中途半端な数字となる。ここでは分かりやすくするため,これを逆に使う。また,フレッティングは完全な平均律で刻まれており,押弦による狂い等はないものとする。

速攻ホ短調チューニングにおけるEmのローポジション・コードの純正からのずれ
弦 フレット 純正からのずれ[セント]
0 0
0 0
0 0
2 -4
2 -4
0 0

平均律チューニング(6本ともチューナで合わせた)におけるEmのローポジション・コードの純正からのずれ
弦 フレット 純正からのずれ[セント]
0 -2
0 -4
0 -18
2 -2
2 -4
0 -2

押さえた分くるうとは言え,「速攻ホ短調チューニング」の方が平均律チューニングよりも響き的に優れていることがわかる。
チューナで合わせた後,和音を弾いた際の「しっくりこなさ」はこれだと思われる。もちろん,属七和音のB7や下属和音のAmも検討しないといけないのだが,面倒になってきたので,この辺でやめるが,5フレットセーハのAmはEmと同じことになるはずである。

どなたか,普通のフレッティングの楽器での,このようなチューニングの差による各種和音の響きの違いを比較検討されている方はいないだろうか?

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