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楽器に関する与太話 [雑感]

天才的楽器製作者は,いわゆる科学的アプローチはしてないにしても(しているのかもしれませんし,きっとそうなのでしょう)作ることが目的で科学的な解析は手段です。

伝統的な製作家は様々な工具は使うにしても,耳と目と手が頼りなのでしょう。

叩いて音を聞くというのは,いわゆる「タッピングテスト」です。全く科学的なアプローチです。
インパルス応答を調べる手段として,応答を数値で捉えずに耳で聴くところが異なるだけです。良い耳を持った製作家ならば,下手な測定用マイクロホンや加速度センサーよりも鋭く音を聴き分けることでしょう。

ある製作家から聞いた話では,いくら忠実にコピーしても,だれそれ風ハウザーとか,だれそれ風ブーシェ(もしくは,ハウザー風だれそれとかブーシェ風だれそれ)だとかになるのだそうです。という事は,その製作家特有の音というものがあるわけです。この辺になって来ますと,科学的アプローチも難しいところでしょう。ただ,別の人から聞いた話では,完全なコピーは出来るとも言います。こちらも一理ある様な気もします。同一作家だって,楽器ごとのバラつきがあるわけですから。アンチグア・カーサ・ヌーニェスはシンプリシオの完全コピーだとベラスケスも言っていました。

もっとも,誰某が言ったと言う話を切り貼りでしても,正しい結論にたどり着けるものでもありません。人により正反対の事を言っている事もあります。

敢えて,自分なりの結論を言えば,「構造,素材,組み立て方」でしょうか。

モダン・クラシカルギターでは,やはりトーレスが構造の基本でしょうが,細かなヴァリエーションは生まれています。また近年では,大幅に構造を変更した楽器もあります。

何分木材という自然素材ですから,その素性やエージングは重要になります。

最後の組み立て方は,さほど影響しない様にも感じますが,同じ部品を使う機械装置であっても,組み立ての稚拙というのはものすごく出るのだそうですし,むしろ部品のバラつきが少なければ,差は組み立てだけで出ると言ってもよいでしょう。

これらは,どれかが支配的に効くと言うものでもなく,合成積(たたみ込み)的な概念になるのでしょう。構造はそう変えないですが,作家によってはがらりと変える場合もありますし,オリジナルな構造に加え,銘器のコピーモデルを出す場合もあります。作家の音と銘器の構造とのコラボになるわけです。

同じ作家でも異なる木材の楽器を出す場合もあります。材料込みでその作家の音とする場合もあれば,材料の違いがその作家のバリエーションという事もあります。こちらは,作家の音と素材の音とのコラボになるわけです。

組み立てに関しては,バラバラになるくらいの大修理でも,ハウザーはハウザーの音がすると言います。修理においては,「構造,素材,組み立て方」の3つのうちの2つ目までは共通なわけで,3つめに多少の偏差が出たとしても,大勢に影響しないということになります。

塗装も音質に効くと言う意見があります。特に表面板に関しては,いわば振動板の表面に塗るわけですから,効かない道理は無いでしょう。これを4つ目の要素とするか,3つのどれかの要素に入れてしまうか,悩ましいところではあります。大して意味の無い独断的な分類ですが。
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EAST

Enriqueさん
3要素は適切な分類ではないでしょうか。
細分化は可能なのかもしれませんが、相互に影響するところもあるでしょうから、あまり細かい要素に分類してもわかりずらいことになるのかもしれません。
塗装は、3つのどれかに入れるとすれば素材でしょうか。厚みによる差、影響を重視すると構造ともいえるのでしょう。表面版の木材の種類(例えば松、杉)と板厚をを例えば素材、構造に区分するのであれば、これは「構造」になるのかもしれません。

以前、ギターショップで個人製作家の楽器について、音の良い楽器を作る製作家は概ね最初から良い楽器を作り、力量の劣る製作家は製作本数が増えても良くはならないことが多いと、聞いたことがあります。組み立て方の影響が限定的であれば、見た目ではわからない微妙な構造でも差が出るのかもしれないと思いました。優れた製作家はその辺を認識する能力が優れているのかもしれません。タッピングテストもその一例のように思いました。

by EAST (2019-04-10 18:01) 

Enrique

EASTさん,ご同意いただきホッとしました。
なかなか定量的に表しにくいものだろうと思います。
例えば,ハウザーやベラスケスは表面板を厚めに作ります。ベラスケスは,音は表面板で鳴らすものであってブレーシングでは無いと言いました。それはそれで一理ありますが,ならば薄い表面板の楽器は全然ダメかというとそうでも無くて,単に流儀の違いなのだろうとこの頃は考えています。表面板を薄くしただけでは構造が持つわけがないので,その分ブレーシングの高さを高くする事でしょう。表面板が薄い楽器の製作者から見たら,厚い楽器はその分ブレーシングを弱めているに過ぎないでしょう。そうしないと鳴り難い楽器になってしまいます。何もグローバルな最適解があるわけではなく,それぞれの流儀の中での最適解を見出しているのが銘器と言われるレベルの楽器なのだろうと考えています。一言で言ってしまえば,バランスと言う事になりますか。
by Enrique (2019-04-12 10:59) 

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