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「楽器の物理学」を読む(その10) [楽器音響]

「楽器の物理学」の第III部,「第9章 ギターとリュート」をゆっくり見ています。今回は9.10節の「共振,放射音,そして品質」が対象です。

ここでは,楽器の品質についても触れられますので,楽器愛好家の方に興味の深いところだと思います。

9.10 共振,放射音,そして品質
ギターから出る音のスペクトルは弦が駒に加える力と胴の周波数応答関数の掛け算で求められるはずですが,実際はもっと複雑とのこと。その理由は力のスペクトルが急激に変化するからとしています。

CaldersmithとJansson(1989)らの測定結果をもとに,筆者はギターの品質に関してコメントしています。高品質の楽器は⑥弦の初期音が大きく減衰が早くコンサートホール向きの楽器だと。

ギターの品質と測定された周波数特性との関係が,ドイツのブラウンシェヴァイクの物理工科連邦研究所で広範な試聴テストで行われた(Meyer, 1983)そうです。

楽器の高品質性と相関があるいくつかの特徴は,第3番目(400Hz付近の)共振ピークの大きさと共振鋭度,その他80Hz〜1000Hz間の特定4箇所の1/3オクターブバンドにおける平均レベル,第2番目(200Hz付近の)共振ピークの大きさが正相関として挙げられ,負相関となるのは,第1番目(100Hz付近の)共振の鋭さ,160-250Hzの1/3オクターブバンドにおける平均レベル,1250Hz以上の1/3オクターブバンドにおける最大値,第2共振のピークが2つに分かれる事,としています。

筆者は,400Hz付近の (0,1)モードの共振が重要というのが興味深いとしていますが,ここまで取り上げられたデータとは整合しません。理由の一つは,筆者らのMartin D-28らの結果とクラシックギターの結果が混ざっているためです。Martin D-28のフォークギターでは,400Hz付近は(1,0)モードです。第9章内を探すと,9.4節に筆者のRossingらが調べたKohnoの30号の表板(0,1)モードが388Hzという表内の数字があり筆者はこの事を言っている様です。この手の書籍にありがちな事ですが,正確に把握しようとすれば引用論文をあたるしかないわけです。

ドイツでの研究対象がクラシックギターであり,クラシックギターに関しては第3共振ピークが(0,1)モードであるとすれば,筆者が言うようにこの結果は大変興味深いものです。この辺の研究結果がレイズドフィンガーボードの楽器の開発契機になったのかもしれません。それと,悪い楽器に関してのコメントは無いですが,この研究からはっきり言えるのは,ウルフトーンの強い楽器はダメという事です。楽器の品質と周波数応答特性との関連はバイオリンでも良く調べられています。

Meyerらは,先の研究結果に基づき駒の大きさ形状と力木の検討を行ったとの事です。
表板の周波数応答特性と聴感との関係を踏まえた上で,ここでふたたび力木の配置の話題が取り上げられています。

図9.23.png

HauserもRamirezも力木配置の非対称性を取り入れて著しい成功を収めたとあります。図9.23で取り上げたHauserとRamirezの説明が逆になっています。(a)がRamirezで(b)がHauserです。どちらも非対称であることに変わりありませんので,大勢には影響ありませんが気になります。むしろ,(c)のKasha設計によるEbanギターがまるで抽象画の様な特異な非対称性を取り入れているのが目を引きます。ここでは記述はありませんが,Kashaは弦振動と表板とのインピーダンス整合の考え方でこの様な構造にしたようです。
非対称では無い画期的な表面板構造として,Smallmanの格子構造が紹介されています(図9.24)。

図9.24.png
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たこやきおやじ

Enriqueさん

「ギターとリュート」という題ですが、ギターをクラシックとフォークごちゃまぜでは困りますね。(^^;
私はクラシックとフォークは別物の楽器だと思います。弾いてみれば胴の振動や、音の出方が大きく異なると思います。よく読めばそのようなデータ数値も出ている様ですが。(^^;
いずれにしても、私の読解力不足かも知れませんが、直感的に初期条件の異なる2種類の楽器を、一からげで論じているように感じます。一体どんな事が結論になっているのか興味深いです。(^^;

by たこやきおやじ (2019-11-14 09:41) 

Enrique

たこやきおやじさん,
大ざっぱな見方と,詳細な見方は適宜変えていかないといけません。
楽器が違うから話にならんという見方もあると思いますが,おそらく費用の都合でフォークギターを取り上げなければならない研究事情もあるのでしょう。ピアノやヴァイオリンの音響でもマクロには共通する点はあるので,使える共通とそうでない点は峻別しないといけないでしょう。
ドイツの試聴テストの紹介に関しては実用的だと思います。
ここの章はギターリュートに関する幾多の研究紹介であり,結論というものは特にないですね。筆者は当然クラギとフォークの違いは意識しており,先に(1,0)モードと(0,1)モードの周波数が逆になっていると言っています。一般の世の認識のほうが十把一絡げで,楽器の百科事典なる書籍でもフォークギターやエレキギターが取り上げられたりします。
by Enrique (2019-11-14 10:42) 

たこやきおやじ

Enriqueさん

Enriqueさんにこの様に言われると、そうなのかと思ってしまいます。
(^^;
Martin D-28は数十万円はする楽器の様ですが、「費用の都合で」元々筆者が持っていたものを使ったとも考えられますね。(^^;


by たこやきおやじ (2019-11-14 11:21) 

Enrique

たこやきおやじさん,
スポンサーシップの問題だろうと思います。
アコギのメーカーなら,かなり出せますし,楽器の提供もしてくれるでしょうが,クラギは個人製作ですから,お金の出所が有りません。高級楽器を入手するだけでも大変です。
高級楽器を砂に埋めるのもあまりやりたくないですね(汗)
by Enrique (2019-11-14 17:03) 

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