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ギターの再開と現状~ギターの認知度について~ [雑感]

当方,ご多分に漏れずというか,NHK教育テレビの「ギターをひこう」を見ながら開始しました。ここでいうギターはクラシック・ギター*です。多くに人にとって,ギターというとアコギだったりエレキだったりしますが,当方の場合はクラシック・ギターだったわけです。

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ピアノやヴァイオリン,チェロなどの楽器ですと主にクラシック音楽の楽器と一般の多くの方々に見なされていますが,ギターとなると,多くの場合ポピュラー系の扱いになってしまいます。ピアノや弦楽器,管楽器などのクラシックの楽器を紹介している書籍でさえ,ギターの画像はエレキだったりアコギだったりします。そういう例は枚挙にいとまがありませんので,一般の多くの方が,クラシックギターを正確に把握できないのも無理はないかもしれません。

楽器の事典

楽器の事典

  • 出版社/メーカー: ナツメ社
  • 発売日: 2009/07/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
いろんなクラシック楽器が並んでいる中,なぜかギターはエレキ。こういう例は少なくありません。
ヨーロッパでは主力の音楽大学にギター科があります。むろんクラシック・ギターです。かつて日本では音楽評論家でさえ,「ギターの事を知らない」と自慢げに言ったのだそうで**,濱田滋郎さんは,そういう評論家に対して,「ギターの事を知らなければ,音楽が分かるわけがないから,評論家を辞めなさい。」と言ったという話が,私が再開後現代ギター誌に載っていました。


クラシック・ギターをやっている人から見たら,アコギやエレキは全く別物の楽器で,19世紀のヨーロッパで普及したクラシックギターの先祖がアメリカに渡って変化したものです。これらの楽器で指弾きする人もいますが,主にピックでコード弾きや単音弾きの前提で,楽器が専門分化したものです。弦素材もガットからスチールに変化しています。そのためスチールギターとも言われます。これらの楽器でクラシック・ギターの曲を弾くことはできません。

クラシック・ギターは,19世紀のヨーロッパで普及した先祖の楽器をスペインの名工アントニオ・デ・トーレスが改良して,現在のクラシックギターの直接の原型になっています。高音弦の素材のガットは入手困難で高価なため,現在では似た丈夫な素材であるナイロンやフロロカーボンが用いられます。低音弦は,ナイロン繊維を束ねた芯線に銀メッキ銅線を巻いた巻弦です。昔は芯線が絹糸だっただけで大差ありません。指弾きで独奏が成り立つ多声音楽を弾くのが前提です。むろんアコギが得意なコードかき鳴らしやアルペジオ,単音メロディ弾きも出来ます。ただしこちらは指弾き専用であり,ピックを使う想定ではないので,クラシック・ギターでピックを使ってはなりません***。当初の弦素材名でガットギターとも言われます。


話を他のジャンルにまで広げてしまうと,発散して誤解を広げるだけですので,ここではクラシック・ギターに限定して話を進めます。クラギが軽視されてきた理由は,特に日本では,ウイーン古典派やそれ以降の交響曲などの音楽が「高尚な」クラシック音楽とされ,そこで用いられる楽器がクラシック音楽の楽器であり,そこにギターは無かったからでしょう。かつてなら,場末の流しのオジサンが弾く楽器のイメージを持つ人も少なくなかったかもしれません。ギターを使った歌謡曲として古賀メロディがありました。楽器としてのクラシック・ギターは場末の大衆楽器になったり,芸術音楽として見直されたりを繰り返してきました。

歴史をたどれば,太陽王ルイ14世(1638-1715)はギターをこよなく愛し,宮廷にギター教師ド・ヴィゼーを雇っていました。ド・ヴィゼーの作品は現在でもバロック期の重要レパートリーです。「禁じられた遊び」と言えば,アントニオ・ルビーラ作のメインテーマばかりが有名ですが,ド・ヴィゼーの組曲ニ短調から,サラバンドとブーレも効果的に使われています。


話を現代日本に戻せば,やはり村治佳織さんでしょう。平成年代の一大スター演奏家です。それまでのオジサン楽器のイメージを払拭して,クラシックギター界はもちろんの事,クラシック音楽以外のファンにまでクラシックギターの魅力と知識を伝えてくれました。

