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インハーモニシティと弦長補正(1) [楽器音響]

久々に理工学的記事です。とはいえ,弦に関わる考究ですので,カテゴリーは「科学と技術一般」ではなく,「楽器音響」としました。

マンドリンの方のブログで,昔と異なりこの頃の楽器のブリッジはギザギザになっており,その理由は張力の差ではないかとの指摘がありました。

とある計算で張力を求めると,右から①弦: 7.96 kgf,②弦: 5.76kgf,③弦: 8.69kgf,④弦: 7.48kgfで,①弦はさておき,②弦以下のズレが張力と対応していると。
弦長補正の話題であり,当ブログでも過去に何度かとり上げました。

太い弦ほど曲げ剛性が大きくなりますので,インハーモニシティ(不調和度)が大きくなります。これが弦長補正に効いているかどうかを以後検討します。

太さが一定の弦の場合には,インハーモニシティは張力が高いほど減りますが,ここで扱っている課題は,楽器に張られた異なる太さの弦の比較なわけです。弦の太さを,開放弦の音程に応じて厳密に調整して張力は一定にすれば,張力差によるとする音程調整は必要無い事になります。それになぜ,弦メーカーは張力を一定に揃えないのでしょう?原因は別のところにありそうです。

したがって,「張力が低い弦が音程補正が大きい」という,見かけの数字から結論を出してしまうと,「張力さえ高くすれば音程補正を小さくできる」という必ずしも妥当でない結論になりかねません。

この例ですと,張力と音程ずれとは①弦を除けばある程度相関関係があるように見えます。「張力の低い弦は音程ずれが大きい」と。しかし,これは相関関係であって因果関係ではないのです。因果関係を探るには,支配原理から定量的な議論をする必要があります。

様々な事象間の相関関係と因果関係とは一致する事もあれば,相関関係は出ていたが因果関係はほぼなかったということも少なくありません。

このような理工学的に明らかな事であってさえも,見かけの数字につかまってしまう事があります。この様なことは,世の中では良くありそうな事です。相関関係に基づいて対策を打ったが,効果が全く無いと。いや,無いならまだしも,逆効果にしてしまうことすらあります。

ここでいうインハーモニシティとは,音程の弦長の反比例則からのズレです。
例えば,理想的には(ハーモニシティ)では弦長を1/2にすれば,オクターブ音程が出ますが,インハーモニシティが出てきますと,弦長が1/2ではオクターブより少し上がります。そのため,弦長を少し長くしてその分を補正しないといけないはずです。

この話,長くなりそうなので,ここで切ります(つづく)。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

この問題は、私は大変興味のある分野です。「つづき」を期待しております。(^^;
by たこやきおやじ (2019-05-25 11:05) 

Enrique

たこやきおやじさん,
以降,数式で説明したいと思います。
by Enrique (2019-05-25 13:05) 

アヨアン・イゴカー

>太さが一定の弦の場合には,インハーモニシティは張力が高いほど減ります

興味深いです。今はすっかり飾りになってしまった、中古のギターの第六弦を張った時このように感じました。Eの音にするためには相当にゆるく張っておかないといけなかったのですが、倍音などを抑えると音が狂っているように感じました。その時は低音だから開放弦の音が正しく聴き取れていないのかもしれないと思いましたが・・・
by アヨアン・イゴカー (2019-05-26 23:23) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
たしかに極端にゆるく張った弦の場合,音程が合わないことは経験します。弦の理想からずれてしまうためですが,以後数式を用いて検証してみたいと思います。
by Enrique (2019-05-27 06:17) 

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