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ふしぎな版画の種明かし? [雑感]

前回の版画のマチガイを探してみました。
おそらく,作者は何事も無いかのような画面に確信犯的に,非現実的なものを入れているようです。

マリオ・アバチ氏の銅版画。良く見るとしれっとダマシが隠れています。
人間は興味・関心のあるものにのみ目が行きますから,私はギターのフレットに目が行き,あれれれーと思ってしまいましたが,この単純な画面の中に作者は,幾つかダマシを仕込んでいます。

1.ギターのフレット間隔が逆
最初すぐ気付いたのがこれでした。高音になるにつれ,フレット間隔が狭まるはずなのに広げています。この画はこれが主題?とばかり思っていました。こんなすさまじいダマシにも気がつかない人も結構いるのではないでしょうか?当方の妻も気が付いていません。驚くべきマチガイなのですが,人々の物事の認識のいい加減さに大変な皮肉が込められているような気がします。

2.楽譜の上においたメガネを通した画像のズレ具合がおかしい
変なギターにばかり目が行ってしまいますが,メガネを通した画像に度が感じられません。屈折による多少の画像の浮き上がりはあるでしょうが,それ以上に左右に大きくずれるはずがありません。少なくとも楽譜の右下の角が見える事はなさそうです。ひょっとしたら,やはり人々が物事の真実を見ずに変なメガネで見ているという皮肉かもしれません。

3.ギターの置かれ方は安定しないはず
机とも判然としない(足が無く宙に浮いている)板の上に安定に置かれているのであれば,ギターの側面板と台板とが平行になるはずですが,そうなっていません。安定に置いたというよりも後ろに倒れる状態ですので,ボディの裏にまくらの様な支えがないと,このようには置けません。何か不安定なものを無理やり安定化している人工物への皮肉かもしれません。

4.楽器と楽譜,メガネの置いた向きがヘン
一見,練習中にちょこっと楽器を休ませて小休止という風情にみえますが,奇妙です。
奏者が向こう側なのか,こちら側なのかが分かりません。
楽器の向きからしたら,奏者は向こう側のはずですが,メガネを置いた向きからすると,奏者はこちら側にいないといけません。すると,楽器をわざわざ左右表裏反転させて置かねばならず,ちょっと休ませたと言う風情にはなりません。ムダに働かされている人類へのレクイエムでしょうか?

5.楽譜の向って右側のページのうねり具合がやや不自然
紙のうねりですから,多少不規則があってもよさそうではありますが,下の段よりも上の段のほうが楽譜の紙自体のうねりは大きいはずなのに,楽譜のうねりはむしろ小さくなっています。これはちょこっとした不正の告発?でしょうか。

あと,楽譜が落ちそうとか,メガネのツルが無いとか,糸倉を透かして向こうが見えないとか,まだまだありそうですが,細部の省略の可能性もあるので,このくらいにしておきますが,案外写実的なのでついつい騙されてしまう一種のトリックアートなのでしょう。最初楽器を知らない画家がヘンな絵を描いているとばかり思っていましたが,実はかなり良く分かった上で,あちこちダマしているようです。逆間隔のフレットばかりが見えてムカついていた自分に反省しきりです。
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REIKO

萌えますね~、こういう話は(笑)!
ミステリ小説で探偵が、他の登場人物や読者が見過ごしている些細な点を指摘して「なぜ犯人は◯◯しなかったのでしょう、普通なら▲▲を◇◇するものではありませんか?実はここに、この奇怪な事件の謎を解く鍵が隠されているのです」などと語り始めると、私の知的興奮は絶頂に達してしまうのです…

で、前記事を読み返したら、この版画のタイトルは「楽譜」だというではありませんか!
しかしこの版画のどこに楽譜があるというのでしょう?
置いてあるのは「五線紙ノート」だけで、そこには音符はおろか音部記号さえ書いてありません。普通これを「楽譜」とは言いませんよね。
フレット間隔が逆のギター、音符のない五線紙、そして演奏者の姿も見えない…音楽を題材にした作品のようでいて、実は全く音楽が想像できないのです。
ここにあるのは「無音」の空間、支配しているのは不思議な静寂です。

作者がニヤニヤしている顔が思い浮かぶような…?
by REIKO (2019-04-16 01:10) 

Enrique

REIKOさん,萌えていただき,ありがとうございます。
フレットが逆なだけで捨ておこうと思ったのですが,妙に気になってしまいました。おそらく作者の意図にハマってしまったのですね。
メガネを通した画像に関する記述を修正しました。合っている様で合っていない,なかなか微妙な事をやるものです。
題名に関しては,日本語のページには「楽譜」となっていたので,そのまま使ったのですが,原語を確認してみますと,"Le Carnet de Musique"となっており,「音楽ノート」,ご指摘の様に「五線紙ノート」で正しい様です。「楽譜」だと"Score"になるはずですね。日本のギャラリーが誤訳したものをそのまま使ってしまったようです。普通だとそう問題になるレベルではないのでしょうが,こういう作品では決定的になりますね。
もっとも音符が書き込んであれば,「楽譜」としても良いでしょうがそれは無く,メガネがあるのに,筆記具がなく,音楽を演奏しようとしているのか作曲しようとしているのかさえ分かりません。画面に関する有機的な説明をことごとく拒否しているようです。
by Enrique (2019-04-17 06:37) 

アヨアン・イゴカー

めがねのご指摘を見て、実際に虫眼鏡を描かれているように楽譜の上にかざしてみると、屈折が左右反対になっていて、楽譜の端は見えませんでした。
ブリューゲルやボッシュなど、寓意などを作品のなかに描きこむ作家は多いと思いますが、こういう探し物は面白いですね。
by アヨアン・イゴカー (2019-04-24 18:25) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,実験していただけましたか。
普通は老眼鏡ですら,虫眼鏡で良いと思います。そうすると決して絵の様には見えません。
ただ五線譜の画像は全く拡大していないので素通しのガラスの様です。だとしても絵の様にはずれません。あれもこれもどれもツジツマが合わず徹底的に理不尽にしているようです。ただ,よくよく注意して見ないとその理不尽さに気がつかない。気がつくと気になりだしますが,気がつかなければやりすごしてしまう。なにやら徹底した社会風刺の様に見えます。
by Enrique (2019-04-25 06:34) 

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