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デジタル化にまつわる愚痴 [雑感]

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何を今更な感じですが,敢えてアナクロな話をしてみたいと思います。

電話にしろテレビにしろ画像音響にしろ「デジタルだから音質・画質が素晴らしい。」という掛け声でどんどん進められました。

新しいから良いとか,古いから良いというのと同じで,デジタルだから良いというのも明らかに論理飛躍しています。「デジタルだから」何でも素晴らしいわけがありません。原理を考えれば,音でも画でも,元のアナログ情報をデジタル化するわけですから,元のアナログ情報よりも良くなるわけがありません。必ずデジタル化で劣化します。劣化度をサンプル数やビット数を増やして緩和しているだけです。デジタル化の大きなメリットは以後のダビングなどの劣化が無い事です。しかしその技術的アドバンテージも情報供給側にとっては経済的デメリットになるので,これまたデジタル技術を使ってコピーコントロールをしてデジタルのメリットを潰すというのはご承知の通りです。百歩譲っても,「それなりに考慮したデジタル記録は,下手なアナログ記録よりも優れている。」というのが順当なところでしょうか。

もちろん,こうやって本記事の発信ができるのもデジタル化の恩恵です。現在のネット環境であらゆる取引まで情報をデジタル化しないと話になりません。しかしデジタル化の掛け声のように「何でも良いか?」というとそうではありません。あえてデジタルの良くないところを取り上げてみます。



改ざん・捏造が容易にできてしまう。
これも現在逆に,「デジタルだから改ざんできない」と喧伝する向きもありますが,これもまた論理飛躍であり誤りもあります。「デジタル化した上で厳重な改ざん防止措置をとれば」というならば分かります。逆にデジタル式の改ざん防止措置自体が本来のデータを改ざんしていないと言えるのでしょうか?それ以前のデジタル化のA-D変換は何ビットにしたところで必ず人為的な変換が入っています。現在どうなっているか不案内ですが,10年ほど前,認証データなどの改ざん事象が相次ぎ,製造が終わりかけていたアナログレコーダが息を吹き返したと聞いたことがあります。

余分な複雑さを生む。
例えば,アナログではごく単純な受動回路で済むフィルターなどの回路が沢山の半導体素子を使ったデジタルフィルタにしないと実現できません。ごく単純な信号処理を,わざわざ汎用的なDSPなどを使わないとできません。まさしく隔靴掻痒です。パソコンのOSなどは,やっている仕事に対する無駄な処理の最たるものでしょう。ネットを使うのが当然になっていますが,ネットを使わないPCを使う現在のオフライン作業において,80年代初頭のフロッピーディスクの片隅に入った数kBのサイズだったMS-DOS上の処理からその一千万倍もの容量を使う現在の処理が格段に進んでいるとは思えません。通信のデジタル化も鉱石ラジオのような素朴なパーツでの簡易的な受信が不能になります。牛刀割鶏どころか刃物も使えずレーザーメスで捌かざるを得ない様な状況になってしま(って)います。

ぎりぎりの受信ができない。
アナログ通信ならば,電波が弱く雑音にまぎれながらでも何とか聞き取れる通信でも,デジタルでは全く聞き取れない可能性が高い。デジタルTVでお馴染みの現象だと思いますが,受信信号レベルが一定以上であれば綺麗に映りますが,電波が弱まって,デジタルデータとして判別できないと全く映らないことになります。かつての砂嵐状態でも何とか映るという状態がありません。汚いものは見たくないという嗜好と合うかも知れませんが,通信の雑音耐性は落ちています。当然電磁波の物理的性質は変わるものではありませんが,そこに信号を乗せる変復調の違いで受信状態に違いが出ます。

時報が合わない。
上で挙げたことと重複しますが,リアルタイムに行われるアナログ変復調に対して,演算を伴うデジタル変復調は,演算時間を食いますので,少し遅れます。送出の変調側で一定の遅れでも,受け側は受信機の復調性能により少しづつ違います。TVのデジタル化で時報が無くなったのはそのせいです。ピタッと時刻を放送で合わせるのは困難だからです。




