SSブログ

「絵の出るレコード」の憂鬱 [電気音響]

「絵の出るレコード」は,たしか,中学の頃の「子供の科学」に載っていた記事でした。もちろん,現在ならDVDやBDですし,一昔前ならLDでした。当時まだCDも無く,黒い盤のレコードだけの時代ですから,それから絵が出るというのは画期的なことだと思いました。でもずいぶん先の話だろうな~と,ぼやっ〜と思っていたものでした。

音声は周波数がせいぜい20kHzまでですから,音をちょっと加工して溝にきざめばそのまま保存できました。エジソンの蓄音機と原理的に変わりません。媒体形状と電気仕掛けなところが違うだけでした。
それに比べ,動画像の信号は日本などのテレビ方式(NTSC)でも6MHzに及びますから,300倍もの情報量になります。仮にレコードの走行方向の刻みを3倍細かくしたとしても,100倍の回転数(33000回転!)で回さないといけません。まず機械的にムリです。仮に可能だとしても30分のLPでも18秒しか再生できません。

レコードよりも先にテープレコーダがビデオ信号の記録に成功していました。レコードと同様に良いテープを開発して記録される磁石を1/3に細かくしても,テープの送り速度を100倍速くしないといけません。これは絶対に出来ません。そこで開発されたのが,画期的な回転ヘッド方式でした。テープはゆっくり走行させますが,記録再生ヘッドの方を高速回転させて,相対速度を稼ぎます。ひとこすりで1枚(ワンフレーム分)の静止画を記録していました。テープ上に画像信号が,斜めに細かく記録される事になります。

絵の出るレコードはもとRCAの技術で,CED(針とディスク間の静電容量の変化で再生する方式;強いて例えればコンデンサマイクのようなものでしょうか)と呼ばれたもので,その実用化は並大抵なことでは無く,遂に名門会社をつぶしてしまったのでした。後に日本ビクターが開発したVHDも原理的には同じでした。パイオニアが非接触光学読み出しのレーザーディスク(LD)を開発しDVDが出るまで主流であったことは,記憶に新しいところです。
音声というのは,時間軸上の1次元データですから,レコードに刻むにも,ラジオ波に載せるにも,割とそのまま自然に出来ます。ステレオ音声でもちょっとした工夫で2信号送ることも出来ます。

それに対し,画像は2次元のデータですから,もうすこし工夫が必要です。画像をびっしり一筆書きにしたものを1次元データに延ばし,それを受像機側でまた元に戻さないといけません。そこにはかなり人為的な取り決めが入ります。絵の細かさ一つとっても,余りに細かくしすぎても電波帯域を沢山食ってしまいチャンネル数が少なくなりますし,受像機がべらぼーに高くなってしまっては普及しません。

そこに1枚の画像を何本の走査線で構成するかとか,1秒間に何枚の絵を送るかといったTV方式の違いが出てきます。その上で,さらに明るさや色を電気信号上でどう表わすかといった細かな技術仕様があります。方式が違えば互換性はまったくありません(専用の特殊な装置を用意すれば変換は可能ですが)。世界中で1方式のみなら平和なのですが,必ずいくつか出てきて,どの方式を採用するか(しないか)は,高度に政治的でタフなネゴになるようです。
アナログ時代の世界のTV方式は,NTSC,PAL,SECAMの三方式で,日本はアメリカで開発されたNTSCでした。ベータやVHSのホームビデオは,TV信号をそのまま記録していますので,TV方式が一致していれば見られます。ですからアメリカで買ったホームビデオは日本でも見られます。LDも大丈夫なはずです。

しかし,アメリカのDVDはダメです。TV方式とは別に,DVDの規格策定の際,映画ソフト業界からの強い働きかけにより,リージョンコードというもので分けられてしまいました。アメリカはリージョン1,日本などはリージョン2なので,TV方式が共通であっても人為的に見られなくされました。ヨーロッパも2なので,ヨーロッパ製のDVDが日本で見られるかというと,今度はTV方式が違って見られません。わざとやられているのでどうしようもありません。ただしヨーロッパ製DVDは,パソコン上でなら,TV方式の違いを吸収できますので大丈夫のはずです。

