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「松岡良治の楽器について」の補足 [雑感]

クラシックギターの入門/中級楽器として,松岡良治の楽器は一世を風靡しました。

2014年に同社・松岡楽器は廃業しましたが,1954年の創業以来世の中に出た楽器の数は膨大なものだと思われます。以前,この楽器の事を取り上げた記事「松岡良治の楽器について」のアクセス回数が大変多い(4月29日16:00現在17,435アクセス)ことからも,関心の高さがうかがえます。同記事にも書きましたが,このメーカーはすでに廃業しており,ブランドは中国企業に渡っており,現在新品のものはすべて中国製です。むろん現在のものがダメとは言えませんが,1960年代から製造された膨大な本数のなかで,当方がサンプリングしたわずかの個体でも殆どハズレが無いというのはすごいことです。ギターブームの頃,圧倒的に人気のあった最高級品と言えば,海外製ではハウザー,ラミレス,国産では河野でした。むろんこれらは現在も存続するメーカーですが,それらよりもずっとお安い松岡は当時の国産手工品と比べてもそれほどは遜色ないのではないかと思います。

さて,以前の記事では松岡の70年代以降の楽器についての記事でしたが,何分松岡は1954年創業だそうですから,20年近くの創成期の楽器が存在するはずです。おそらく,1952年の映画「禁じられた遊び」の出現でギターブームに火がつき,松岡も出荷台数を伸ばしたのだろうと想像します。「現代ギター」は1967年創刊です。当方が見出したのは1970年代からですが,漢字で書いた「松岡良治」の広告がよく出ていたのを思い出します。当時,舶来(という言葉もすっかり影を潜めましたが)最高級品は,ハウザー,アグアド,フレタ,ベラスケス,ラミレスにルビオにオリベ(三人ともホセでした)。国産では中出ファミリーに河野が伸びていた頃でしょうか。むろん勢力図の変遷はあったものだと思います。

現在オークションなどで,たまに和紙に「松岡良治」と毛筆体で書かれたラベルのものを見ます。これには,ハカランダ単板もあったというのが,前回の記事のコメントでのやり取りで判明しました。年代的にははっきりしませんが,71年よりも前,おそらく60年代のものだと思われます。毛筆体ラベルの松岡にはハカランダ単板の他にメープルもある様です。資料としては,オークションなどに出てくる現物と残っているカタログ類などでしょうか。1967年以降ならば現代ギターの広告は有力な資料になりそうです。漢字の「松岡良治」には,壱号とか弐号とか書いてあるものと何も書いてないものもあります。おそらく壱号というは1万円だったのではないかと思われます。何も書いてないものは当方にはナゾです。かなりのモデルが存在したことは事実であり,ラベルも変遷しています。現時点で当方が所持している楽器とオークションサイトの画像を使ってそこら辺の楽器の簡単なカタログを作ってみました。何分,高級な楽器でないですし,余り真面目に調べようという人も多くないのかもしれません。当方のも徹底したものではありませんので,ごく参考程度にお願いします。

図1に示したのは,かなり古い松岡で年代はっきりしませんが創業時から60年代までのものだと思われます。おそらく,トップはスプルースで,サイド・バックはメープル製です。よく見る松岡は,ラミレスコピーでトップはシダーですが,この頃はスプルースがメインだったのでしょう。当然シダーが現れるのはラミレスIII世以降です。興味深いのは,ネックの中央に入っている補強が白っぽいので,おそらくメープルを入れたのではないかと思われます。まさか白黒檀では無いと思います。