むろん昭和年代ではクラシックの有名オーケストラ曲をギター一本で弾いて見せるという山下和仁さんの超人的な芸もあったわけですが。


彼女の業績かどうかは別として,この頃「クラシック・ピアノ」とか,「クラシック・ヴァイオリン」という言い方も出て来た様に感じます。ギターほどではないにしても,ピアノもクラシックばかりではなくジャズもあればポピュラー音楽全般に使われます。ロック・ヴァイオリンだってありますから,クラシック音楽に使う伝統的な演奏法の事をそのように呼ぶのは,無理からぬ流れでしょう。何もクラシックギターばかりが特殊な分野でもなくなってきていると考えて良いでしょう。


*本ブログのタイトルは「クラシカル・ギター」で,この方が正確な呼び方だと思いますが,日本では「クラシック・ギター」の方が,通りが良いのでその様に書いています。
**ギターの事など知らない方が正統派だというヘンな思い上がりがあったのでしょう。
***「別に自分の楽器どう使おうが勝手」という方もいるかもしれませんが,表面板を痛めますので老婆心より。
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風神

そうでした、昔ガットって言ってました。素材もナイロンでしたね。
兄がガットギターを始めて、私も真似てアルペジオの練習などしていたんですが、不器用ですぐにピックで弾けるフォークの方へいっちゃいました。中2の私には、吉田拓郎さんの存在が大きかったのです。
by 風神 (2021-12-06 16:58) 

Enrique

楽器の種類を言うにはガットギターという呼び名は悪くないですね。現在はナイロンやフロロカーボンですが,大昔は本物のガットを使っていました。現在でもありますが非常に高価なため,敢えて使わないですね。現在フロロカーボン製のものの方がよりガットに近いと言われています。
当時和製フォークを当方も弾いてみました。申し訳ないですが,歌は余り好きになれず伴奏もC,G7,Fなどの3和音をかき鳴らすだけでしたので直ぐ飽きてしまいました。
by Enrique (2021-12-06 18:02) 

静謐な一日

初めまして。
スペインのマドリッドに行った時に、有名なギター専門店(クラシックギターとフラメンコギター製造販売の超有名店)を訪れたら、一番安いものでも4500ユーロでした。
とても手が出なかったです。
ところで私誰だか分かります?
後ほどモノホンで再訪予定です。村治佳織さんの記事にもコメントしました。
by 静謐な一日 (2021-12-06 18:47) 

U3

ガットのあの柔らかな音が良いですよ。
温かみがあって、心に滲みて人間の体の一部って感じがします。
by U3 (2021-12-06 19:04) 

枝動

こんばんは。
NHK教育でギターの講座番組があるんですね。
注釈も含めて解りやすい記事となっていて、面白かったです。
クラシカルギターの認知は、村治佳織さんの業績が大なんですね。
ふと、長谷川きよしさんを思い出したのですが、彼が使っていたのもクラシカルギターでしたよね。
by 枝動 (2021-12-06 23:17) 

oga.

私もヨーロッパに行った時に何か国かの楽器屋に入ったことがありますが、どこへ行ってもクラシックギターには「Made in Spain(または Echo en España)」と書かれていたのが印象的でした。スペイン以外の国でクラシックギターを作っているのは日本ぐらいじゃないかと思ってしまいました。ユーロのなかった時代なので、値段は覚えてません。

スペイン人と雑談する時に、Guitarra clasica(クラシックギターのこと)と言ったら全然理解してくれなくて、知人から「Guitarra Española(スペインのギター)」と言った方が通りが良いよと言われて、試してみたらそのとおりでした。それからずっとクラシックギターのことはGuitarra Españolaと言っています。

本物のガットは見たことないですね。セゴビアの弾くあのサウンドが、たぶん本物のガットなんでしょう。
by oga. (2021-12-06 23:40) 

Enrique

静謐な一日さん,
大変大人しいお名前です。
ベストを着込んで海外を闊歩される方だったかと。
ホセ・ラミレスは最も有名になったギター販売・ショップですね。
色々グレードがありますが,標準的なもので一時期日本で200万円くらいでしたが,現在はだいぶお安くなっています。
ちなみに私のメイン楽器もスペイン製のアルカンヘル・フェルナンデスです。
by Enrique (2021-12-07 06:53) 

Enrique

U3さん,
ガットの響きをお分かりとはコアな愛好家でいらっしゃいます。
この頃はヴァイオリンやチェロでも,スチール弦から元来のガット弦の響きを取り戻そうという動きがありますね。
by Enrique (2021-12-07 06:57) 

