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バッハのプレリュード,フーガ,アレグロ(BWV998) [曲目]

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この曲には思い出があります。

イェラン・セルシェルが,78年のパリコンで11弦ギターを持って現れ,優勝した記憶です。
NHK-FMでコンクールの模様が放送されましたので,カセット・テープで録ったものでした。現在でも残っています。

もうひとつ思い出があります。
「バロック音楽の楽しみ」という番組(現在は古楽の楽しみ)で,1980年ごろ「リュート,ギター,マンドリンの音楽」という特集が組まれた事があります。その中で,リュートの演奏でこの曲が取り上げられた事がありました(その件はブログ開始初期に書きました)。その特集番組は,まるまる2週間分でしたので,1回45分の放送でしたので,90分テープ5本分の録音でした。朝起きの苦手な私でしたが,オーディオタイマーを使って,まるまるエアチェックに成功したのでした。しばらくして,現代ギター誌上で,同番組の録音した人はそのダビングいただけないかという声が載りましたので,早速送って差し上げたところ,大層喜ばれ,過分なお礼をいただいた記憶があります(今なら著作権問題あるところかもしれませんが,時効としてお許しを)。今思えば同雑誌にその様な読者交流のコーナーがあったのでした。沖縄の方でしたが,その後ご結婚され関東にお住まいの事と思います。

当時学生の私はギターのレコードとか買えませんでしたので,この曲を初めて聞いたのが,セルシェルのパリコンでの演奏のFM放送でした。そして多分2回目がこの放送,そして3回目以降は良く分かりません。仕事が忙しくギターは長らくブランクだった事もあり,イエペスのリュート演奏(録音年72,73年)だったか,ジョン・ウィリアムスのギター演奏だったか,はたまた田部井辰雄さんだったか,分からなくなってしましまいました。先日レッスンで,デイヴィッド・ラッセルやらエデュアルド・フェルナンデスやらを聞かせて貰いました。

変な例えで,アヒルの雛が最初に見た動くものを何でも母親だと思い込んでしまうように,私にはセルシェルの演奏が印象に残りました。もちろんアヒルの場合は,最初に見た動くものが本物の母親であることが多いので,そういう本能になっているのですが。

現在では相当数のギタリストがこの曲を演奏し,アマチュアでもバンバン弾きます。私の学生時代には,結構難曲の部類だったと思います。私も取り組みましたが,当時プレリュードしか弾けませんでした。

昨年,ジョン・ウィリアムスの再版が出ました(録音年確認)。
フレタだったかエルナンデス・イ・アグアドだったかを駆って,分厚いメガネを掛けて覗き込むような演奏スタイルの時です。不自然さは全く感じられず,伸びやかなものでした。ギターで演奏されたものとしては最高ではないかと言われたものです。

J.S.バッハ:リュート組曲(全曲)(期間生産限定盤)

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私が初めて取り組んだ時は,楽譜が入手できませんでした。東條俊明氏?編だったかのものを使った記憶がありますが,そうこうしているうちに現代ギター社から,バッハのリュート曲全集が出ました。本誌にはファクシミリが載っているなど,当時としては画期的な優れものでしたが,とうに紛失,大事にしていた別冊楽譜も,その後子供に破られたり,いたずら書きをされて,見るも無残な形で残っています。

実はこの曲もセゴビアが手掛けていました。
私は後から知ったのですが,件の番組で「セゴビアの演奏でバッハに親しんだ方も沢山いらっしゃったのではないか。」と,服部幸三さんがあの穏やかな語り口でおっしゃっていましたが,私はこの曲のセゴビアの演奏は知りませんでした。後々,セゴビア版の楽譜の存在などで知ったというのが正直なところです。

私の不明はさておき,リュートで盛んに演奏されるようになったのもそう古い出来ごとではなくて,セゴビアのギターによる演奏は20世紀にはさきがけだったようです。70年代でさえ,ギタリスト(としては名手)のイエペスがバロックリュートを急造で弾いても名演になる時代だったのです。

