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レジェンドの演奏について [雑感]

昨今,YouTube上には,かつてなら信じられないような歴史上の名前の人の実演が転がっています。

聴きたいような,聴きたくないような複雑な心境です。

「何故か?」と言えば,大昔では録音が悪いことと,それを差し引いても,どうも演奏内容も現在の演奏家のレベルからしたら,素人レベルでは無いか?と思われるようなものがあるからです。

録音技術が出来上がった時代の演奏の率直な印象としては,「やたら速く弾いてビルトォーゾ感を出しつつも演奏の細部などはテキトウ」という感じです。以前サラサーテのバッハ演奏を聴いたときそのような印象を持ちました。

貴重な往年の大家の演奏をその様にしか感じられないのが残念なので,余り聴きたくないというのが,正直なところなのです。

ただいろいろあると,怖いもの見たさ?といった感じで,覗いてみるということもしたくなってきます。以前聴いたバリオスの自作自演録音は,当時としてはかなり良かったように感じました。

そこで,いくつか覗いてみます。
まず,現代ギター奏法の父,フランシスコ・タレガです。
さすがに19世紀末の録音では,上手いのか下手なのか分かりにくいです。タレガの自作「マリーア」が演奏されています。


録音は1899年となっています。1900年のパリ万博でデンマークのポールセンが自身発明の鋼線式の磁気録音機で録音したのが現存する最古の磁気録音だそうですから,タレガの録音は,それ以前のエジソンの蝋管式蓄音機かベルリナーのグラモフォンかで収録されていると思われます。エジソン式は実用性が無かったようですから,おそらく1895年発売のグラモフォンでなされたのでしょう。

演奏は,タレガの譜面からも分かる通り,ポルタメントなどを効かせたロマンチックなものです。
こちらも,おそらく同じ録音でしょうが,少し聴きやすくなっています。


タレガの次はリョベートと行きたくなるのですが,なぜかLlobet plays Llobetとか表示しているYouTube動画でも演奏はセゴビアです。彼の演奏の録音は膨大にあるので,敢えてここで紹介する必要はないでしょう。

南米に飛んで,ブラジルの大家ヴィラ=ロボス(1887-1959)の演奏がありました。彼はセゴビアより6歳年長なだけで,ほぼ同時代人と見ていいわけですがセゴビアが長寿だったため,歴史的な作曲家という感じはします。しかし,それを言えば,ストラビンスキー(1882-1971)の訃報が新聞に載っていた記憶がありますので,生年より没年が感覚に上るようです。



part1の動画はプレリュード第1番,part2はショーロス第1番です。
演奏を聴いて,正直これはホッとしました。むしろ現代人?の演奏よりもずっと聴きやすくスッキリとしています。これを弾く方々にはお手本にしてよい演奏だと思います。ヴィラ=ロボスのギター作品は,彼の膨大な作品群からしたらほんの一部なわけですが,ギターのレパートリーとして重要な理由としてかつて良く言われたのは,「他の近現代の作曲家よりも(とは異なり)楽器をよく弾けた」から,「演奏効果の上る作品を生み出した」と。確かにこの演奏を聴けば,その論点は納得できます。

南米最大のギタリストといえば,バリオスです。


これを聴けば,卓越した演奏家であったことが納得出来ます。セゴビアがはげしく嫉妬したらしいこともよく分かります。彼の作品を手掛けるならば,一度耳にしておいても悪くはないでしょう。自作曲以外の曲目もあります。速目のテンポで,いずれも背筋の伸びた演奏です。往年の大家の演奏は付点が甘くなってしまう演奏が多いですが,バリオスの演奏は現代の演奏家のようにきちんとしたリズムで弾いています。

やはり南米の大家,アントニオ・ラウロ*(1917-1986)の演奏がありました。


ライブの演奏のようですが,現代に近く録音も大分よくなり,さすがに本家自作自演の演奏です。最後にナタリア(ワルツ第3番)が弾かれましたが,弾き出したところで大きな拍手が入り,弾き直しています。人気曲に異常な関心を示す少し困った聴衆がいるのは現在も共通のようです。

他にも,レジェンドと思われる演奏は色々あります**が,限りなく現代の演奏に近づいて来ます。線引きが難しくなりますので,この辺で止めます。


*彼のバイオグラフィーは当ブログ初期の記事にしています。
**例えば,作曲者ブローウェルの弾く「11月のある日」は最も優れた演奏だと思います。
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Cecilia

レジェンドの演奏・・・現代の演奏との差ですが、声楽だとより顕著です。やはり現代のほうが演奏技術は上がっているのだと思います。現代よりもレジェンドのほうが良いと思うことは稀ですが、現代の演奏家には出せない精神性はあるのかな、と思います。

by Cecilia (2021-02-25 05:56) 

Enrique

Ceciliaさん,
ここに挙げている人たちはちゃんと弾いているなと言う感じはします。
ギターではここ10年,20年の技術向上が著しいので,それ以前の方の演奏はかなり見劣りがします。ただ技術のみでないので「精神性」や歴史的価値を求めるしかないですね。
by Enrique (2021-02-25 06:31) 

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