なぜ,DVDになって変なものが導入されたかといえば,ソフトは国や地域間での価格差の大きい商品ですから,それに伴う業界の利益損失を防止するという,全く供給側の都合のようです。それから,VHSなどのアナログ記録では信号を下手にいじれないので,したくても出来なかったのが,デジタル記録になり,そういうコントロールが技術的に容易になったこともその原因にあげられます。

機器の普及のためには,変な制限を設けない方がいいに決まっているのですが,BD(ブルーレイディスク)でもやはり映画ソフト業界からの強い働きかけで,リージョンコードが入れられました。これはDVDとはまた地域分けが異なるようです。以下,これらの媒体が日本で掛るか掛らないかを表にまとめてみました。なお,これは公式情報に基づく既製品のソフトの再生に関してであり,DVR-RやRW,BD-RやREなどで焼いたディスクの互換問題とは別です。それから,小細工するなら何でもありですが,リージョンコードを無視するような国際的?なドライブや,超法規的?なソフトウェア等に関しては,よく知りませんのでここでは触れません。

外国の既製画像媒体が掛かるかどうか
国\媒体 VHS DVD BD
US
× △**
ヨーロッパ
× △* ×
中国
× × ×
韓国
× △**


VHSなどの時代は,TV方式の違いだけでまだ平和だったのですが,DVDでも,BDでも人為的なリージョン・コードが入れられてしまいました。現在,TV方式もリージョンコードも一致する国はありませんので,まず掛からないと見た方が安全でしょう。TV方式の採用に関しては各国のプライドや政治的思惑にも関わるようで,近隣国がたいがい割れてしまいます。デジタル化は世界の方式統一のチャンスだったのですが,やはりというか,困った事にというか,アナログ時代以上に割れてしまいました(アメリカ,欧州,日本方式に加え,韓国方式,中国方式など)。日本の地デジ方式は,純粋版は日本だけ,日本方式派生版が南米全域とフィリピンだけという,絶海の孤島状態になってしまいました。

もっとも,デジタルTV方式は割れてしまいましたが,パソコン上で各種の形式の動画が見られたり,相互変換可能なことからも分かるように,どの方式でも映るデジタル・テレビを作ることは技術的にさほど困難ではなさそうですが,やはり政治的な問題と業界の体質の問題のようです。
*パソコンでのみ視聴可能と思われます。
**アメリカや韓国のBDは日本とリージョンコードは同じですが,デジタルTV方式が異なりますので,パソコン上ではOKでも,TVで映像も音声もうまく再生されるかどうかは分かりません。

nice!(5)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 5

コメント 2

Cecilia

昔見たBBCの「シェイクスピア劇場」のことで記事を書いたことがありますがDVDが出ていることを知りました。いろいろな方からコメントをいただき、リージョンコードという言葉を知りました。詳しいことがわからない者にとってはまったく面倒なものでしかありません。これさえなければ海外のDVDでほしいものがたくさんあるのに、と思います。
そういえば姉がアメリカに住んでいたときにあちらのビデオ(主にディズニーですがポケモンもありました。)をお土産でよくもらいました。

by Cecilia (2011-09-25 09:33) 

Enrique

Ceciliaさん,nice&コメント有り難うございます。
リージョンコードに関してはわざとやられているので,困りますね。VHSなどのアナログビデオの時代ならば,TV方式の違いだけでしたので,まだ良かったのですが,リージョンコードによって海外媒体は実質上ほぼダメな状態になっていしまいました。DVDは海外のお土産にはならないですね。技術が進んだといってもこれは全く人を不便にする技術ですね。
by Enrique (2011-09-25 11:39) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。