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合板とベニアと楽器について [楽器音響]

先日,松岡の楽器の記事でのコメント返答で,「ベニア」という言葉を使いました。

合板(ごうはん)の事をベニアとかべニア板(いた)とかいいます。

ただ,このベニア板というのも一種の和製英語で,合板の正しい英語表現はplywoodです。ベニア(Veneer)は薄くはいだ単板のことで,「突き板」と訳すのが正しいようです。ただこれまた誤解を招きかねない言葉で,日本では突き板というと,ほとんど肉を包む経木の様に1mm以下のものが多い様な気がしますが,海外のカタログなどでは数ミリのものでもVeneerと言っている様です。日本語では,ベニアというのは安価な薄い板を貼り合わせた合板という様な意味になってしまっていて,当方もその様に使っています。

本来の意味で使いますと,ギターの表面板くらいの厚みでもVeneerの範疇になってしまい,非常に紛らわしくなってしまいますので,誤解を避けるため本来の意味では使わない事にします。

松岡の中級機種に用いられている側・裏板はlaminateとされていました。積層板とでも言いましょうか?それと合板との違いは何でしょうか?

典型的な合板(plywood,俗にいうベニア板)は木目を直交させているところが大きな特徴でしょうか。 私がギターを始めた頃使ったローエンドの楽器では,表も裏も側面もその様な木材で作られた楽器でした。
音はそれなりですが,メリットもあります。中途半端な作られ方の単板楽器よりも故障が少ないことです。木材は典型的な異方性材料ですが,繊維を直交させて貼り合わせることで,等方的な材料となる事です。

それと,工業的にはこちらが重要でしょうが,木材を大根のかつらむきよろしく厚紙程度に薄くはいで,これを直交させて貼り合わせるわけですから,幾らでも安価に広い面積の板が作れます。現在建材等に広く使われている理由でもあります。

もちろん,木の変形が少ない分,大面積が接着剤で構成されるわけですから,木材本来の響きも消されてしまうわけです。半分合成の木だという事です。特に響きに最も影響する表面板がこれですと,音質はそれなりです。

表面板の次に音質に関わるのは側面ないし裏面です。ここがハカランダの単板材が最も珍重されるのはご承知の通りです。もともと良い楽器は,丸太をスプリットすなわち鉈で割った材を使うのが基本です。年輪に直交させてパンパン割るのですから屋根の葺き板(今は使わないでしょうが)のように柾目材になります。

しかし,そこまで大径木が得られなければ,ノコで挽いた板目材を使うしかありません。大径木は無いが人気の高いハカランダは,板目材が多かったのでは無いでしょうか。その点ハカランダと並んで広く使われたインディアン・ローズは大径木が容易に得られたのか,柾目のものがほとんどだったと思います。

松岡の中級機では決まってラミネート材が使われます。広い意味では合板ですが,繊維を直交させず,ほぼ平行のまま貼り合わせるところが異なります。それから,繊維を直交させる合板ですと,表裏の繊維の方向を合わせるために奇数枚数貼り合わせることが多いですが,平行のままですと,偶数枚数でも構わないわけで,2枚貼り合わせとなっているものと思います。

側板・裏板は表面板ほど大きくは振動しませんので,音質には二次的影響のみです。表板が直交させた合板を使っているものはもちろんのこと,表板が単板のものでも,側板・裏板に直交させた合板を使っているものもあると思います。表がローズなどの濃い目のごく薄い突き板で裏がそうでない板で構成されますので直ぐに分かります。

つごう,私なりに分類してみますと,
①最安楽器:表面板合板・側裏板合板(マホガニーなど色薄め*)
②次安楽器:表面板合板・側裏板合板(ローズなど色濃い目)
③やや良い:表面板単板・側裏板合板(ローズなど色濃い目)
④もう少し良い:表面板単板・側裏板ラミネート**(ローズなど色濃い目)
⑤標準的手工ギター:表面板単板・側裏板単板***

真面目に練習しようとすれば,③以上を求めるべきと思います。
なお,この分類はごく安い楽器側にフォーカスした分類で,高級楽器ですと,⑤の範疇での材質や構造の分類となって来ます。また製作家のネームバリューや製作年代などでお値段が大きく変わり,青天井になります。

松岡が中級品と言われたのは,①から⑤までのすべてのラインナップを揃えていたからだと思います。しかし,材質のグレードが異なるだけで,はずれのものを殆ど見た記憶がありません。

製作家の名前が記されるものは,⑤の総単板の楽器と見て良いですが,松岡や小平は量産楽器のネーミングですので最高級グレードに⑤を含むものの④以下のグレードのものも多く,河野や桜井,ホセ・ラミレスは大規模な工房であっても全グレード⑤の手工楽器の扱いとなります(ラミレスのエスチューディオ・グレードは知りません)。ヤマハも製作家の署名があるものは⑤と見て良いでしょう。

ちょっと分かりにくいのが,アランフェスとかアルハンブラ,エコールとか言ったネーミングの楽器ですが,たいがい名のある方の監修の下に製作された半手工楽器で,③から④くらいのグレード(⑤もあるかもしれません)だと思います。

第一次ギターブームの頃は旺盛な需要に答えるため,①~③グレードの楽器が量産されていたと思います。

なお,これはクラシックギターでの話です。アコギでも基本はそう違わないでしょうが少々変わるかもしれません。うちの妻でもそうなのですが,クラギとアコギの区別も良くつかない人や初心者の方が見たら,①の数千円の楽器も,数千万円のトーレスも全く区別がつかないと思います。関係ない方には全く必要の無い情報ですが,クラギをやる方は色んな楽器(ギター)を見ているとだんだん分かってくると思います。

