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美味しいところだけ食べる [雑感]

「最近の若者は,音楽を聴く時にイントロやギターソロをスキップする」のだそうです。

これ自体はポップスの話でしょうが,この話を聞いた時,クラシックの演奏会でオバサンたちもギター伴奏の後奏が続いているのに,旋律楽器のメロディが終わったら喋りだしたという話をしました。



どうも,「美味しいところだけ食べる」という事の様です。
美味しいところ(と当人が感じる部分)だけ聴くならまだしも,まったく見えて(聞こえて)いないか,そうでなくてもお飾り程度にしか感じていないのかもしれません。

特に伴奏のギターに関しては,お飾りだと思っている人が今も昔も少なくないのだろうと思います。
バロック時代の5コースの「バロックギター」には豪華な装飾が施されています。鍵盤楽器が普及する以前は,むろん楽器としての機能のほか,貴族の飾り物としての役目もあったのでしょう。コード弾きも行われたようで,現在のコードネームに相当する記譜法もありました。

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刺身のツマは彩りを添えてくれますが。。。写真ACのフリー素材より。


いくつか変遷を経て最も装飾をそぎ落としたのが,現在のクラシックギターかもしれません。トーレスタイプのモダン・クラシカルギターです。当然音で勝負なはずなのですが,このギターの種類もまたなかなか認識されず,お飾り的認識は続いているのかもしれません。

フォークソングが流行った時代は,みんなギター(当時は「フォークギター」と呼称)を持ちました。殆どが歌の伴奏です。コードを2つか3つ知っていれば,軽く流すか,アルペジオ,少し凝ったスリーフィンガーで格好がつきました。ギターの音が聞こえなくても本人がギターを持って歌うのが重要。「ギターを弾く」と言うと,ギター曲ではなく,「どんな歌を歌うのだ?」と訊かれた事があります。「ギターの無い歌」はあっても,「歌の無いギター」はあり得ないという感覚がかなりの人にあるのでしょう。

2つか3つの単純なコードで出来ている曲の時代は伴奏楽器としてギターは大いに流行ったわけですが,複雑な和音が使われだして,ギターで難しいとなるといっぺんに流行らなくなりました。



変な例えですが,バッタなどの昆虫の大発生と減少に似ています。大発生と減少を繰り返す主要原因はその寿命の短さです。生息条件が揃えばあっという間に大量発生しますが,条件が揃わなければ直ぐに減ってしまう。ギターの場合は,「易しく直ぐ弾けそうな気がするけど,やってみるとそうでも無い。」ので,始めたけどすぐに止める人も多いというのが,共通点かもしれません。



ロックではエレキギターが主要楽器の座に君臨していますが,他分野での生ギターは,添え物的感覚がぬぐえないのかもしれません。大音響のPA楽器の中でギターの音を拾おうとマイクのゲインを上げるとハウリングが発生するので上げられません。音が聞こえなければお飾りです。クラシックギターは独奏楽器なわけですから,その出音を無視されたら全くの無音,ジョン・ケージの「4分33秒」のギター版になりそうです。



「美味しいところだけ食べる」件で思い出すのは,かつて1年弱滞在したアメリカの田舎の店では,ピザの耳が異常にデカく,アメリカ人たちは具の乗った美味しいところだけ食べて,でかい耳の部分をどんどん捨てていました。ピザの耳は美味しい具材が流れ出さない防波堤くらいの役割で,食べるものではないという認識だったのかも知れません。

美味しくない(と当人が感じる)ところは,見えてはいるわけですが,全く見えていない(音が出ていても聞こえていない)のでは,聞く人にとっては全く無いも同然なのでしょう。
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枝動

おはようございます。
映画など動画も2倍速で見ると、いつかのTVで知りました。
それで内容が解るというのだから、驚きです。爺にはとても無理です。
イントロやギターソロも含めて、音楽だと思うんですけどね。
それでは演奏の良さなど、到底解らないんじゃないでしょうかね。
by 枝動 (2022-05-31 10:38) 

