ブリームについて [雑感]
ジュリアン・ブリームは現在活動を休止しているようだが,好きな演奏家である。私の学生時代は全盛期だった。ビラ=ロボスの12の練習曲の録音など,正に完璧な演奏だった。その後聞いた山下さんの2度にわたる録音もすごいが,ブリームのはまさにお手本,繊細にして豪放,かなり即興的に書いたと思われるこの練習曲が,芸術作品として光り輝いた。ショパンの練習曲にも並び称されるというのは,この演奏を聴けば納得できる。名演奏をもって楽曲の良さが再認識される好例ではなかったかと思う。
さて,ブリームに関していろいろ書きたいこともあるのだが,その音楽とは全く関係のないところで,学生時代からひっかかっている事柄がある。ここで吐き出してしまって,肩の荷を降ろしたい。
というのは,その名前に関してである。すしネタの鯛はsea breamである。ならばブリームさんは,日本名では「鯛」さんなのかというと,これが違う。わざわざseaとつける訳だから,真のbreamがいるはずである。
学生時代読んだアイザック・ウォルトンの「釣魚大全」には川魚のことが書かれていたが,ここにブリームが登場する。訳者森秀人さんは,これを平鮒(へらぶな)と訳している。大ギタリストは「ヘラブナ」さんだったのか?この魚は釣魚の対象としてはすばらしいもので,日本では「ヘラブナに始まってヘラブナに終わる」という格言があるくらい,奥深い釣り(らしい)。道具立てにも,ブーシェやロマニリョスに負けず劣らずの高価な竹竿などが存在するのである。
当方も釣りはたしなみ,滞米中も魚介タンパクの摂取を補うため,ダム湖でバスやブルーギルを釣っていた。しかし,ヘラブナはやらない。釣りの奥義には立ち入っていないわけだ。ヘラブナは食べられない。釣魚専用魚なのである。真ブナ始め他のフナは食べられる。琵琶湖のニゴロブナはフナ寿司でおなじみのもの。
どうも,英名のブリームは体高の高い魚を総称しているようだ。だから川にいるフナと思しき魚をriver breamと言ったりもする。ちなみにファーストネームの方はシーザーにちなんだ名前というのはすぐ気づくだろう。蛇足ながら,ブリームがアイザック・ウォルトンならぬ,作曲家ウィリアム・ウォルトンと2人3脚で名曲を生み出したのは,まさかジョークではないだろう。
コメント 0