Enrique

枝動さん,
NHK教育で楽器のレッスンがあったのは,もう3・40年前の事です。その後,要望が強かったのかリバイバル的なものが少しありましたが,往時のものを全く再現できないままでした。きっと放送局も世の中も変化しているためでしょう。
長谷川きよしさんの楽器は,恐らく,「静謐な一日」さんのコメントにあるホセ・ラミレスのギターだったと思います。演奏はフラメンコギターの奏法でしたが,他のフォークギターの人とは全く一線を画す素晴らしい技術でした。
by Enrique (2021-12-07 07:06) 

Enrique

oga.さん,
数的には量産ギターでしょうね。
ラミレス始め,有名工房でも量産品を出していたりします。
当方が2010年に訪れたショパン音楽大学(ポーランドでトップの音大)のショールームには,マヌエル・ロドリゲス製の(おそらく)量産ギターが展示されていました。
https://classical-guitar.blog.ss-blog.jp/2010-10-13

日本でも一時期スペイン製が席巻していましたが,その後台湾,韓国,中国製になりました。

ヨーロッパでギターといえば大概スパニッシュギターだろうと思います。
手工品では各地に製作家がいます。イタリアでは大勢の製作家がいますし,イギリス,フランス他有名製作家がいます。
当方が所持する楽器だけでも,スペイン製の他,マヌエル・ベラスケス,ホセ・オリベといったアメリカ製,ホセ・ヤコピといったアルゼンチン製などあります。いずれも彼らはスペイン系ではありますが。

日本でクラシックギターと言っているのは,スパニッシュ・ギターのクラシコ型だろうと思います。むろんフラメンコ型も含まれます。

ポルトガルでは,ギター自体通用せず,ビオラと呼ばないとダメの様ですね。ギターというと,ポルトガル・ギターを指す様です。

ガットは現在でも入手できますが,試したことはありません。
本物のガットを想定したオールド楽器ならば使ってみる価値がありそうですが,私の所有楽器は古くても1960年代のものですから,ナイロンで十分かなと思っています。
by Enrique (2021-12-07 08:07) 

REIKO

確かに子供の頃、家にクラシック音楽のレコードがたくさんあった割には、ギターのはほとんどありませんでした。
でも私も「ギターをひこう」のおかげで、ギターのクラシック音楽の存在を中学生くらいには知ることができたのは良かったと思います。
ソルなんか古典派っぽくて、楽器が違うだけで後は同じだなと感じていました。

当時はギターといえばアコースティックなものを指し、電気の方にエレキをつけるのが普通でしたが、今は単にギターならエレキギターを指すようですね。
その代わり「アコギ」という言葉を良く目(耳)にするようになりました。
当方の電子ピアノには、ナイロン弦ギターとスチール弦ギターの音色が入っています。
でも小さな表示パネルに「ナイロンギター」と略して出ると、少々違和感があります(苦笑)。
by REIKO (2021-12-07 18:58) 

Enrique

REIKOさん,
クラシックギターはかなり特殊分野だったと思います。
ギター以外の方で,ソルを知っているというのは稀ですね。ソルはちゃんとした音楽家で,少なくともボッケリーニやパガニーニと同程度の作曲家だと思っています。両者ともにギター曲がありますが,ソルは専業だからかずっと優れています。もっともソルにもギター曲以外の,ピアノ曲オケ曲バレエ曲などの一般クラシック曲もありますが殆ど知られていません。
「アコースティックギター」というのはYAMAHAの商品名らしいですが,非常に誤解を招くネーミングです。昔は「フォークギター」と言ったものです。ドレッドノートのでかいやつは「ウェスタンギター」と言いました。それらをヤマハが「アコースティックギター」と名付けたのもまずい。商品名だと限定されれば良いのですが,一般名詞なので,意味的にはエレキでない生ギターの意味になります。そうするとクラシックギターやフラメンコギターも含めたエレキでない楽器の総称になってしまいます。しかし,ヤマハのネーミングの対象は,昔の「フォークギター」の事を指しているのがややこしいですね。
by Enrique (2021-12-07 21:00) 

oga.

スペイン人にとってのスパニッシュギター(Guitarra Española)ってのは、ひょっとしてフラメンコギターの方が1番に浮かぶのかもしれません。で、フラメンコギターが浮かんだところにクラシックだよと付け加えると「あ、あれか」と思ってくれるのか、あるいはちゃんと理解してないのかもしれませんが。

アコースティックギターってのは何とも微妙なワードです。今はすっかり、生ギター=アコースティックってのが違和感も感じながら「仕方ないかな」って気分になってます。

by oga. (2021-12-08 23:36) 

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