1960松岡A.jpg
図1. かなり古い松岡。年代ははっきりしません。
図2のものは,やはり漢字の松岡。この画像からはわかりませんが,トップはスプルースで,サイド・バックはハカランダの様です。これには「特壱号」とあります。ネックの補強はない様です。
1960松岡特壱号.jpg
図2. やはり古い松岡。
図3は,当方が所持する73年製の松岡No.40。72年製からこのラベルを見ます。70年や71年のこのラベルを見ませんので,72年あたりからこのラベルになったようで,それ以前は漢字の松岡だったのかもしれません。トップはシダーになっていて,サイド・バックはパリサンドル(インディアンローズ)のラミネートです。72年製から76年製あたりのこの機種では,No.60がハカランダのラミネートで,オークションなどに出ると高価になります。No.80のソリッドローズよりも人気が高いかもしれません。なお,この辺の機種はエボニーの2本補強が入っていて,河野のコピーだと思われます。ただ60年代の河野"Masaru Kono"にはエボニー補強は入っておらず,2本補強(ネックの捻れを防ぐためと言われます)はどちらがオリジナルなのか分かりません(60年代と思われる松岡で2本補強を見たことがあります)。

IMG_7222.jpeg
図3. 73年製の松岡。
ただ,図4に示すように,ラミレスの様な1本補強のものもあります。
図3も図4もAriaのOEMの様です。何分Aria(荒井貿易)さんはラミレスの輸入代理店ですから,ラミレス・コピーも宜なるかなですが,少なくともネック補強では河野コピーもあったようです。

IMG_7223.jpeg
図4. 年代不明の松岡。ネックはラミレス式の一本補強です。
図5は,同時期の74年製ですが,OEM先は異なる様です。
1974松岡No30.jpg
図5. 74年の松岡。別のOEMのようです。
図6は,76年製松岡No30。ラベルが変わりましたが,ネックは2本補強で構造や材質は73年(72年)のものと余り変わっていないようです。73年10月のオイルショックを契機にした「狂乱物価」で,大幅な物価上昇が発生しました。物価は年10%以上と強烈に上がったわけですが,この松岡は72年製と余り変わっていない様に見えます。
1976松岡No30.jpg
図6. 76年の松岡。No30です。
図7は,同じ76年製の松岡No30ですが,図6のものとラベルは同じですが,ネックの補強が姿を消しました。モデルの違いとも言えますが,さすがに強烈な物価上昇圧力に耐えられず補強を省略したのかもしれません。物価上昇前に仕込んだ材や部品が使える限りは,値上げをしなかったのかもしれません。

1976松岡No30B.jpg
図7. 図6と同じ76年製の松岡。補強がありません。
図8はやはり当方が所持するMH100のラベルです。この辺のラベルが最も最近まで(廃業まで)の標準だったと思います。ラベルの文字MATSUOKAの印字が盛り上がっています。むろんラベルだけで無く,21世紀に入って,10万円以下のお値段でのハウザー・コピーは素晴らしいの一言でした。
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図8. 松岡のラベル最終版。

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コメント 4

たこやきおやじ

Enriqueさん

私が持っていた松岡は、少なくとも1965年~1970年の頃父が買って来てくれた物でした。ラベルがどの様なものであったかはもはや全く記憶がありません。ひょっとすると毛筆だったかもしれません。(^^;
by たこやきおやじ (2021-04-30 10:22) 

Cecilia

全然違いますがヴァイオリンにおける鈴木政吉制作のものみたいなものかなあと思って読ませていただきました。
中学の選択音楽で使用するために親が購入してくれたギターがどこのものか気になってきました。思い出そうにも手がかりがありませんが。
そのギターの行方も気になっています。譲るような方も近所にいないし、火災に遭いましたがおそらく(火災に遭っていない)物置に置いてあったと思うのですが。
by Cecilia (2021-05-01 06:43) 

Enrique

たこやきおやじさん,
最初の楽器が松岡だったという人は少なくないと思います。
当方はアリアでしたが,ここにも見ます様に,アリアだと松岡のOEMの可能性もあります。必ずしも松岡ブランドでなくても松岡楽器の製造の可能性はあります。クラシックギター界に与えた影響は大きいと思います。
by Enrique (2021-05-01 09:18) 

Enrique

Ceciliaさん,
ヴァイオリンの鈴木は良い例えだと思います。
往時のギターブームは凄まじいもので,当の鈴木ヴァイオリンもギターを製造していました。おそらくヴァイオリンよりも遥かに本数は出たのではないでしょうか。現在でも中古でたまに見かけますがさすがに品質は安定しています。
by Enrique (2021-05-01 09:23) 

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