Enrique

枝道さん,仰る通りだと思います。
美味しいところだけ聴く・見ると言う習性は,誰しもありますが,映画もそうでしょうし音楽にも構成というものがあります。全体像を味わってなんぼのものかと思いますが,そこまでの価値が感じられない作品や演奏ならば致し方ないのかも知れませんが。
ネットの時代,自分にとって耳障りの良い意見しか見ないと言うのと似ているところがあるかもです。美味しくないところも味わわないと,バランス感覚も育たない様に思います。ちゃんと聴くというのは,作品や演奏に対するお作法のような気もします。

by Enrique (2022-05-31 16:06) 

風神

今の時代は、何事も速く速くで遅いとダメなんですかね。
流行り物も、爆発的流行があっけなく廃れてしまうような物があります。仕掛け人のせいもあるんでしょうけど。
音楽をスキップして聴くというのは、そこにも良さがある訳ですから、もったいない話ですね。リピートすることはあっても、スキップすることは無いですね。
ピザの耳の話で思い出しましたが、高校の時、工場でパンの耳(クリームやチョコが付いたものもあった)だけを大袋に詰めた物を、家族のおやつとして買っていました^^;安くて美味しくて、大切な食べ物でした。
by 風神 (2022-05-31 17:48) 

Enrique

風神さん,
スローライフが流行り,働き方改革でゆとりが生まれるように思われましたが,そういう言葉そのものがどんどん消費されて行きます。楽しみ方もせかせか美味しいところだけ。
上でも書きましたが,耳障りの良い意見しか見ない聞かないというのもその一環。「良薬口に苦し〜忠言耳に逆らいて〜」などという,年寄りの言葉もどう取られているのやら。
禅宗で言う「正に良薬を事とする」は,食事は美味しいまずいではなく体を維持するための薬なので有り難く頂戴するのだと。
人々が陥りやすいため,戒めの言葉があるのですが,それも聞かないとなると。。。
by Enrique (2022-06-01 05:47) 

REIKO

このイントロやギターをスキップの話題ですが、「サブスクで」が頭についている(ネットの元記事はそうでした)のがポイントだと思うんですよ。
その都度お金を払い「この曲」「このCD」を手に入れて聴いていた時代とは違うのです。
定額聴き放題なら、そこが提供している音源全てに一気にアクセス可能になりますが、その中から手っ取り早く自分好みの曲に出会うために、試聴感覚で「つまみ聴き」する行為はある意味当然だと思います。
私ももしサブスク契約したら、絶対それをやるはずです…というか、Youtubeではいつもやっていることです(笑)。

あるいは、好きな曲がたくさんありすぎてどれも聴きたいけれど、ベッタリ聴いている時間がないから「聴きたいところだけ」になる場合もあるかもしれません。
(これもYoutubeで…以下略)

だから最近の若者は…というより、サブスクで音楽を聴くことが増えたから目立ってきた現象だろうと思っています。
音楽を作っている側からしたら由々しい事でしょうが、サブスクの特性を考えると、こうなるのも仕方ないかなあと言う気がします。
by REIKO (2022-06-01 11:46) 

Enrique

REIKOさん,
そうですか。飛ばし聴きの事であれば,認識は少し変えないといけませんね。
サブスクで聴き放題となれば,時間は無限には無いですから,必然的にそうなるでしょう。音楽の聞き方自体が,若者に限らず変化していると言う事ですか。アレクサかSiriに頼むだけでどんどん掛けてくれますので,飽きたらどんどんスキャンするのも常套。TVでCMを飛ばすのと大差ない。幾らでも聴けるとなるとオムニバス版で聴く。民放ラジオでもクラシック曲は端折りますね。まともに流すのはNHK-FMくらい。
by Enrique (2022-06-01 20:42) 

Ujiki.oO --> Google Workspace の無料使用の継続をしましたか?