バッハ:リュート作品集

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カザルスが無伴奏チェロ組曲を再発見したように,もっと溯ればメンデルスゾーンがマタイ受難曲を再発見したように,バッハは再発見され続けているとも言えましょうか。しかしそのメンデルスゾーンでさえ,無伴奏ヴァイオリンのシャコンヌにピアノ伴奏を付けるという暴挙?!をやらかしています。

20世紀中盤までは依然,バッハの「平均律クラビーア曲集」が「平均律ピアノ曲集」と呼ばれ*,「チェンバロの様な不完全な楽器でバッハを演奏するのはまかりならん」とまで「大真面目に」言われた時代でした。その様な時代ですから,セゴビアのギター演奏もバッハのリュート曲を演奏する上で十分な正当性を持っていたものと推測されます。

20世紀末から今世紀にかけて,古楽が急速に復興しました。いわばバッハになされた再発見が,他の作曲家にも敷衍していったとも言えるのかもしれません。一旦はその時代主流の楽器で再演され,次第に研究が進んでオリジナル重視に収束していく流れを示しているのかもしれません。しかし余りにもオリジナル至上主義というのもまたつまらない,となって歴史はまた繰り返すかもしれません。

以後は批判されるのでしょうけどもランドフスカのモダンチェンバロやブリームのモダンリュート?の演奏は古楽復興のさきがけ的な働きをしたと言えるでしょう。はてさて,昔話が嵩じてしまいました。私にとって何度目かになる「プレリュード,フーガ,アレグロ」演奏を始めようと思っています。


*真鍋理一郎氏訳の「セゴビア自伝」にその様な表現が見られます。
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夢笛myu

私も思い出深い曲です。とは言っても弾いたのは、プレリュードとフーガのみで、快速なアレグロは弾けませんでした。フーガは、バッハのオルガン曲BWV522の雄大なフーガ変ホ長調とよく似た雰囲気をもっています。それをどうしても弾きたくて取り組みました。30年ほど前です。楽譜は、安倍保夫編のバッハ曲集を使いました。6弦レのニ長調版ですが、さらに、3弦も半音下げのFisにして、運指を書き換えました。ちょうどその頃リュートも弾いていたので、3弦Fisは抵抗がありませんでした。今はもうどちらも弾けないです。よくよあのフーガを暗譜で弾いたなと、我ながら思います、若気の至りか?
by 夢笛myu (2017-07-28 13:57) 

黒板六郎

私にとって「すりこみ」がまさにジョンの演奏でした。先輩にとってもらったカセットを何度聞いたことでしょう。ですから昨年やっとCD復活したジョンのバッハに歓喜しました。
学生時代にフーガを発表会で演奏しましたが、途中で記憶が途切れました。どうにかつないで終わりましたが、ようやったもんだと今さら思います。
by 黒板六郎 (2017-07-30 10:42) 

Enrique

霧笛myuさん,コメントありがとうございます。
この曲はギターで弾くバッハとしてはもっともポピュラーなもので,再開後も最初に取り組んだ記憶があります。特にフーガは大変なものだと思います。私の独学時代には歯が立ちませんでした。再開後は全曲暗譜していたのでが,今ではすっかり忘れて,また一からやり直しです。
by Enrique (2017-08-01 06:12) 

Enrique

黒板六郎さん,確かアマゾンのジョンのCDにコメントされていましたね。
素敵な曲です。くさるほど曲がある鍵盤の人でもわざわざこれを弾きます。妻も私の楽譜引っ張り出して初見で弾いて,指慣らしに丁度良いわなどとのたまわっていました。それにしてもフーガをギターで弾くのはかなりの難物だと思います。これが行けたら,アレグロは軽いと思いますが,またこちらは軽快に行く別の難しさがありますが。
by Enrique (2017-08-01 06:20) 

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