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電子チューナ全盛 [雑感]

かつてギターを買うと調子笛なるものがついて来た。あれは精度が悪かったと思う。後から音叉を使い出して,なぜああいう品物があったのだろうか考えて見た。やはり初心者にはチューニングは難しい作業なのだろう。笛なら吹いている間音が持続し両手が空くから,やり易いのだろう。しかし殆ど使った記憶がない。かつては,TVやラジオの時報の音でラの音を合わせることができたし,電話の117の時報でも良かった。電話の発振音がソの音だったので,電話をかけなくても,携帯で手軽に利用できたが,なぜかこれが聞こえなくなり,TVはデジタル化のあおりで,時報はなくなった(デジタル放送は,少し遅れてしまうので)。私には,音叉をたたいて口にくわえ,5弦5Fハーモニクスで合わせるのが最も簡単でよい。共鳴箱のついた音叉ならば持続音が出るので,くわえなくても楽に合わせられる。これを基準に,他の弦もしっくりくるよう合わせる。

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クラシックギターはまだしも,エレキなどでチューニングのずれた音を大音量で聞かされるほど苦痛なことはない。上手い・下手は別として,まず正しい調弦は基本である。そこに救世主が現れた。電子クロマティックチューナの登場である(最近ではオートチューニングのロボットギターも現れた)。最近では,クリップタイプの小型のものが現れ,これを楽器のヘッドに取り付け,チューニングを目視するというスタイルが流行している。耳で聞き分けるのも困難な1セント程度の分解能で目視でチューニングが出来るのは画期的なことである。
guitar tuner by lok_lok05 with CC License Attrution

やーさんは,電子チューナ使用の非難は何も合理的な根拠がないと,断じておられたが,私は敢えて,電子チューナの氾濫を嘆くギター教師に,少しくみしたい。そのブログ自体読んでいないので,どのような非難なのかは知らないが,電子チューナ使用に関する私なりの疑問をあげてみる。これは,ケータイやビデオゲーム,電子辞書と共通の課題があると思う。これらの機器は当然,メリットが大きいので広く普及している訳だが,必ずモノには長所・短所がある。先日も新聞の投書欄に電子辞書の使用を前提とした授業はやめてもらいたいというのが載っていた。便利さを享受するのは良いが,何事も行きすぎはよくない。

(1)無いとチューニングが出来ないと言う,中毒的依存の問題
全面的に依存してしまうと,チューナを忘れた,電池が切れた,故障した等の際,困る。他の方法によるバックアップが必要である。もっとも,ワープロが無いとろくに漢字も書けない自分がいるのではあるが。

(2)チューニングに時間が掛かる
特に,6本ともチューナで合わせると,かなり時間がかかる。アンサンブルに好適とは言っても,使わない人はいらいらする。基準の1本をさっと合わせるのならば正確で良いが,2本以上合わせるのは賛同できない。

(3)6本をチューナで合わせても,これはあくまでも平均律の響き(ギター専用で弾く調にあわせた最適なチューニングできるものがあれば別)である
もちろん,大きくずれたものよりははるかによい。しかし,弾く調に合わせ,あるいは楽器のフレッティングにより,最大20セント程度は微調整が必要であり,これは音を聞くしかない。「正確な」平均律ですべて通すならば別だが,弾く調の響きを重視すれば,チューナで合わせてから,さらに微調整が必要であり,2度手間ではないか。

電子チューナのステージ上使用は,むしろプロのやることで,アマチュアは真似する必要はないと思う。長時間ステージで弾くと当然チューニングがずれる。これとて,演奏の合間などに調弦すればよいだけのことだが,基準がくるった場合,音叉を取り出すのはみっともないので,無駄な音を出さずすばやくやるのはプロの矜持と思う。この点は賛同できる。6本をチューナで合わせるプロはいないはず。プロはプロなり,アマはアマなりの使用法ということだろう。

コンクール出場者でも,大勢がつけているようだ。つけたほうが良い演奏になるのなら,それはそれで良いだろう。しかし電子チューナだけでは響きはコントロールできない(調ごとのイントネーションおよび楽器のくせまで入れば別)。コンクールに出るような,演奏家を志す人ならば,まず耳を鍛えるべきである。もちろん,すでに十分耳で調弦出来るようになっている人,および趣味として弾いている多くの愛好者は便利さを享受すればよいだろう。しかし,これから耳を鍛えなくてはならない学習者にはお勧めできない。ギター教師はこのことを危惧しているのではないだろうか?

必需品以外は購入しないけちな性格なため持っていない。便利さもあまり感じられないのである。便利なものが出てくれば,人間の機能の一部は退化するものである。慣れの問題かもしれないが,正確だというので人のを借りて合わせたが,♯マークがついているのに気づかず,全て半音高くチューニングしてしまって,しばらく気がつかなかった失敗がある。音叉ならば絶対にありえないことである。目の見えない人は音に敏感になる。視覚に頼れば,音には鈍感になるはずである。

福田進一さんは,かつてバッハのアルバムで,モダン楽器であるブーシェを439Hzでチューニングして,落ち着いた響きを出していた。バロックピッチは415Hzなので,もっと下げるのかと思ったが,基準音で1Hz,数セントの低下である。楽器のウルフの問題等あるので極端には変えられないのだろう。音を聞きながら,440Hzから439Hzに下げれば大概の人は分かるが,いきなり439Hzを聞いて一発で低いと感じる人は,殆どいないと思う。絶対音感のラベリング能力は,多少の誤差吸収作用があって成り立つ面がある。もし数セント程度の絶対音感があるとどの音楽も非常に気持ち悪くて聞いてられないはずだ。基準ピッチからのこのくらいの上げ下げを問題にするのであれば,電子チューナはかなり必需品と言うことだ。(音叉の音を基準にしてもやや下げ気味,やや上げ気味くらいで対応は可能とは思うが)。「このキーを押してください」といった電子辞書前提の授業ではないが,世の中が,いきなり「442Hzでやって下さいとか,443Hzでやってください」と言われるような時代になったらら使わざるを得ないだろう。それから,逆説的のようだがヴェルクマイスターやキルンベルガー,ミーントーンなどの古い音律を使う古楽関係の人たちにとっては,それらを扱える電子チューナは必需品のようである。

多勢に無勢の意見と認識している。使わない人間が気づかないメリットや便利さもあるのだろう。愛用されている方は,頑迷な意見と読み流してもらえばOKである。

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てですこ

私もチューナーはあまり使いません。持ってますけれど。
私は演奏前にごく小さな音で曲を弾きながら調弦します。
チューナーをヘッドに付けっぱなしで演奏されると、なぜか興ざめしてしまいます。
by てですこ (2009-07-06 22:52) 

Enrique

はい,基準をあわせた後(仮に,基準が少しくるっても,独奏なら問題無いと思います),弾く曲であわせるのが最もよいと思います。
慣れない楽器を使ったり,体調が悪いなどの,条件が悪いときは文明の利器の使用もいいかなと思います。
少数意見かと思っていましたが,持ってる人のコメントは重みがあります。
by Enrique (2009-07-07 09:58) 

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