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単位について〜リットルなど〜 [科学と技術一般]

単位に関するよもやま話を書いていますが,「リットル」に関してはあまり触れて来ませんでした。

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身近な単位です。いちおうメートル法上の単位と言うことで,SI単位系でも使って良い事にはなっていますが,あまり勧められていません。私自身も余り好ましくない単位だと思います。

なぜかと言うと,前回ちょろっと書きましたが,体積は長さの3乗ですから,SI単位系では立方メートル[m3]を使うべきなのです。しかしながら,1m3は1000リットルもあって大きすぎますが,かといって体積専用の組立単位ではないので,「ミリ立方メートル」とも出来ないからです。

何分,体積は長さの3乗ですから,長さで10倍すると体積は一挙に1000倍になってしまい使いにくい。その点リットルという体積専用の単位があれば,こいつにミリmやキロkの接頭語を付けて,1000分の1や1000倍も便利に扱えるという訳です。

いちおう,SI単位系では1L=1dm3と定義できるので,使って良い事になっています。[L]を使わずに,真面目に長さの単位でやろうとすると,もっと小さい刻みは,1cm3です。これの1000倍がリットルという訳です。ちなみに[cm3]の事を,かつては[cc]といいました。これはcubic centimetreですから,立方センチメートルと全く同じことを言っていますが,現在こういう表記は単位の表記としてはダメですが,かつてはよく使われ,便利だと思います。1000ccで1リットル。便利です。SI単位としてはよろしくないですが日常生活には問題ないでしょう。現在ではccは表記がダメで,[mL]が良く使われますが,表記としてはcm3なら問題ありません(むしろこちらが好ましい表記です)。

リットルを使ってもccを使っても1000倍読み替えれば良いだけですから,問題無いとは思われます。
1Lの水の重量は1kg,1ccなら1gというのも分かりやすくて,よく使われた理由でしょう。体積を長さで表わすと一辺が10倍で1000倍になってしまいますが,体積という新たな量で考えれば,重量と比例関係が成り立ちますが,長さ基準でやると3乗で体積から長さに戻す場合は立方根で面倒になります。

一般に単位が難しい!?と言われるのは,この辺の事情を言っているのでしょうか。

1 立方ミリメートル「正」= 1μL 1mm=1×10-3[m]を3乗しますから,10-9[m3] = 10-6[L]
1ミリ立方メートル「誤」 = 1L (間違いですが,もしそういう表現が許されるとしたら)
1立方センチメートル「正」= 1cc = 1mL
1センチ立方メートル「誤」= 10L (間違いですが,もしそういう表現が許されるとしたら)
  1立方デシメートル「正」=1L
  1デシ立方メートル「誤」= 100L (間違いですが,もしそういう表現が許されるとしたら)

 
SI単位系では質量の単位として[kg]が使われますから,1Lの水の重量がほぼ1kgという事とも相性が良さそうです。かつてcgs単位系が用いられた頃は,質量の単位として[g],長さの単位としての[cm]とも整合がとれたのでしょう。むろん近年の単位系の考え方では,単位を決めるのに水のような現物を使うのは正確さに欠けるので新たな定義としてはなされませんが,実用的には便利です。
その様な事情から体積の単位としてリットル[L]を使うのは,やぶさかでないのですが,非常に気になるのが,その表記です。

昔小学校では,筆記体のℓ記号を使うのだと徹底的に教え込まれました。デシリットルdℓも盛んに習いました。1デシリットルのカップの水を1リットルのカップに注ぐような退屈な実験をやったものでしたが,現在デシリットルは全く使われません。「リットル」が晴れて?SI単位系で許容されたためか,これにミリ[m]やキロ[k]を付けて表しても良いからでしょうが,体積が長さの3乗であることと3ケタ刻みの接頭語とがうまく符合します。デシリットルを使うなら,センチリットルも使っていいはずですが,どちらもあまり便利ではなさそうです。むしろ,1mL=1ccの関係が分かりやすくて良いでしょう。

許せないのが,表記のブレです。せっかくSI単位系で使用を認められてるのに,なぜここまで表記がブレるのでしょう?ちょいと身の回りを確認しただけでも,三通りの書き方があります。リットルの文字が昔の様に筆記体[ℓ]のもの,大文字L,小文字lです。あと㍑の様な書き方もあります。SI単位系では単位記号の大文字・小文字・書体は厳格に区別する事になっています。飲料の容量は日本のものは大概[ml]になっています。コロナワクチンの接種量も[ml]です。飲料水エビアンの表記は[mL]です。新聞で原油の記事では[kℓ]と書いています。どうも,単独だと数字の1やiの大文字との混同を避けるために大文字の[L],mやkの接頭語がつくと小文字の正体や昔小学校で習ったような筆記体となるようです。大文字小文字を厳格に区別する単位系で認められている単位でこんなバカな事は本来あり得ません。

混乱の原因は,
・本来SI単位系にそぐわないリットルと言う単位を認めたこと
・以前はリットルとして筆記体のℓを使っていたが,SI単位系の単位に斜体や筆記体は使わないので,正体の小文字を使った
  → 正体の小文字では,数字の1やiの大文字Iと区別しにくい。そもそもかつて筆記体を使ったのはその理由。
  → 正体の大文字Lを使えばその問題は無いが,組み立て単位にあてる人名を大文字で書くSIのルールに合わない(リットルは人名で無い)

