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クラシックギターと他のギターの相違 [雑感]

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この話題は時々取り上げますが,一応音楽関係者の妻などでもギターの違いが全くわからないと言います。こうも違うものを全く識別できないというのは,全く興味がないからなのでしょう。

   
  クラシックギター。
現在このトーレスタイプのみで形のバリエーションは無い。使用弦でガットギターと呼ばれることも。クラシック曲を指弾きするためのガット弦用の伝統的構造で軽い。ピックは使わないのでガードは無い。
  フォークギター。
現在ではアコースティックギターと呼ばれる事が多い。写真はドレッドノートタイプと呼ばれるもの。若干くびれの大きいものその他様々な形や色もある。使用弦でスチール弦ギターとも。パンダ目の様なピックガードがある。
 
 
何に例えたら良いのでしょうか?
ひらひら飛んでいるのは,チョウチョですが,興味のない人にとっては種類どころか蝶と蛾の区別もつかないでしょう。音楽にあまり興味のない人は楽器だけ見てもトランペットとコルネットの区別やオーボエとイングリッシュホルンの違いが分かるとは思えませんが,名前が異なりますので,名前の違いで別物だと認知されるのでしょう。

そこへ行くと,ギターの場合は何とかギターで,全てギターという名前がついているところが混同される大きな原因かもしれません。コントラバスがオリジナルだと思われるエレキ・ベースでもベース・ギターと言われたりもしました。どうも斜に構えて弓を使わずに弾く弦楽器で三味線でないものを大雑把にギターと称するのかも知れません。右の写真ではほぼ同縮尺でクラシックギターとフォークギターを並べていますが,使用弦の材質,ネックの太さ,ポジションマークの有無,ボディ接合部のフレットの位置,ボディの形状とサイズ,ヘッド,ブリッジの形状など,何から何まで異なっていて,演奏する者にとっては全く似て非なるものなのですが。

楽器ではないですが,音楽のジャンルについてもそれは言えます。かくいう私も,邦楽には色んな曲があっても,あまり区別がつきません。逆に邦楽好きな方がクラシック音楽を聴いても皆同じように聞こえるのだそうです。それもすごい話ですが,もう少しミクロに見れば,確かにヴィヴァルディは皆同じに聞こえても良いですし,バッハでもそうでしょう。モーツァルトも同じに聞こえるでしょう。新しいところではピアソラも聴きようによっては皆同じに聞こえます。

ギターの種類の話に戻ります。
現在のクラシックギター(Classical Guitar)は,19世紀後半にスペインのアントニオ・デ・トーレス(1817-1892)が確立した楽器のスタイルが原型になっていて,ほぼそのコピーと言って良いものです。アントニオ・ストラディバリ(1644-1737)などをその原型に持つヴァイオリンに比べて新しいですが,楽器そのものの歴史はそれよりも古く500年近い歴史を持っています。

ヴァイオリンがストラディバリのコピー以外無いのに比べ,主にポピュラー音楽に使われるタイプのギターはトーレス以前に先祖を持つところが面白いところで,それが楽器にヴァリエーションを生むきっかけになっていると思われます。

アコースティックギターというネーミングも随分と乱暴なもので,エレキギターが広まって来たため,旧来の電気を使わない楽器を区別するために出て来た名称です。アコースティックとは「音響の」という意味ですが,アンプを使わない生楽器という意味で使われています。そうならば,当然クラシックギターをも含むわけですが,何故か従来のスチール弦の「フォークギター」と呼ばれたものを指す様になっています。フォークブームの時代は去ったので,かっこいいネーミングという事でつけられたのだと想像します。

ラ・フォル・ジュルネ・オウ・ジャポンでクラシックギターが取り上げられたこともありますが,チェコの売れっ子イラストレーター氏とかが作ったポスターは,バッハにフォークギターを持たせており,見ていて恥ずかしくなりました。楽器百科事典の様なものでも,クラシックで使われる楽器に混ざってフォークギターが入れられていることもあり,用心しないといけません。

ざっと,以下にごく大雑把なギターの系譜を載せてみます。


ルネサンスギター(4コース複弦) ⇨ ハワイに渡ってウクレレに
     ⇩
バロックギター(5コース複弦)
ストラディヴァリ製のギターも存在
     ⇩
ロマンチックギター(19世紀ギター・6コース単弦)
ラコート*やシュタウファー**,パノルモ***など。⇨アメリカに渡ってフォークギターやエレキギター****に
     ⇩
モダンギター(6コース単弦)
アントニオ・デ・トーレス*****,現在のクラシックギターに