なお,以上はたんに当方の経験から,数の出ている楽器の大雑把な分類について書きましたので,細部は異なっている可能性は十分あります。詳しい方のご批判をいただければと思います。

以下,注釈です。


*側裏板が白っぽいものでも,シープレスやメープルを使った楽器もあります。このような楽器は⑤以上ですので,この表には当てはまりません。
**名前は失念しましたが,側板・裏板にラミネート材を使う高級楽器もある様です。有名なラミレスIII世の1aは側板がハカランダとシープレスのラミネートです。
***表面板の次に音質に関わる側板裏板ですが,かつてハカランダの音色を求めるユーザーからは,スプルース/ハカランダというのが最も好まれた組み合わせだったと思います(当方もそうでしたが)。
現在,ローズウッドの資源が枯渇しかかっているせいか,新たな楽器には使えず,既に作られた楽器の取引も制限されている様です。
単板が良いというのは大枠では間違いではありませんが,ダブルトップの楽器の登場によって,よりによって最も音質に影響の大きい表面板がラミネートと合成素材とで形成されます。スプルースやシダーの極薄板でNomexハニカムというものをサンドイッチしたものを使います。これは単板のスプルースやシダーよりもさらに軽量で低損失な振動板にたどり着いた結果でしょう。もともとはスプルースだった表面板をシダー製に変えたのはラミレスIII世だったわけですが,その理由は,振動効率の向上だったようです。初期の記事で紹介したGuitar Acousticsというジャーナルのなかで,表面板の響きやすさ(ラウドネス指数Lなるもの)を測定しているデータがありました。その指数は,軽く損失が小さく音速の速い素材というものでした。天然木の素材ではWestern Red Cederが最大で890001960年産のEngelmann Spruceの49000を上回っていました。軽く損失が小さく音速の速い素材というものが天然木でWestern Red Cederが最大とすれば,これを超えるとなると人工素材しかないのでしょう。論文が出た当時はダブルトップは無かったと思われますが,ダブルトップが,他の特性が同じで質量だけが半分だとしてもこの指数は2倍になることになります。

補足:
よく,「この楽器は合板か単板か?」と聞かれることがありますが,表板含め総合板の楽器は新品で2,3万円以下の量産品であり,総単板の楽器は2,30万円以上の手工品。その間の多くの中級機は表板のみ単板で側板・裏板が合板ないしラミネートという楽器です。それともちろん,現在のダブルトップやラティスブレーシング構造の楽器は数百万円レベルの楽器の話になります。

リセール・バリューがあるのはほぼ⑤の範疇の楽器のみだと思います。④でも掘り出し物,もちろん⑤でもちょっとカンベンなものもありますし,中古楽器になりますと,当時の貨幣価値による判断が必要です。70年以前ですと,5万円でも総単板,ひょっとしたらハカランダ単板の楽器もあったと思います。それ以前の国産楽器ですと,素材というより楽器製作技術の問題になってくると思います。

表面板の側・裏面板の構造についてのみ書きましたが,もちろん⑤の範疇の楽器は製作家および用いられる素材によって大きく価値が異なります。他にも指板,ネック材,マシンヘッドのグレードなど,高級楽器にはそれなりのものが付くので,楽器のエバリュエーションの参考になる事もあります。
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EAST

ネットでスティール弦アコースティックギターのメーカーが使用している側板の合板の断面写真を見たことがありますが、3枚重ねで中心の基材とその両面に張る材は別の種類でした。両面に張る材は薄い化粧板のようでした。例えばローズウッド合板といっても、両面に張るのがローズウッドの板ですので、それが音にはあまり影響しないような気がします。上記の分類では③でしょうか。
注書きにもあるように工ギターでも、最近は④で製作する製作家もいるようです。うろ覚えですが、ラミネートの方が強度があるので、側板はラミネートとして振動を抑えることで、表面の振動を裏板が効率的に跳ね返す目的だったと聞いたことがあります。(太鼓の構造を参考?)この場合は単一種類の材を張り合わせるのかもしれません。製作には単板よりかえって手間がかかるようです。スティール弦では最も価格の高い、ある製作家は横板はラミネートだったはずです。実質的な範疇としては⑤同様でしょう。音は単板同様にその材の特徴がでるでしょうから、あまり気にする必要はないのかもしれません。
by EAST (2019-02-22 11:44) 

Enrique

EASTさん,ご指摘通りだと思います。
サイドとバックは余り音色に影響しないので,合板でもそれほど悪くないですし,むしろ剛性を高めるための工夫として使われている事もあるようです。そうなるともちろん⑤の分類ですね。
安くあげる為の合板化と,構造の改善としてのそれとは全くコンセプトの異なるものですので,単板だから良いという事にはならないですね。
スモールマンなどのラティスブレーシングばかりが注目が行きますが,バックはヴァイオリンの様に彫込みますし,サイドはラミネートだったかもしれません。サイドとバックは表面板の振動を支える為極力剛に作る。確かに太鼓の胴の様なものですので。
合板の話から,ローエンドからの分類に偏った分け方をしたので,本体は⑤の範疇の中で議論すべきですね。
by Enrique (2019-02-22 16:13) 

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