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アマチュアが作れるパッシブレーダー [科学と技術一般]

IEEE Spectrumの11月号の"Hands On"で,「パッシブレーダー」の記事がありました。

SDR(ソフトウェア定義無線)というデバイスKrakenSDRが安価(399ドル)に販売されているので,これに電源とRaspberry Pi(小型安価なコンピュータ),2基のテレビ用八木アンテナと電源で,パッシブレーダーが作れるとの記事です。

通常電波の発信源を探ろうと思えば,受信機を繋いだ指向性の八木アンテナなどを回しながら探ることになります。しかし,KrakenSDRは同期が取れたRF入力を5ch持っているので,各信号間の演算により,無指向アンテナを5基用意してクルマの屋根などに付けて,電波源を探し当てられるのです(愛好家の間では"Fox Hunt"と言うようです)。

SDRを使って電波発信源を探るデモ動画。
位置を探るなどという事は,GoogleマップやAppleの探し物機能などで,現在ではさしたる感動もないわけですが,これは,インターネットと大手キャリア回線網に頼るわけではなくて,全く自前のお安い装置のみで発信源を探し当てられるのがミソです。

この記事のパッシブレーダーとは,本物のレーダーの様に電波の発信をする「アクティブレーダー」ではなくて,環境にあふれている電波を使います。筆者の居住地NYは「電波の万華鏡」状態で,利用できる電波に事欠かないとのことです。

SDRと安いTVアンテナを使って電波塔から来る直接波と飛行機などの対象物からの反射波を捉えてレーダーができる。
利用する電波は,TV電波が良いようです。FMの電波はアナログ変調なので,帯域内でふらつくのでよろしくないわけですが,TV電波はデジタル変調なので,帯域内にほぼ均等に拡散されていて測定用(参照電波)には良いわけです*。

FM局を選ばなければならない時は,「ヘビメタ」の音楽をやっている局を選ぶそうです。理由は電波帯域のスペクトルがホワイトノイズに近いから!だそうです**。

KrakenRF SDRとRaspberry Pi 4 [中央下] 両方はかなりの電力が必要なので,モバイルではUSB Cケーブル経由でバッテリー パック [上中央] が必要。Pi はデータリンクを介してSDRに接続,SDRは同軸ケーブルで2基の八木アンテナ [左右] に接続。
手作りパッシブレーダーには,高指向性の八木アンテナ2基を使えば,2chの利用で十分の様です。

放送局からの直接波と,信号の反射が到着するまでの時間との比較で,飛行機などの物体を検出し,それらの範囲を推定。2つの信号間の周波数シフトにより,物体の距離とアンテナの距離をプロット。右側のトレースは,飛行機が速度を上げながら遠ざかっていることを示す。
TV局からの直接波と目標物からの反射波の時間差とドップラー・シフト***を測定すれば,目標物の位置と速度が分かります。


*FM局は(当然AM局もそう),アナログ変調がなされてキャリア電波に乗せられる。変調とは設定されている数MHzの帯域幅内に基本周波数を偏移させることなので,放送内容に応じて偏移状態が異なることになる。アナログ変調では基本周波数偏移が放送内容に応じてふらつく。デジタル変調では予め周波数偏移が「区画整理」されているので放送内容にはあまり影響を受けない。
**アメリカでは特定の音楽専門のFM局が沢山。ヘビメタの音楽は電気信号的には雑音に近いので,周波数偏移が均等になって都合が良い。
***救急車の音の高さが変わるドップラー効果は電波にも発生する。これを測定して演算すれば移動速度を求めることができる。
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ロートレー

パッシブレーダー
野生動物の行動調査のための電波発信機と受信機の関係とは異なるようですね。
特定の飛行機の行動でもパッシブレーダーで追跡できるのでしょうか
by ロートレー (2022-12-15 15:26) 

Enrique

ロートレーさん,
対象物に電波発信機を付けておくのは多分「フォックスハント」というのだと思います。SDRの5chと5基の無指向性アンテナを使ってこちらの動画のやり方で追跡できるはずです。むしろこれが普通の使い方だと思います。ただし,電波が受信できる距離で追跡しないといけません。
「パッシブレーダー」は,実用的と言うよりも著者の趣味的な使い方です。いわゆるレーダーは対象物に電波を照射してそれを反射する金属物体の動向を探るものですが,こちらの装置は受信機のみですので,巷にあふれているTV電波などを照射電波に流用して,通りかかった飛行機の航行を追跡しようというものです。それにはTVの電波塔と同装置と飛行機の位置関係がうまくいった時のみです。電波塔側の八木アンテナは固定でいいですが,飛行機側の八木アンテナは多少向きの調整が必要だと思います。
「特定の飛行機の追跡」ですが,特定の機体を同定するにはその飛行機が発する特有の信号を傍受して追跡することになると思います。いわば飛行機のフォックスハントですが,機体の信号の周波数がわかったうえで(管制塔並みの)アンテナを工夫すればできると思います。
by Enrique (2022-12-16 06:46) 

ロートレー

詳細にご説明いただきありがとうございます。
他者が発信したエコー電波の反射波を第3者が利用するイメージでしょうか
発想がユニークですね^^
by ロートレー (2022-12-16 11:26) 

Enrique

ロートレーさん、
放送局が発射する電波は強力ですから、これを照射電波の代わりに使うというのは上手い方法だと思います。当然アマチュアでそんな強力な電波を出すわけは行きませんので。こういう安いデジタル処理できる装置が入手できると、色々応用ができると思います。
by Enrique (2022-12-16 19:43) 

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