*ソルが用いたフランスの楽器
**ウィーンスタイルでシューベルトが使ったと言われています。「アルペジョーネ」は彼の製作です。
***ロンドンへ移住して,スペインスタイルで製作。
****マーチン社やギブソン社が有名。
*****タレガやアルカスが用いる。

ギターの多様性は,ヨーロッパ発のものが各地に伝播して,いくつかの分家が生じたのが原因だと思われます。調弦が同じ以外は,楽器の構造も奏法も全く異なるのですが,これほどヴァリエーションの多い楽器も珍しいのではないでしょうか。クラシックギターはナイロン弦(本来はガット弦)を用い指(一部自爪)で弾くのに対し,フォークギターやエレキギターは鉄線を用い,ピックを用いることが大きな違いでしょうか。楽器の構造も音楽や奏法により別進化を遂げています。したがって,フォークギターでモダンギターの曲はもちろんロマンチックギターの曲も弾くことは出来ません。ルネサンスギターから直系の進化をしているクラシックギターでは,バロックギターやロマンチックギターの曲を弾くことができます。

エレキギターはもちろんの事,スチール弦の楽器しても様々な色や形のヴァリエーションがありますが,クラシックギターの形は一種類のみです。クラギの人間にしたら,クラギとそれ以外の楽器と見るわけですが,その他の人たちからみたら,クラシックギターは様々な種類がある中の一品種と捉えられてしまうのも,分かりにくさの原因の一つなのでしょう。
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アヨアン・イゴカー

大変勉強になりました。何かをやる時に、無知はやはり最大の障害です。
中古で妻がとりあえず買っておこうと言って購入しておいてくれたギターですが、調弦が合わないので材木が乾燥したりして大きさが狂っているのだろうと思い込んで放置していました。
フォークギターではないとは思っていましたが、こちらで掲載されている写真を見るまで、クラシックギターだったとはまったく認識していませんでした。弦を買いに行って来ようと思います。
調弦ができれば(中古の安物なので、調弦できるかどうか不明ですが)、教則本を買ってくるつもりです。
by アヨアン・イゴカー (2017-03-19 16:52) 

lequiche

ギターは種類が多いですね。
クラシックギターのかたちをしているギターでも
フラメンコ用のもありますし、あと、レキントギターとか、
考え出すとキリがありません。

興味があるものに対しては区別がつくけれど
興味がないと皆同じに見えてしまいます。
私も演歌は皆同じ曲だと思っていますし、
プロ野球のチーム名を全部言えません。(笑)
by lequiche (2017-03-19 18:50) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,コメントありがとうございます。クラシックギターお持ちということ,楽しみですね。チェックポイントはネックの反りと弦高です。ネック曲がりはあまり無いと思いますが,古い楽器はたいがい表面板が膨らんで,弦高が高くなっていることが多いです。ボディとのジョイント部(12フレット)で弦高(弦の下部とフレット上端の隙間)が高音側で3mm,低音側で4mm程度が標準です。これ以上あると,経験者でも非常に弾きにくいです。普通はブリッジの骨棒を削って下げますが,調整し切れないケースも時々あります。
調弦が全く合わないということは滅多に無いと思います。
by Enrique (2017-03-19 19:41) 

Enrique

lequicheさん,コメントありがとうございます。クラシックはサイドとバックがローズで黒っぽいですが,フラメンコはサイドとバックがサイプレス(糸杉)製で白っぽいです。クラシックでも楓製のものは白っぽいので,区別がつきません。フラメンコの人でもクラシックギターを使う人もいます。その辺の微妙な間違いは許せますがフォークギターとの混同は困ります。昔フォークギターを渡されて,さあ弾けと言われた時は困りました。「弘法は筆を選ばず」とか,勝手なことを言います。無知は怖いものです。
なぜか演歌ではクラシックギターを使いますね。Reiさんのエレキギターの先祖はウィーンのシュタウファーですね。
by Enrique (2017-03-19 19:43) 

ushigomepan

この記事の間違い箇所;
「ヴァイオリンがストラディバリのコピー以外無い」
それと、最後の方にある、ギターは多様で分家云々、しかし
「調弦が同じ」

違うものを識別できないのは興味がないから説に従うなら、Enriqueさんはバイオリンに興味はなく、ギターにも興味がない。という事になります。
ギターに興味ないは言い過ぎかもですが少なくとも、ギターの形態の多様性についての興味あるいは知識はあっても、その実際の用いられ方には興味がないらしい、と読み取れます。

