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楽器の調整・整備 [楽器音響]

「楽器の調整を自分でする訳」で,楽器の調整は自分でやると書きました。

以前も少し書いた事があるのですが,当方が自分でやる調整は以下のようなものです。

(1)弦高調整:ナット側とブリッジ側
(2)ペグのグリスアップ・交換
(3)フレットのすり合わせ
(4)フレットの磨き
(5)傷のタッチアップ
(6)軽度のネックの反り矯正
(7)フレット打ち
(8)軽度の割れ修理


(1)の弦高調整は必ずと言っていいほどやります。
特にあらたに楽器を入手した際には,必ずやります。大概は高めになっていることが多いです。以前製作家さんにブリッジやナットや作ってもらったのですが,かなり高いことが多いです。結局削って作ることになりますので,象牙材で一から作ります。むろん現在象牙は取引が禁止されていますので,合法的に楽器用に使用されたもの(おそらく三味線のバチなど)の端材で購入したものを使っています。柔らかいので,あっという間に削れます。

梅鉢龍馬 台直鉋 36ミリ

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プロは台直しカンナを使うようですが,当方は紙やすりです。切り出しは薄手の胴付鋸を使います。当初粗削りにディスク・グラインダーを使っていましたが,壊れてしまったため,現在電気道具はサンダーのみです。電動工具のメリットは作業効率の良さですが,どうしても削りすぎのおそれがあるので,手でゴシゴシやる方が安全ではあります。ここら辺の加工は,単に寸法精度だけの問題ですから,きちんと測って,寸法通りにやればほぼ問題ないと思います。1/20mmのノギスを使っていますが,出来れば1/100mmのマイクロゲージが欲しいところです。

弦溝をつけるのは,ラインヤスリを使います。以前は精密ヤスリで四苦八苦して溝ほりをしていましたが,弦がぴったりはまる溝を掘るにはこれが最適です。0.8mmのものと1.0mmのものを使っています。

楽器のクセによっても多少変わるのかもしれませんが,私のセッティングは,サドル側はもちろんの事,ナット側も高音側が低く低音側をやや高くしています。弦の振幅は低音側が大きいため,当然のセッティングだと思うのですが,低音から高音までナット側の弦高が同じとか,低音側の方の弦高が高音側よりも低い逆転しているものも結構見かけます。何か流儀があるのかな?とも思いますが,当方は力学的な常識に従うのみです。楽器によって多少異なりますが弦溝の底までの寸法は8mm前後の事が多いですが,当方は7.6mm前後まで下げます。むろん下げすぎますとびりつきますので,0.1mm以下の調整です。フレットの状態やネックのカーブにもよります。サドル側はナット側よりも気は楽ですが,12フレットでの弦高が①弦3mm以下,⑥弦4mm以下になる様にします。例えば,12フレットでの弦高を4mmから3mmに下げる場合,1mm下げる事になりますので,ブリッジ側だけでやる場合は2mm削り,ナット側も0.4mm下げるのであれば,ブリッジ側は1.6mm下げる事になります。以前はカンでやっていましたが,却って時間がかかる上失敗もあるので,オリジナルを測定してからきちんと目標量を決めて加工することで失敗は無くなりました。

(2)の糸巻調整も良くやる事です。古い楽器を入手しますとペグのウォーム・ギアが固着していて,回すのにとんでもない力が必要な事があります。まずは,クレ556などで固着を解いたうえで,グリスアップです。本格的にやる場合は,楽器から外した上できれいに洗浄の後にやります。当方は,固体潤滑剤として優れるMoS2入りの真っ黒いグリースを使っています。特に荷重のかかる潤滑に優れますが,デメリットは触ると汚れる事です。激しく摺動するものでもないので,もっと粘性の強いもののほうが良いかなと思いつつも一旦買うと無くならないのでこれを一生使うかもしれません。なるべく触るところには出ないような配慮が必要です。摩耗などでギヤやローラーなどがヘタっている場合は交換します。特に高級な糸巻の場合はFANAさんで部品を購入して部品単位で交換します。

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(3)フレットのすり合わせ
これはもちろん,自分でフレット打ち替えをした場合には必要な作業になりますが,そうでない場合はほとんどやりません。たまに,フレットの頂上が凸凹しているような際には必要になります。むろんフレット浮きの場合は叩き込みます。削られたフレットのアタマは台形形状ですので,フレットファイルにより丸みを付けます。この辺の工具は少し専門的になるでしょう。

(4)フレットの磨き
フレットはくすんでいても,機能上は問題ないのですが,金属フレットはピカピカな方が見た目は良好です。そこで磨きますが,本格的にやるには,指板面を養生したうえで,コンパウンドかPIKALなどの金属磨きで磨きます。お手軽には研磨剤が含まれているクロスで磨き上げる手もあります。これですと指板面の養生は必要ありません。

(5)傷のタッチアップ
これも余りやりませんが,特にシェラックの場合,剥げて来るところがあります。そういうところは,ちょちょっとタッチアップすることがあります。塗装は難しく面倒でもあります。プロの製作家でさえやらない方もいますから,あまりいじらない事にします。シェラック樹脂やニトロラッカー,カシューなども用意していますが,定年後の楽しみでしょう。

(6)軽度のネックの反り矯正
スチール弦のアコギの場合はトラスロッドが入っていますので,六角レンチでボルトを回すことで,ネックの反りは調整できますが,クラシックの楽器の場合はそれが無いのでパーマネントな木の反りとなります。また,これは必ずしも弦の張力によって発生するわけではなく通常はネック材と指板材の膨張率差によるバイメタル効果で発生します。熱を掛けて矯正し,そのまま静かに冷ますことで補正します。専用のネックアイロン器具がありますが,当方は持っていません。

(7)フレット打ち
滅多にやりません。フレットワイヤーは国内ではあまり手に入りませんが,国外ではJim Dunlop社などのものを購入できます。以前紹介した,Stewart MacDonald (StewMac)社は,ありとあらゆるギター関係のパーツ・工具・材料を扱っていますので,まとめて購入すると送料を節約できます。なお,フレットの足の太さや打ち具合によってネックの反りの矯正も出来ますが,かなりの経験が必要でしょう。当方もそこまでは出来ません。専門家に任せるのが至当です。

(8)割れ修理
これもごく軽度のもの,失敗しても余り影響ないような安価な楽器でのみやります。最低限単板でないと意味がありません。合板の楽器だと殆ど割れませんが,割れたら処分するのみでしょう。なお接着剤としては使いやすく実績のあるのは,タイトボンドです。

フランクリン タイトボンド 115mL

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大事な楽器の場合は,信頼できる専門家に任せますが,修理代もさることながら,丁寧な仕事であればあるほど,時間も掛かります。その間弾けないのは辛いものです。のんびり待つくらいの余裕があれば良いのですが,それほどでもない楽器の軽微な調整・修理は自分でやってしまう事が多いです。特に弦高調整などはその場で直ぐに試せますので,当方にとって弦高調整は殆ど儀式化してしまいました。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

アマチュアでここまでやられる方は滅多にいないと思います。まさに脱帽です。(^^;

by たこやきおやじ (2020-02-20 00:49) 

Enrique

たこやきおやじさん,
妻から「練習しないで楽器ばかりいじっている」と非難されます。
楽器を弾きやすく調整するのも大事なんですけどもね。
by Enrique (2020-02-20 06:17) 

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