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タンスマンのカヴァティーナ組曲・再検討 [曲目]

昔から使っていたセゴビア版とそのマイナーコレクション版に加えジガンテ版を入手して再検討しているところです。ジガンテ版の楽譜そのものはあまり評価できませんが,この版の入手を機会に原典への興味も多少深まった事は否定できません。

ジガンテ版には原典版(Urtext)と書いてありますが,まるで中途半端なもので,セゴビア版をなぞりながらも,むしろ同版を改悪しただけでは無いのか?という感が拭えません。

特に楽節やフレージングを無視してページ数を増しただけの譜割りは全く評価できません。「原典を参考にしながらセゴビア版を少しいじって読みにくくしてみました。」と言った風情です。むろん同版の意味合いとしては,原典への言及です。この版がなければそこへのアプローチも余りなかった事でしょう。

他の作品にありがちな,セゴビア版のみというわけではなく,タンスマンが直接書いた原譜がふんだんにあるようですから,自筆譜を直接見たいものだという欲望が湧いてきます。"Preludio"に関しては,ジガンテ版冒頭に写真で載っています。この原譜を見ると,従来指摘されていた箇所以上の相違を発見できます。

今回気づく箇所は,コーダへの行き方です(譜例参照)。
セゴビア版にしろジガンテ版にしろ,前半部の終わりにある2回のスケールが,ダカーポ後は1回目のスケールのみでコーダに飛びますが,この楽譜では,2回目のスケールを含む3小節分がダカーポ後に含まれます。
譜例 TansmanのCavatine初版と見られるPreludioの流布版との(何故か指摘されない)相違点。赤で示した箇所がセゴビア(流布)版のコーダへの移動箇所。コーダ側の受けかた(赤丸で示す)も異なっています。
2箇所のスケールが重音になっている版が複数存在するのは指摘されており,ジガンテ版の末尾にその解説がありますが,何故かその譜例では,コーダへの行き方がセゴビア版?に統一されています。この件に関してジガンテの解説に明確な言及はありません。

不思議なのは,冒頭の写真で示された版は,著者が元にしたという13種類の原譜とは一致しません。一番近そうなのが"Ms51-c-Sierra"という版ですが,この版は署名が無いとの記述(画像の原譜は署名あり)の上に,2回目のスケール以降の降りてくる音符も違います。どうも冒頭の写真で示された版は,冒頭のタンスマンの肉筆にある様に「キジアーナ国際コンペ受賞版」であり,ジガンテが参考にした13種類の版とは異なる初版と推測されます*。

個人的感想を述べれば,これは明らかにセゴビアが得意とした小節の省略と見られます。ジガンテによれば,「セゴビアは音楽の流れを重視し,タンスマンもそれを完全に認めた」という意味の記述がありますが,少なくともここの点に関しての明確な言及が無いままに原典版をうたうのはマズイだろうと思います。緻密に作られた曲の構造からすれば,ダカーポ時に3小節飛ばすというのは,無理がある様に思います。むろん,セゴビア版を聞きなれた耳からすれば違和感があるかもしれませんが,この初版の譜面を弾いてみると,コーダに向けてさっと場面が切り替わる緊迫感に満ちた音楽が聞こえてきました。

原典版とはなんぞや?と首を傾げたくなるところですが,いずれにせよ,ホンモノの原典版を全曲見たいところです。


*ジガンテは,作曲者のセゴビアとのコラボが無になるので初版に戻る必要はないと言った意味の曖昧な書き方をしています。彼が用いなかった初版とみられる譜面には,「キジアーナ・シエナの国際アカデミアコンクール一等賞」と書いてありますので,受賞後タンスマンにより浄書されたものだと思われます。

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