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Marcin Dylla のAranjuez [演奏批評]

Marcin Dyllaはポーランド出身の若手ギタリストですが,最近彼の演奏をYouTubeで視聴しました。 中々素晴らしい,ほぼ非の打ち所の無い演奏です。

指揮者は見当たらず,Dyllaが指揮的な動作をしている様には見えませんが,オケの団員が注意深く彼の演奏を聞きながら合わせている様子です。

この曲にケチをつけてセゴビアが弾かなかったのは有名ですし,当時マドリード音楽院のギター科教授だったレヒーノ.S.デラマーサと言えど,1940年の初演時はやっとこさの演奏だったらしいです。指揮のアルヘンタが見いだしたイエペスとの1958年の演奏で何とか聞ける演奏になったのではないでしょうか。日本人の録音は1979年の山下和仁さんまで待たないといけませんでした。

このブログの開始直後には,YouTube上にあったアランフェスの聞き比べをしていました。案外フラメンコギターのパコ・デ・ルシアのものもなかなか軽快で良いとか書いています。

いやな聴き方ですが,どうしても技術的難所に目(耳)が行ってしまいます。
第二楽章のカデンツァ最後のオケに渡すところのラスゲアードが⑥弦の消音をしていないようです。ここを楽譜通り弾いたのはジョンとブリームくらいと過去の記事では書いています。⑥弦を消音しないと,ベース音として1オクターブ低い開放弦のミが鳴り響いてしまいます。ミは和音の構成音には含まれますが,特に重要な音には思えません。殆どの奏者は,楽譜に書かれていない6弦開放弦のミを鳴らしまくっています。完璧に見えるMarcin Dyllaの演奏でも,ここは6弦の消音は行わず開放弦のミは鳴っているようです。

オケに負けない様に,渾身の力でかき鳴らす必要があるにも拘らず,楽譜通りに弾こうとすると6弦を消音しないといけないという,大変な難所です。オケに負けない様に弾くならば,とても6弦の消音などしていられませんし,逆に6弦を消音すると大きく手を振れませんから,指定の激しい最大音量のラスゲアードは出来ません。

ロドリーゴの指定では,軽い響きでの最大音量を求めていますので,ブレーキとアクセルを両方踏めと言っているようなもので楽器の改造でもしない限りその両立は困難です。音量をとるか,指定通りの和音をとるかの選択が迫られます。Marcin Dyllaも前者をとっています。

さらに作曲当時には無かったレイズド・フィンガーボードの楽器を使っています。これで超ハイポジションがすごく楽になり演奏にも余裕がでると思いますし,ギターやらない人は気がつかないので彼は賢いですね。かつてスーフェイ・ヤンがロンドンで演奏した時,ボディがエレキの様にえぐれた楽器を使っていましたが,あれではバレバレです。

ここに限らずでしょうが,ヒステリックで演奏困難な曲とセゴビアが嫌ったのも分からないでもありません。ギターをなるべくエレガントに扱いたい彼の美意識と相容れなかったのだろうと思います。

第二楽章の有名なカンタービレの後半,「シラシー」に付くバスのソ(普通はオクターブ上げて③弦開放)を楽譜どおり⑥弦でとっているのは驚異的です。どんだけデカイ手でしょうか。
敢て言えば,第一楽章冒頭のラスゲアードは軽く消音して歯切れよく弾いた方が好きかなとか。
それにしても,安心して楽しめるアランフェスです。


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芝桜

こんにちは。
私、実はイエペスファンなんです。と言うより音楽家、演奏家として尊敬しています。
そこで、イエペスの名誉に関わることなので(大それたことですが)ラスゲアードの部分についてお話したいと思います。
先ず根本的に言えることは、クラシックギタリストでラスゲアードをマスターしている人は少ないです。イエペスは小指、薬指、中指、人差指で一方向にラスゲアードをしてますので、手の甲を動かす必要性がほとんど無いんです。したがって確実に5弦から打ち鳴らすことが出来るんです。他のギタリストは1本指を上下させて(手首を使って)弾くので間違って6弦を鳴らしてしまうんです。さらに消音についてはセーハしている人差指の先端を6弦に触れさせておけば、右手で消音する必要はありません。YOUTUBEを見る限り、想像ですがイエペスも(念のため)そうしていると思います。
ところで、この演奏家は素晴らしいですねえ。久々に音楽的なアランフェスを聴かせていただきました。ありがとうございました。オーケストラの音が大きくなりがちなので指揮者はいないほうが良いですね。
by 芝桜 (2015-03-18 15:15) 

Enrique

芝桜さん,ありがとうございます。
イエペスは私も嫌いではありません。アランフェスをまともに聞かせられるようになったのはイエペスの実力でしょうし。ただ昔から悪く言う人は結構います。
イエペスのここの部分は観察していないので,どう解決しているか興味深いところで良く聞いてみないといけないと思います。弟子の芳志戸幹雄さんはおっしゃる様な弾き方をしていた様にも記憶します。消音に関しては,10弦だと更に困難だと思います。
ここは,ラスゲアードの指定ですが,⑥弦を全く鳴らさないのは常人には無理だと思いますので,ジョンとブリームがやっている右手の親指で消音(フラメンコのセコ)が現実的かなと思いますが,音量と速度は出にくいです。ここのトレモロ的な高音のラーソ#ーラー・ソ#ーラーソ#をはっきり出すには,往復も良いかなとは思います。
ロドリーゴはギターの奏法に関しては全く分かっていないので,ギタリストは個々に解を出す必要があると思います。殆どの奏者は間違って鳴らすというよりも思いっきり鳴らしていると思います。
by Enrique (2015-03-18 20:54) 

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