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「楽器の物理学」を読む(その6) [楽器音響]

「楽器の物理学」の第III部,「第9章 ギターとリュート」をゆっくり見ています。今回は9.5節と9.6節を見ます。

ここまで,9.3節で弦が発生する力,9.4節でそれを受ける胴の振動モードをみて来ました。9.5節と9.6節は,両者の結合モデルの研究に関する解説です。

9.5 表板とキャビティの結合:2共振器モデル
ここでは,まずギターの音響特性を単純化して,弦と表面板のみの2質量モデルとし,その等価電気回路で表しています。

振動モデルとしての2質量モデルというのは,連成振動としては最も単純なものです。例えば,ロボットハンドが物を持つモデルなどでも,ロボットハンド自体の質量と物の質量とで2質量モデルを考えます。

それから,等価電気回路で考えるというのは,一種のアナロジーですが,電気回路は対象モデルを簡潔に表現できて解析理論が出来上がっていますので,(真っ当な)等価回路さえ立ててしまえば,厳密にその挙動を調べることが出来るというメリットがあるからです。

示されている2質量モデルとその等価回路は図の通りです。
電気回路ですから,LRCによる等価回路です。電気回路の機械振動系との通常のアナロジーでは,インダクタンスLと質量M,電気抵抗Rと機械的損失R,静電容量Cとバネ定数の逆数(コンプライアンス)Cとが対応づけられます。ここでは,質量Mは単純な質量[kg]ではなく表板の面積の2乗で割り算したイナータンス[kg/m4]が使われます。電気抵抗に相当する機械的損失Rの単位が示されていませんが,他の量から逆算できるはずです。本文でのコンプライアンスの単位が,[N/m5]と表示されていますが,これは明らかにミスプリで,逆数の[m5/N]のはずです。

図9.10Small.png

この等価回路では,胴のモデルとしては表板のみの考慮ですので,ゆれる表板が仮想的なガチガチの箱に固定されていると考えるわけですが,箱のキャビティ共鳴は考慮されますので,そう無茶に単純化したモデルでも無いことがわかります。このモデルでは共振周波数が2つあり,その間に反共振点を1つもつ特性になります。これはバスレフ型スピーカのエンクロージャーの状況に類似との指摘です。

また,砂で埋めたフォークギターのMartin D-28の加速度応答は当モデルの特性を示しているとのことです。このモデルがギターの音響の基本をそれなりに表す最も単純なものといえるでしょう。

9.6 裏板との結合:3共振器モデル
2共振器モデルは裏板の影響を無視しますが,3共振器モデルでは裏板の結合も考慮します。これにより,共振周波数は3つになり,反共振点が間に2つ現れます。このあたりが解析的近似モデルとしては限度でしょう(これ以上精密なモデルにしたところで,大局を見るにはかえって不便になります)し,モノとしては側板で結合されている表面板と裏板を胴内の空気で結合させています(つづく)。
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