デジタル化は,専用のIC*ができてしまえばそれさえ使えば簡単なため,どんどん進められました。しかしそれが無ければ何にも手出し出来ない。「さっさとアナログ放送は全部デジタルにしてしまえば良い」という意見もありましたが,私は反対です。完全デジタル化された世界で大災害など起きたら,狼煙や伝書鳩の方がよほど有効になってしまいます。高機能なデジタル通信が完全にダウンして機能不全になってしまいます。アナログなものも残しておかないといけないのです。東日本大震災当時,ケータイはおろか電話も通じなくなってしまいました。そんな時威力を発揮したのがアマチュア無線だったのはまだ記憶に残るところです。ネットの普及などで風前の灯火だったアマ無線に目が行ったのは皮肉なものでした。

むろんデジタル化は技術の進歩でメリットが大きいとして進められたわけですが,その原動力は経済性です。儲かるということです。放送通信事業はデジタル化で巨大な利権を生みます。以前も書きましたが,例えばTVのデジタル化で,「美しい音や絵が楽しめますよ。だからデジタルにしますよ。」とは言っても,混信の少ないデジタル変調のメリットを生かしてTVチャンネルをUHF帯にまとめて,丸々空いたVHF帯の活用というのは何か国民に相談はあったでしょうか?電波帯域という見えない国民財産が知らぬ間に民間に売り渡されているのです。例えて言えば,国の事業の整理で余った国有地を民間に安く払下げるのと同じ構図です。通信に戻れば,もう覚えている人も少ないと思いますが,リクルート事件なるものも通信の許認可がらみだったのです。




物事の表層だけ見ていたら本質はなかなか見えてきません。デジタル化の最大の問題はこれでは無いかと思います。デジタル化は多くのブラックボックスを生みました。特にPCが出てきてからそうですが,一部マニアの時代**はホワイトボックスでも,一般の多くの人々が使いだすと,パソコンはほぼ中身のわからない箱になりました。ネットもしかりです。コアの技術は見えなくされ***,人々はアプリケーション層でのみ関わっています。まさしく表層だけですが,そこに行き交うのが貴重な機密情報であったり膨大な金銭情報であったり。そこでは,とんでもない非効率を生んでいても気づきにくく,まさしく上であげたデジタル化の弊害を何重にもやっているのが現在のデジタル依存社会だと思います。

後注

*ニュース等では単に「半導体」と呼んでいます。膨大な素子が集積された電子デバイスを単に素材の名称で呼ぶのも無茶な話だとは思いますが,これもものすごいブラックボックス化の一側面でしょう。
**パソコン世界初のApple Iは,いわばマニアのウォズニアックが市販の電子部品を使って作り上げたものです。
***秘匿するというよりは一般人に使いやすくするため美しく覆ってしまう。
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REIKO

だいぶ前の話ですが、知人と電話のデジタル化の話をしていた時、相手が記事にある「ぎりぎりの受信ができない」(信号の状態が悪いと途中でプツプツ切れる)ことを指摘した後、「誰の声かすぐに判別がつきにくい」と言ったことが今でも忘れられません。

確かにそんな気がします。
電話がアナログだった頃、受話器の向こうから聞こえてくる声はみな個性的?で、普段からよく電話しあっている仲なら、声を聞けば誰なのか「すぐ」分かったものですが、デジタル化後は声の特徴が分かりにくく、ああ確かに〇〇さんだ!と認識するまで時間がかかるんですよ。
で、それが電話を使った特殊詐欺の被害がなかなか無くならない遠因にもなっている気がするのです…どうなんでしょう?
by REIKO (2021-04-01 12:53) 

