演奏用の椅子について [演奏技術]
ピアノの演奏に事務椅子などを用意したら顰蹙・噴飯ものでしょうが,クラシックギターの演奏には事務用の折りたたみ椅子などがあてがわれることがあります。
以前とりあげた76年の芳志戸幹雄のNHKテキストの別件のコラムに書かれていた椅子の件を,思い出しました。
ーー 演奏姿勢と足台 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このテキストの初めの方で,姿勢および足台について説明しまいたが,その大切さについて私の場合を書いてみます。
私は,高さの調節できるピアノ椅子と,同じく高低の調節できる足台を使用しており,これ等の高さは,靴を履いている時と,そうでない場合の2種類を常に決めています(コンサートではく靴のカカトは,大体同じ高さにしています。
したがって,何らかの事情でやむをえず,自分のきめている高さと違う椅子や足台でギターを弾きますと,非常に疲れやすく,また演奏ものることが難しくなります。
演奏する場所によっては,高さの調節できない椅子しか置いてないことがあります。その椅子が私に合わない場合,長時間演奏しますと,弾き終わってしばらくして,体の一部が凝って痛くなったり,いつものコンサートより疲労が大きいという事を味わいます。
以上のように,椅子と足台の高さというものは,ギターを演奏する場合に,微妙にして大変重要なことですので,自分自身に最も合った高さを知るべく,努力が必要です。
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とありました。47年前の氏のフォームと現在主流のものとでは少し変化していますが,足台と椅子の高さに関する記述は,現在でも全く同じ様に言えることです。
クラシックギターにはいろんな誤解がありますが,その一つに演奏フォームがあります。標準のフォームは,左足を足台に置き左ひざにギターのくぼみをのせるわけですが,フラメンコギターの奏者は組んだ右足に楽器のくぼみを載せます。アコギの奏者ですと右足を足台に乗せる人がいますし,ストラップを使った立奏も多く,エレキの場合は殆どそのスタイルでしょう。
ギターの種類や演奏ジャンルによるいろんなスタイルの演奏フォームがあるものだから,一般の人にはクラシックギターの演奏フォームが却って非常に特殊に映る様です。フォームへの誤解もあるわけですが,クラシックギターを招く会場で用意される椅子も「座れれば良いだろう」くらいの無理解さは,氏が若手で活躍中だった約半世紀前と現在とでもあまり変わっていないようです。
他の弦楽器でも,ヴァイオリンやビオラなどそのままで立奏できるものは,座奏しても椅子の高さの重要さはそれほどでもなさそうですが,チェロではエンドピンを調整するにしても椅子の高さは重要でしょう。
椅子の重要なポイントは座面の高さです。当方は,ピアノ椅子を使う時は無条件に最低の約42cmにします。
一般の椅子では座面の高さは43cmから45cmほどのものが多い印象です。座面が42cm以下の椅子は滅多にありません。当家のダイニングの椅子は44cmありました。足台の高さにも限界がありますから,1cm,2cmの高さでも大違いで,非常に弾きにくくなります。折りたたみパイプ椅子などは45cmのものが多いようですので,プラス3cmの高さというのは完全にアウトです。クラシックギターの演奏用に一般用の椅子は明らかに高過ぎです。
当方は,イタリア製でめずらしく座面42cmの椅子がありましたので,ギター演奏専用に使っています。
グールドではありませんが,クラシックギターの演奏者も椅子の脚を切らないといけないかも知れません。当方の場合,座面が36cmくらいでもOKですから,通常のピアノ椅子の脚を6cmほど切れば,36cm〜46cmの調整範囲となって丁度良さそうです。
何故かあまり言及される事は多くないのですが,クラシックギターの上達を望むならば,練習用にも適切な高さの椅子の用意が重要です。独学時代,テキトウな椅子を使ったり,和室で座って演奏したりと,いい加減なフォームで必死に練習しても悪い癖だけついて殆ど上達しなかった当方が身を持って体験した事実です。それは数十年どころか,数世紀にも亘ってリファインされてきたクラシックギターの演奏フォームを無視しても決して良い結果は得られないということを示しています。
以前とりあげた76年の芳志戸幹雄のNHKテキストの別件のコラムに書かれていた椅子の件を,思い出しました。
ーー 演奏姿勢と足台 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このテキストの初めの方で,姿勢および足台について説明しまいたが,その大切さについて私の場合を書いてみます。
私は,高さの調節できるピアノ椅子と,同じく高低の調節できる足台を使用しており,これ等の高さは,靴を履いている時と,そうでない場合の2種類を常に決めています(コンサートではく靴のカカトは,大体同じ高さにしています。
したがって,何らかの事情でやむをえず,自分のきめている高さと違う椅子や足台でギターを弾きますと,非常に疲れやすく,また演奏ものることが難しくなります。
演奏する場所によっては,高さの調節できない椅子しか置いてないことがあります。その椅子が私に合わない場合,長時間演奏しますと,弾き終わってしばらくして,体の一部が凝って痛くなったり,いつものコンサートより疲労が大きいという事を味わいます。
以上のように,椅子と足台の高さというものは,ギターを演奏する場合に,微妙にして大変重要なことですので,自分自身に最も合った高さを知るべく,努力が必要です。
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とありました。47年前の氏のフォームと現在主流のものとでは少し変化していますが,足台と椅子の高さに関する記述は,現在でも全く同じ様に言えることです。
