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ネックの補強について~バイメタル効果・材の膨張率・補強と補償~ [楽器音響]

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昨年来,ネックの補強について,2つほど記事を書きました。1つ目では,黒檀の補強は,強度としてはさほど効果は出ていないという結論でした

しかし,入っている楽器で曲がっているものをあまり見ません。
これは,強度と言うよりも膨張率の差で説明できそうです。

また,先週の2つめの記事は,クラシカル楽器では余り使われないトラスロッドの話題でしたが,EASTさんからコメントを頂きました。乾燥で順反りもあると。

何を言っているか分からないという方もいらっしゃるかも知れませんので,解説を試みます。


昔の電気こたつなどの暖房器具にはバイメタルという一種の温度センサーが付いていました。これは2種類の熱膨張率の異なる金属板を貼り合わせたものです。常温で真っ直ぐだとしても,温度が上がると膨張率の小さい方向に曲がります。

これをスイッチにしておけば,温度が上がり過ぎると,自動的にスイッチが切れ,温度が下がるとまたスイッチが入ると言う仕組みが出来ます。半導体などが普及する以前は,これがON/OFF制御という最も原始的な温度制御に使われたものです。

膨張率の異なる2材料を貼り合わせた際のポイントは膨張率の差です。上の図では,銅(Copper)と鉄(Iron)とが張り合わされています。温度が上がると,銅の方が膨張率が大きいので,銅側が伸びて鉄側に反り,スイッチが切れる仕組みです。温度が下がれば復帰してまたスイッチが入ります。

このように異種材が張り合わされた梁が膨張率の差で曲がる現象をバイメタル効果と言います。ギターのネックの反りも,この理屈で説明できるわけです。


ギターのネックは木材ですが,クラシカル楽器では指板は黒檀,ネック自体はマホガニーです。木材の場合は温度というよりも湿度により伸び縮みします。黒檀もマホガニーいずれも寸法安定性の良い材質で,いずれも他の木材よりも湿度による膨張収縮率は小さいものですが,収縮率の絶対値はマホガニーの方がやや小さく(柾目方向:0.13%,板目方向0.19%)黒檀がやや大きい(同0.19%,同0.32%)ようですので,順当に行けば乾燥により,黒檀側に反る順ぞりとなります。EASTさんが指摘されていたのは,この事でした。

順反りと言うのは,弦の張力で引っ張られる方向と合っていると言うことです。
一方逆反りもあり得ます。真っ直ぐな状態の時よりも,湿度が上って黒檀部分が膨張もしくは,マホガニー部分の膨張が少なければ,マホガニー側に反ります。これは弦で引っ張られる方向と逆方向になりますので,逆反りと言うようです。

従って,膨張率差で行けば,順当には,

湿度が上がると逆反り
湿度が下がると順反り

ということです。理屈から先日のEASTさんのご指摘(乾燥で順反り)通りでした。私は膨張率差を逆に感じていたようで,どうもその原因は吸水乾燥の速度によるものではないか思います。黒檀の方が収縮率はやや大きいのですが,吸水乾燥速度は遅そうです。従って十分時間を掛ければ上の結論になりますが,ネックのマホガニー部分が湿度の反応が速ければ,逆もあり得ると感じる次第です。

順反り・逆反りいずれにしろ,黒檀による補強は強度というよりも,表面から裏まで同一の素材が貫いていることが重要のようです。これによりバイメタル効果を防いでいる訳です。従って,これは補強材というよりも,補償材とでも言った方が適切なのかもしれません。さらには,河野/桜井の楽器では2本入っている理由は,バイメタル効果の補償のみならず,ネックのねじれを防ぐ意味もあるのだそうです。その効果をここで証明する事は困難ですが,ベラスケスの言では,マホガニーは大変ねじれやすい材との事ですので,狙いとしては適切なのかもしれません。

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コメント 4

EAST

私の聞いた話に、論理的な分析をいただきありがとうございます。
ただ、最初のEnriqueさんの記載の通り、一般的には湿度の高い夏場はネックが順反りし易く、湿度の低い冬場は逆反りし易いのではないでしょうか。この記事を読んで、通常の状態では吸水乾燥速度の影響が大きく、乾燥の程度が進むと、塗装の有無や外気に接する面積の影響なのか、膨張率差の影響が強くなるのかと思いました。素人の感覚的なものですが。
補償剤とは的を得た表現ではないでしょうか。反りについては効果が期待できますし、2本使うことでねじれ防止にもなっているのですね。
20年ぐらい前だったと思いますが、ギターショップの店員に、ネックはねじれることもあるので、ギターを選ぶときにはネックの木目が真直ぐなものを選ぶべきと教わったことがありました。
by EAST (2017-01-24 17:41) 

Enrique

EASTさん,ありがとうございます。
ネックの曲がりに関しては,あまりきちんと考えた事が無いまま以前の記事を書きました。バイメタル効果は感じていましたが,収縮具合を逆に感じていました。いずれの木材も膨張率の小さいものが選ばれていますが,エレキなどの楽器のローズだとかなり大きくなりますね。
黒檀は吸水とか乾燥は非常に遅いようではあります。黒檀の方が収縮率はやや大きいので挙動は複雑ではあるでしょうね。
黒檀の年輪方向の痩せ(と太り)は結構大きいようですね。フレットが飛び出してひっかかったり,引っ込んで見える事があります。
あと,ネックのねじれは厄介ですね。そういう意味でも黒檀材を入れる意味はあると再認識した次第です。ネックはやや重くなりますがね。
by Enrique (2017-01-24 21:12) 

アヨアン・イゴカー

 バイメタルと言うと、ランプの点滅用スイッチのようなものに使われていた記憶があります。白熱電球のソケットの中にいれてスイッチを入れると、自動的に少し不規則に電気が点いたり消えたりするので、炎の効果を出すために劇団時代に使われているのを見たような記憶があります。
 バイオリンやチェロの場合ですと、ペグを押し込んで固定している穴の部分が乾燥、(温度も木の膨張に多少影響するのでしょうか)で緩くなってしまって、音程が極端に下がってしまうということを何度か経験しました。気温が低くなった日にも経験したので、温度による膨張率の違いもあるのかと思いましたが、実際どうなのでしょう。
by アヨアン・イゴカー (2017-01-24 23:01) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
クリスマスツリーの点滅などもバイメタルでやっていたと思います。
本題の楽器のほうですが,木材を長期間で見た場合の膨張収縮は,湿度によるものと考えましたが,確かに温度変化による膨張収縮もあります。むしろ,温度変化に対する応答は,あまり時間が掛からずに効くはずですから,実感にも効いてくるかも知れません。
湿度,温度,その応答速度等,整理しないと断定できない気がして来ました。
by Enrique (2017-01-25 11:08) 

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