「最近の若者は」を口に出すと言うことは、どこかの老々仁の方のご意見を転載されたのでしょうか?
 この世には能力者と非能力者がおります。 どの分野にもおります。 当方は、演奏について非常に一般人でして、演奏について非能力者の部類です。 演奏に限定しないで、この世には生業にしているプロの方がおいでですよね。 可能な限り多くの民衆に買って欲しい。 多額の金を融通し、デザインし、味付けし、広報する。 広報にこそ金を注ぎ込む。 一流を集めても当たるとは限らない。 一般人には潤沢な資金が無い。 どうする?
 他方で、アマチュアさんがおられます。それでも生産できる能力があるだけに悩みも深い。 苦しんで、悩んで、努力して産み出した我が芸術品を無視されるのは不幸せだとは思います。 この世界に何かを生み出せる側の、あまりにも大きな希望(羨望)と、反作用としての深い落胆について、例え肉親でも理解は不可能かも知れません。 生み出す能力が無くて、生み出す努力をしない大多数のモノにとって、完璧な鑑賞行動を期待されても、それは無理なんです。 どちらかと言うと、幼少から培った品位が影響する。 マナーが悪い大人が存在する。 「お前のようなみすぼらしい人間は入るな!」と、入り口で追い出す? 高額な入館料を課してヒトを選抜し剪定する? それも良いでしょう。
 いにしえの芸術家の生涯寿命は短かった。 誰もが経験する思春期が、人生の後半だったのかも知れない。 周囲を見渡せば、夢を語り合った仲間が、道半ばでバタバタと死んでいく。 そんな刹那の中で、いにしえの芸術家が背負う緊迫感は、長寿となった私たちに理解できない緊張感でしょう。 死ぬ前に残そうと言うエネルギーは凄まじかったことでしょう。
 確かに無念でしょうが、品位ある行動ができない人々の行動を許して欲しいです。

by Ujiki.oO --> Google Workspace の無料使用の継続をしましたか? (2022-06-03 16:05) 

Enrique

Ujiki.oOさん,
録音された音楽の嗜み方は既に変わっているようです。
ポピュラー音楽においては,一般大衆の動向を無視できないどころか,如何に多数ウケを狙うかです。もっともウケを狙っても当たるかどうかわかりませんが。皆で楽しめれば良くて人の迷惑にならない限りは良いと思いますね。オバサンの例は,クラシックの演奏会には慣れない方のようでした。御主旨にあまり関係ないかもしれませんが,「昔の芸術家の生涯は短い」というのは,クラシック音楽に限れば必ずしもそうでもないですね。
https://classical-guitar.blog.ss-blog.jp/2020-09-22

受け側の一般人のヘンな行動をも許さないと,発信側もやっていけません。ただ余りにもそれに迎合してしまうと,そのうち飽きられてしまう。発信側は必死でも受け側は勝手なものです。プロは仕事ですから仕方ありませんが。

「お客様は神様」とはいうものの,モノの消費でもそうですが,賢い消費者が良い生産者を育てないといけない側面もあります。宣伝上手なろくでもない物をありがたがって良い物を作るメーカーを潰してしまっては,結局損をするのは消費者の方なわけですから。
by Enrique (2022-06-04 06:27) 

Ujiki.oO

39NICEもしないと決めたはずの Ujiki.oO です。(大笑) niceは閉鎖中ですっ!
> 結局損をするのは消費者の方
 おっしゃる通りだと存じます。 それにしても悪の権化は、「これからはグローバルです。(中華に)進出しましょう!」とTVで吹聴し続けた大後研X氏であり、それに迎合した銀行系から低迷製造業企業へ派遣された文科系企業経営者が、「株価」だけを追い求めた結果だと、それを思うと怒りと失望で潰れそうです。折角の日本の零細下請け企業の相当に高い製造技術力を持った工員さん連中を、時の流れが老人に追いやり、高い製造技能レベルを日本から無くし、また基礎学問の低迷傾向による特許出願数の低迷や、日本人の血統を減少させる低い出生率。 もう分断どころではない征服ですよね。嘆かわしい限りです。
by Ujiki.oO (2022-06-04 09:15) 

Enrique

Ujiki.oOさん,
随分と罪な事をしたものです。しかし,こういう方々は刑事罰に問われることも無くむしろのうのうと生き残ります。若者たちが技術屋などやるのはバカバカしいと思ってもムリはありません。行きつく先は衰退のみ。残念至極です。
by Enrique (2022-06-06 11:53) 

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