クラシックギターにはいろんな誤解がありますが,その一つに演奏フォームがあります。標準のフォームは,左足を足台に置き左ひざにギターのくぼみをのせるわけですが,フラメンコギターの奏者は組んだ右足に楽器のくぼみを載せます。アコギの奏者ですと右足を足台に乗せる人がいますし,ストラップを使った立奏も多く,エレキの場合は殆どそのスタイルでしょう。
ギターの種類や演奏ジャンルによるいろんなスタイルの演奏フォームがあるものだから,一般の人にはクラシックギターの演奏フォームが却って非常に特殊に映る様です。フォームへの誤解もあるわけですが,クラシックギターを招く会場で用意される椅子も「座れれば良いだろう」くらいの無理解さは,氏が若手で活躍中だった約半世紀前と現在とでもあまり変わっていないようです。
他の弦楽器でも,ヴァイオリンやビオラなどそのままで立奏できるものは,座奏しても椅子の高さの重要さはそれほどでもなさそうですが,チェロではエンドピンを調整するにしても椅子の高さは重要でしょう。
椅子の重要なポイントは座面の高さです。当方は,ピアノ椅子を使う時は無条件に最低の約42cmにします。
一般の椅子では座面の高さは43cmから45cmほどのものが多い印象です。座面が42cm以下の椅子は滅多にありません。当家のダイニングの椅子は44cmありました。足台の高さにも限界がありますから,1cm,2cmの高さでも大違いで,非常に弾きにくくなります。折りたたみパイプ椅子などは45cmのものが多いようですので,プラス3cmの高さというのは完全にアウトです。クラシックギターの演奏用に一般用の椅子は明らかに高過ぎです。
当方は,イタリア製でめずらしく座面42cmの椅子がありましたので,ギター演奏専用に使っています。
グールドではありませんが,クラシックギターの演奏者も椅子の脚を切らないといけないかも知れません。当方の場合,座面が36cmくらいでもOKですから,通常のピアノ椅子の脚を6cmほど切れば,36cm〜46cmの調整範囲となって丁度良さそうです。
何故かあまり言及される事は多くないのですが,クラシックギターの上達を望むならば,練習用にも適切な高さの椅子の用意が重要です。独学時代,テキトウな椅子を使ったり,和室で座って演奏したりと,いい加減なフォームで必死に練習しても悪い癖だけついて殆ど上達しなかった当方が身を持って体験した事実です。それは数十年どころか,数世紀にも亘ってリファインされてきたクラシックギターの演奏フォームを無視しても決して良い結果は得られないということを示しています。
今回の椅子の話を、私は「きちんと型にはめてこそ、はじめて個性が出せる」と理解しました。これはギターばかりでなく、他の芸術やスポーツ、礼儀作法等、あらゆるものに当てはまりそうですね。私の子供達は全員剣道をやっていましたが、基本ができなければ絶対に伸びないという事をしっかり教え込まれました。今回の記事は、自由が一番という今の風潮に一石を投じたすばらしい記事と感じました。
by サボテン (2023-01-27 22:05)
サボテンさん,コメントありがとうございます。
なるほど,そういう解釈も成り立ちますね。
長年の人類の成果を学習せず勝手気儘にやって上手くいくわけがありません。当方のギター独学時代の苦い経験がそれを証明しています。「型にはめる」というのは現在では悪いイメージがありますが,無駄な遠回りを避ける意味もあるのでしょう。原理原則が「型」に反映し,共通原理に基けば大体その型になります。むろんバリエーションはありますし,間違った型にはめる危険への注意は必要です。
自由に発揮できる個性とは,原理原則・基礎基本に基けば素晴らしいものですが,それらに基づかなければ,無秩序・デタラメになりかねません。
by Enrique (2023-01-28 02:32)
おはようございます。
確かに姿勢と足と腰の位置を一定にしないと気になりますね。
演奏ともなれば殊にそうだと思います。
by 静謐な一日 (2023-01-28 07:48)
静謐な一日さん,
一般論としてもそうですが,殊演奏となると案外気づかないものです。クラシックギターの演奏姿勢に対する誤解が大きいと思います。
by Enrique (2023-01-28 09:01)
大学の部活で弾いてましたが、教室の椅子だったり廊下の休憩用の椅子だったりあるいは中庭のベンチなんて時もあり、どこでも弾けなければだめなんかな、なんて思ってました。姿勢をかためないと上達しないってのは、読んで納得です。
似た例で思い出したのが車の運転、オートマ車は結構運転姿勢は適当でも運転できてしまいますが、マニュアルだと座席の位置から靴底の堅さまでしっかり合わせないと運転できない(エンストしまくり)だったなと思います。
by oga. (2023-01-28 20:00)
oga.さん,
「どこでも弾けないとだめ。」その通りだと思います。「弘法筆を選ばず」という言葉もあります。しかし,ひどい筆でまともに書ける訳がなく,最低限の条件は必要です。ひどい条件下でも,プロならそれなりに対処するしかないですし,昔の大学の部活も文化系であっても体育会系のような根性論だったと思います。
コード弾き程度の演奏ならテキトウな姿勢でもよいですが,押さえる位置がわずかに狂っても音が出損なうクラシックギターで,テキトウな状態で弾けと言われても困ってしまいますね。
オートマ車とマニュアル車の違い。適切な例です。
ひどい条件下でも,楽器の位置を基本通りに決めれば短時間は弾けますが,芳志戸さんが書いていた様に長時間それをやると無駄に疲れるでしょう。氏の短命もそれが原因だったかと思うとやるせません。
by Enrique (2023-01-29 03:29)