下手にSI単位系の表記ルールに合わせようとしても,合いません。
いっその事,リットルは特別なヘンな単位だという事を強調する意味で従来の筆記体に戻したらどうかとも思います。あるいはリットルの単位の使用を強く主張した架空の「リットル氏」にちなんだネーミングで,厳格に大文字[L]にするか。それもだめなら,tでも補って[lt]ぐらいにするか?リットルに関しては「勝手にどうぞ」と逃げるか。現状では,L, l, ℓどれをとってもSI単位として使うには問題があります。


本来推奨でないリットルの単位表記の混乱のおかげで,真面目なSI単位系の表記にまで間違いが蔓延るのでは,本末転倒です。リットルの困った事情を知らない人には,単位全体が「大文字でも小文字でも良いんだ」とカンチガイされかねません。

単位表記の間違いの原因には,リットル単位表記の混乱を含め,以下の様な事情が絡んでいると考えます。

・上で述べた,本来はSI単位系にそぐわない,リットル表記のブレ
統一できないならリットルの使用は認めないくらいクギを刺さないとダメかもしれません。

・大文字小文字を区別しないネット検索の問題
それに慣れると,単位に限らず大文字小文字の感覚が無くなります。変てこなカンちがいを発生しかねません。

・英語のキャピタライゼーションとの混同
単位系のルールに馴染んでいない人が,英語の綴りのルールでやってしまいそうです。「真中や後ろに大文字が来ているのはヘンだ」と。

・テレビの4K,8Kなど,キロの意味で大文字を使う事がある事。
ただしこれは,本来のキロの1000倍の意味ではなく,210=1024倍を意味しています。データ容量においてもそうです。ただし,メガが1048576で, ギガGが1073741824で, テラTが1099511627776と10進数とのズレはどんどん広がるのに,SI単位系と同じ接頭語を用いている事自体問題を含みます。キロだけの問題でもなさそうですが,キロだけ小文字を大文字にするのはおかしいです。


単位の変更には反発があります。最も先進国であるはずのアメリカがヤード・ポンドにこだわるのも困ったものです。むろん,SI単位系を使わないと支障を来す学術分野と,無理にメートル法を使わなくても良い一般生活分野とを分ける考え方もありそうです。

データ容量のバイトにつける接頭語の問題も書きましたが,コンピュータ関連の寸法もヤード・インチ。3.5インチとか2.5インチのハーフ・インチとか。クリーンルームの埃の数が立方フィート当たりとか。技術分野にも食い込んでいるのも困ったものです。「そういうものだ」と思えばなんとかなるという側面もありますが,どうも使い慣れた単位というのも,言語とか宗教とかと似ている様に感じます。

何でも新しいものが良いとも限らないですし,むろんそれは古いものに関しても言えます。
世の中には慣用的な単位がゴマンとあります。変える事が目的化した様な変更はいただけませんが,不合理な単位を改めて合理的かつ便利な単位を使う姿勢は重要だと思います。

電磁気分野の様に,まともな単位系を使わないと根本から成り立たない分野もあれば,慣用単位の方が都合の良い分野もあります。事情を知り得ない他分野の人達にしたら,「何でそんな変な単位使うの?」てなものです。この辺がまず単位系の統一の難しさの一つでしょう。便利な慣用単位も取り込まないといけない反面,正確さとシンプルさを犠牲にしたらダメです。シンプルなルールですら守られ難いのですから,例外事項を認め出したらアウトです。「リットルぐらいどうってことない」とか言い出したら,収拾つきません。

単位に関しては,いくらでも書ける気がしてきました。歴史的な紆余曲折などを書き出したらしたら,キリがなさそうです。正確を期すると分かりにくくなりますし,分かりやすく書いたつもりで,誤解されるかも知れません。 余り本質的でない事にこだわっても仕方ありませんので,この辺でやめる事にします。
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ロートレー

周辺知識の豊かなEnriqueさんでなければ、展開できない完璧な解説記事です。
難しいですが、たどっていくと見えてくるものがあります。
保存版として、繰り返し読み返させていただきたいと思います。
確かに、航空機部品に使用されているインチの分数表示は馴染めませんね^^


by ロートレー (2022-09-02 07:13) 

Enrique

ロートレーさん,
単位は難しいものではないですが,一般には「難しい」と言われます。シンプルなルールに乗れば易しいのに,乗らない所が問題なのだと思います。
それと自分(や自分の業界)が(便利に)使っている単位が,基本単位から組み立てられているものだという発想が無い所が問題だと思います。
当方は電気の専門ですから,むしろSI単位でないと困るわけですが,業界ごとの利害が絡み,経済も絡んできます。アメリカの様に未だにヤードポンドを使い続ける大国もありますので弱小国は文句を言えませんし。まあ使いやすい寸法モジュールとしては残るのはいた仕方ないのかなと思います。長さ,質量など基本単位だけならいざ知らず,力や圧力などの組立単位にまで使われるといちいち換算が大変です。
by Enrique (2022-09-02 11:07) 

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