この記事、違うものを識別できないのは興味がないから説を、図らずも自ら示す格好になってますね。すごく雑な一般化をすると;
無知の知を得るのは難しい。

これは誰にとっても避けがたい落とし穴。いやむしろ、知識欲が旺盛な人ほど陥りやすい落とし穴かもですけど、他人の無知に憤りを覚えるのは何故か?これは興味深い問題です。

なお、
「Reiさんのエレキギターの先祖はウィーンのシュタウファー」
については、
「デカルト座標を発明したのはデカルト」
と言うのと似たような事かなと思います。あえて元祖探しをする必要性はないのに、なぜこの名をわざわざ持ち出すのかという。

私は一年ほど前にこちらのブログで音律の記事を見付け、参考になる内容が多かったので、以来定期的にROMさせてもらってます。なだけに今回の記事内容はちょっと残念でした。

『50の名器とアイテムで知る図説楽器の歴史』は私も読みましたが、著者のP.ウィルキンソン氏は音楽専門の人ではなく、そのせいか、私が気付けただけでも複数の疑義がありました。


by ushigomepan (2017-03-22 03:24) 

Enrique

ushigomepanさん,この記事では思いっきり大雑把な事を書いています。それを間違いだと言われると,楽器の常識が通用しなくなりますね。

現在のヴァイオリンはストラディヴァリのコピー,クラギはトーレスのコピー。トーレス以前の所からギターの分派が出た。こういう前提で書いています。ごちゃごちゃ言いだすときりがありませんので。調弦に関しても,いくらでも変えられますが,それを言い出したら収拾付かんでしょう。4度調弦くらいで同じと考えています。クラギとアコギの区別がつかない方々に,ごちゃごちゃ混乱を与える様な情報は入れるべきでないでしょう。そういう記事なのです。

マニアの方に全く物足りない記事なのは承知の上です。
間違いと指摘するのならば,皆さんにどこがどう違うのかはっきり分かるよう指摘して下さい。大雑把な議論に例外を指摘したって何の意味もありませんが,それすらせず間違い呼ばわりとはどういう了見なのでしょう。多様なギターが現れた理由をどう説明するのでしょう。「木を見て森を見ず」にはなりたくないものです。ひとりよがりではなく,多数の人に理解される様なコメントをお願いします。

ご指摘通り,記事が自家撞着しておれば良いではないですか?私の興味の範囲も分かると読み取っていらっしゃいますね。私もそのつもりで書いていますから,「図らずも」という指摘は当たりませんね。エレキ系の方だとお見受けしますが,正直そちらの使われ方には興味ございません。これはクラギのブログです。お分かりと思いますが,普通クラギの人はエレキ系に興味ありません。各人,こだわりの箇所があるかと思いますが,私は間違いだとは思いませんが,そうご指摘の2点で,ダメ記事とおっしゃるならばご自由にどうぞ。トーレス元祖とされるクラシックギターでも,色々細かな流派の違いはあり,近年かなり異なる構造のものも現れています。マニアならその辺に興味があるところでしょうが,何分それらは一切合切端折った記事だということにお気づき下さい。

なお,横レスにはご配慮いただけたらと思います。
シュタウファーの件,あなたにとっては「デカルト座標がデカルトが発明したと言っているの同じ」なのは分かりましたが,御説が大多数の読者に通用するとは思えません。Reiさんの件に関してはlequicheさんの記事を見て,抱えているギターのヘッドがシュタウファーのそれなのでlequicheさんのへのコメントに書きました。私はReiさんもその楽器の事も知りませんでした。lequicheさんの記事との関連に少し気を配って頂ければ理解いただけたものと思います。同記事とこの記事を読んだ読者の方で,あなたのご意見が納得できる方はごく少数だと思います。この記事はあなた用の記事では無いことにどうぞお気づきください。

この記事は,自分の見解を開陳すると言うよりも,広く一般に,せめて,クラシックギターとフォークギター(アコースティックギター)の違いを知ってもらいたいというサービスの積りで書いています。ご注文を付けられるのは結構ですが,ぜひご自身の見解や記事もリンクしていただくと幸甚ですね。

書籍や記事に間違いはつきものだと思います。それが論点に影響するならばしっかり正す必要がありますが,そうでない場合に細部つついても時間の無駄ということもあります。
by Enrique (2017-03-22 22:30) 

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