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「楽器の物理学」を読む(その5) [楽器音響]

「楽器の物理学」の第III部,「第9章 ギターとリュート」をゆっくり見ています。今回は9.4節です。

9.4 構成部品の振動モード
ここでは,ギターのボディの振動モードに関する記述です。振動モードとは連続体の周波数ごとにいくつもある共振点とそれらの揺れるパターンの事です。表面板,裏板,空洞の振動モードを扱っています。
まずブレーシングのない表面板のみの解析から紹介され,伝統的なブレーシング付きの表面板のみの解析結果,ついで,側板付きで裏板なし周りを固定したレーザーホログラフィとみられる解析結果,裏板・側板を砂に埋めた状態で示されます。

表面板の振動モードを調べる際,響孔は閉じることが多いとのことです。
表板だけだったり,砂に埋めたり,響孔を閉じたり,なぜそのままの楽器での解析結果が少ないのか?という疑問が湧いて来そうですが,これには真っ当な理由があります。

まず言えるのは固定条件によって結果が変わってしまうからです。
机の上に置いたら,机の振動系も含めた解析になってしまいます。楽器研究といえ真面目な学問的解析であれば,当然のことながら実験条件が一定しない再現性の低い研究結果は評価されません。機械装置などの振動解析ではフリー・フリーという保持条件がよく用いられます。全体の振動に影響の少なそうな節の部分をしばった紐で吊るすとか,ごく柔らかいスポンジの上に置くとかです。ギターの場合でも行われる様ですが本体が軽いので,再現性を得るにはかなりの熟練が必要でしょう。そもそも結果として得られる振動モードに影響の少なそうな固定点を予めどう探すか。その点,正反対の条件である砂に埋めた状態のほうが,測定条件としての再現性は良いのかもしれません。ただ,砂は振動吸収性能が高いと言われますが,一口で砂と言ってもその種類や湿り気などで特性が異なる気はします,例えば日本の川砂と西洋の白っぽい砂では特性が異なる気もします。

響孔に関して言えば,純粋なヘルムホルツ共鳴器は入れ物が十分固くて鳴らない想定なわけですが,何しろギターの響胴はよく響く様に出来ていますから,ヘルムホルツ共鳴により,表面板もしくは胴自体の振動モードも大きく影響されてしまい,その逆もあるでしょうから分離することが出来ません。表面板だけだったり,裏板をつけなかかったり,響孔を閉じたりするのはそのような理由によります。

製作家ごとの(特に)表面板のいろんな力木パターンは,一言で言ってしまえば,この振動モードをコントロールする事と言っても過言では無いでしょう。板などの振動モードを調べる最も原始的な方法が「クラドニ図形法」です。振動する板の上に砂を撒き,振動の節に集まったそのパターンを観察する方法です。ちなみに桜井正毅氏は砂の代わりにコメを使っていました。

とはいえ,何らかの一定した固定条件によるマトモな楽器の調査も必要です。図で示されているのがクラシックギターではないですが,砂に埋めたMartin D-28のパターンです。図のキャプションにあるように表面板を調べるときは,表面板と側面板までを砂に埋め,裏板を調べるときは表面板と側面板を砂に埋め,キャビティ共鳴(ヘルムホルツ共鳴)を調べるときは楽器全体を砂に埋めて(響孔のみ出すのでしょう)測定しているとのことです。

表面板の2次元のゆれパターンを表すには,(0,0)とか,(0,1)とか,(1,0)モードとかを使います。カッコ内の数字は,その方向の振動の節の数を表しています。(0,0)モードではどこにも節のない揺れです。最も低い基本モードです(実はさらに低いのが楽器全体の揺れなわけですが)。(0,0)モードは表面板全体が前後振動する,いわゆるオーディオのスピーカでいうところのピストンモーションです。

(0,1)モードは,ギターを立てた状態でいうと表面板の振動が上下で波打つ状態,響孔側とブリッジ側が行ったり来たりする揺れです。(1,0)モードは,同様の状態で左右すなわち弦の高音側と低音側で波打つ状態といった状態で,以後数字が増えていくと高い振動モードで色んな波打った振動モードが現れます(オーディオのスピーカでいうところの分割振動です)。

クラシックギターとフォークギターでは,力木の配置が異なるので,(0,1)モードと(1,0)モードに対応する周波数が逆転しているとのことです。すなわち前者は弦の高音側と低音側との方向に動きやすく作られているのに対して,後者は響孔側とブリッジ側との方向に動きやすく作られているということです。本文中では触れられていませんが,前節で見た弦の力の発生の仕方(ナイロン弦はほぼ横揺れ力のみで,スチール弦は伸縮振動も同程度ある)が関係していそうです(つづく)。 カット.png
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