Enrique

REIKOさん,全くそうですね。
電話の歴史は,アナログ時代から,如何に限られた帯域に通話回線を押し込むかという技術開発でしたが,その失敗した技術がロボットヴォイス(ヴォコーダー)に転用されていますね。コケてもタダで起きないしぶとさがあります。
極端に言えば,電話の声はロボットヴォイスより少しマシなくらいですね。ダイヤルになる前の電話を子供の時いたずらしましたが,超鮮明な音で目の前に交換手のお姉さんがいる様な気がして飛び上がって切った記憶があります。
ケータイの出がけ,デジタルムーバなんていうサービスの某電話局が「デジタルだから音が良い」と宣伝していましたが,デジタルの方がより効率よく多重化を図れるからにほかならないという,消費者をナメた話でした。
現在はネットで音声よりもずっとデータ量の多い画像も送れるわけですから,音声にちょこっとデータを振ってやるだけで音質は大幅に改善するはずですね。
電話の音質の悪さが特殊詐欺の遠因,全くその通りだと思います。
by Enrique (2021-04-01 15:30) 

Cecilia

何となくデジタルはアナログより良いイメージを抱いていましたがそうでもないのですね。
デジタルピアノ=電子ピアノはどうですか?Enriqueさんのご自宅にはなさそうですが・・・。
by Cecilia (2021-04-03 08:09) 

Enrique

Ceciliaさん,
電気ものですと,かつてのアナログで出していた音よりも,現在のデジタルサンプリングのものはずっと良いと思います。無論こちらも本物からデジタルサンプリングしたものですが。
電子ピアノは私が独身時代に買ったヤマハ製のものがありましたが,故障してハードオフに引き取ってもらいました。現在娘が買ったコルグのデジタル式のものがあります。価格は数分の1ですがこちらの方が優れていると思います。

アナログとデジタルをどう捉えるかという問題があります。
アナログ=本物
デジタル=複製
と捉えるか,
本物をアナログ収録
本物をデジタル収録
こちらならばデジタル収録の方が良い可能性はあります。
時計の針式=アナログ
時計の数字式=デジタル
これなどどちらが良いか言えませんね。
根本の捉え方が違うので,全く一概には言えないです。
by Enrique (2021-04-04 09:09) 

lequiche

ちょっと話がズレますが、
ウチにはサイレント・ピアノがあって、夜に弾くときは便利です。
サイレント・ピアノの音は実際のピアノ音をサンプリングして
作られた音です。
ところがこの音の調律が合っていないのではないか、
と気づいたので調律師に聞いてみました。
そんなわけはない、と言って実際に聞いてみたところ、
許容範囲内だけれどやや調律が狂っているとのことです。
でも調律できません、と言われました。(笑)
今、販売しているサイレント・ピアノは
違う音源になっている可能性が高いですが、
サイレント・ピアノのユニットの交換はできないらしいです。
by lequiche (2021-04-05 02:21) 

Enrique

lequicheさん,
本物のピアノですと,音の周波数比ではなくて,物理的な弦の響きで合わせています。すると,オクターブがやや広くなります。それが溜まり溜まって最低音と最高音では半音近いズレが生じますが,その方が実際の音響としては妥当(響き合う)なわけです。当然生楽器の場合は個々の楽器によってすこしづつ異なります。長年の経験を平均化したRailsback曲線というものがあり,おそらくこれを基準に合わせる調律と,もう一つは物理音響とは無関係に平均律そのもので合わせる方法です。
それらを含め各種音律を切り替えができるものもある様です。固定のものでは,前者でしょうが,後者はもちろん前者でもそのままだと何か無味乾燥な感じになるので,わざといじるのではないでしょうか。生楽器では響きを出すためにわざと復弦をずらしたりします。生楽器を模した味付けが「狂っている」印象になるのではないでしょうか。
ピアノではない同じ音源でも,スピーカーで聴くのとヘッドホンで聴くので異なります。スピーカーだと音響的なわずかの狂いは緩和してくれますがヘッドホンだとダイレクトです。
by Enrique (2021-04-05 07:27) 

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