SSブログ

「太鼓の形を聞き取れるか?」という問題 [科学と技術一般]

EnriqueAutographSmall.png
逆問題の一種のようです。

弦のハーモニクスの事を考えていましたら,ふとこの話題のことを思い出しました。
弦は1次元の物体ですが,太鼓の皮は2次元物体です。弦が整数倍の倍音構造を持つ様に,太鼓の皮にもいろいろな振動パターンが存在します。2次元物体ですので,弦を縦横に張り巡らしたような状態で形状により揺れるパターンが変わって来ます。

「太鼓の形を聞き取れるか」というのは,むろん象徴的な問いかけで,太鼓の形により皮の揺れるパターンすなわち,固有振動(音響スペクトル)が変わる訳ですが,音のスペクトルが分かれば,太鼓の形状が分かるか?という割と原理的な問いかけでした。

太鼓の形は,作れるかどうかは別にして原理的には丸以外に四角でも三角でも星型でもいろんな形が考えられます。形が決まれば太鼓の音のスペクトルを計算することが出来ます*。

形が与えられれば,その音響スペクトル,すなわち音が分かるわけです。形を見れば,(音を聞いてみなくても)音が分かるという事です。これは普通の順問題です。

それに対して,ある太鼓の音だけを聴いて,その太鼓の形状が分かるか?という問題です。
これは1966に出たMarc Kacという人が提出した "Can one hear the shape of a drum?" という論文[1]で有名になった問題です。これには1991年にGordon, Webb, Wolpertの3人の数学者により,2種類の形の異なる八角形の太鼓で固有振動が同じになるという計算結果(反例)により否定されたのです[2]。したがって,音のほうから太鼓の形を聞き分けることは原理的に「できない」というのが正解です。

3人の数学者により示された反例[2]。
両者の異なる形状の太鼓は同じスペクトルになるとのこと。
言われてみればそうなりそうには見えます。

*ラプラス方程式の固定境界条件による固有値問題を解くという作業です。
[1]Marc Kac: Can one hear the shape of a drum?, The American Mathematical Monthly, Vol. 73, No. 4, Part 2: Papers in Analysis (Apr., 1966), pp. 1-23
[2]Gordon, Webb, and Wolpert: Invent. Math. 110, pp. 1- 22 (1991)
nice!(28)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 28

コメント 2

Cecilia

興味深い内容です。星形の太鼓、気になります。(あるのでしょうか?
笑)
私も太鼓を二つ所有しています。
一つはRemoのキッズ用トゥバーノと日蓮宗などで使ううちわ太鼓というものです。ちょっと使用する目的があって購入しましたが、もちろん一人で使うことはありません。-
by Cecilia (2021-02-18 06:13) 

Enrique

Ceciliaさん,
本物の楽器を知る人にとっては冗談みたいな内容です。星型もカワイイですが(多分無いでしょう),数学者が計算した図の形も絶対あり得ない様な原理的なものですが,最初の問いかけからして,世界中の数理学者の話題になった有名な問題でした。
by Enrique (2021-02-18 06:49) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。