「楽器の物理学」を読む(その9) [楽器音響]
「楽器の物理学」の第III部,「第9章 ギターとリュート」をゆっくり見ています。今回は9.9節の「音の放射」が対象です。
今まで,弦の挙動,胴の挙動,弦の振動力がどのように表面板を揺するかを見て来ました。ここでは,各モードに対応する表面板など(裏板も含め)の振動がどのように音波として放射されるかを見ます。
9.9 音の放射
訳のタイトルを問題にしましたが,9.3節ですでに弦が発生する力に関して取り上げられています。あのような弦力に対して,楽器がどのように応答するかというのがここでの議論対象です。
文章は少ないですが,興味深いデータが示されます。Martin D-28の特性ですが,400Hz前後の2つの振動モードは,表面板の加速度レベルとしては最高なのにも拘わらず,1mの前方でも音としては余り放射されていません(図9.20)。
このことは,図9.21の指向特性でも示されます。
102Hzや204Hzのモード;すなわちキャビティモードと連成した表面板の(0,0)モードは,点音源の様に回り中に広がっていくのに対して,400Hz前後の2つの振動モードは,それぞれダイポールとクアッドポールの指向特性です。音が近接でキャッチボールされてしまって,正面に飛ばないことが分かります。この音は近接や狭い部屋では反射音でよく聞こえるのでしょうが,広いホールなどでは直接波としては届きにくいでしょう*(つづく)。
*楽器音の放射に関しては,10章のバイオリンの研究の方にやや詳しい研究成果が載っています。
コメント 0