ネックの補強について~バイメタル効果再考~ [楽器音響]
「ネックの補強について」の記事でしたが,ネックの反りに関して論考して行くうちに,木材の膨張収縮の問題に突き当たりました。
木材の膨張収縮は湿度によるものが支配的だと決めてかかっていましたが,アヨアン・イゴカーさんから,熱膨張も効くのではないかというご指摘をいただきました。確かにその通りだと思い,調べてみました。熱の方が即応的に効きますし,そもそも引き合いになっているバイメタルは熱膨張率の差ですし。
ちなみに金属では,比較的小さいWが4.5ppm/K,大きいPbで28.9ppm/K位です([ppm/K]は1度の温度変化で100万分の幾ら歪むか)。それに対して,木材は,繊維方向で,3~6ppm/K,繊維に直角方向で,35~60ppm/Kのなどの様です。木材といっても樹種様々ですが,この値は杉材の様です。面白い事に,木材の温度膨張率は,繊維方向では熱膨張率の小さい金属並みで,繊維と直角方向ではそれが大きな金属並みだということがわかります。
ネックの反り問題は,繊維方向に関してです。繊維方向に関しては,木材の熱膨張率はかなり低いということがわかりますが,低いながらも樹種による膨張係数の違いが分からないと分かりませんが,詳しいデータはあまり無いようです。ネットを探すと,このあたりしか見つかりません。
この表にはマホガニーとエボニーはありませんが,樹種ごとの熱膨張率のオーダーは分かります。
木材の物理特性を詳しく記しているのは,このあたりでしょうか。こちらの文献では,たくさんの木材のデータを示していますが,熱膨張に関しては,データを示さず,「通常の温度範囲では熱膨張はネガティブになる」と書いています。木材の繊維方向の通常の熱膨張は小さく,温度が上がると相対湿度が下がって,乾燥による収縮が効いてくるからの様です。
乾燥による長さ方向の収縮率は,大雑把な値ですが(精度の高い測定はムリなのでしょう),こちらに表があります。
繊維方向で見れば,マホガニーの収縮率が0.1%,エボニーのそれが0.2%です。同じく繊維方向の熱膨張係数はppm/Kのオーダーなので,仮に100度の温度変化による膨張としても0.01%のオーダーですから,純粋な熱膨張よりも相対湿度低下による乾燥収縮の方が勝っているといえそうです。そのため,見かけ上,熱収縮するということになります。
そこで,ここでは収縮にしろ膨張にしろ湿度で考えることとします。表の値より,マホガニーの最大収縮率が0.1%,エボニーのそれが0.2%として,かなり大雑把にエボニーの方の収縮率が2倍と考えます。これは最大の収縮率ですから,十分乾燥されて楽器になった材は,通常の環境下でどのくらい伸び縮みするのでしょうか?
指板のフレットの飛び出しや引っ込みがその目安になると思います。経験的に,指板のエボニーは幅方向に両側に0.15mmづつ飛び出したり,引っ込んだりするとします。その数値より,指板幅を60mmとしますと,膨張収縮のレンジはプラスマイナス0.5%となります。大雑把に両木材の長さ方向の伸び縮みを,幅方向の1/30程度としますと,指板のエボニーの長さ方向の伸び縮みは約0.03%,マホガニーの伸び縮みはその半分の0.015%とします。この値を用いて,材料力学の計算手法を用いてネックのナット上での真っ直ぐからの反り量をごくごく大雑把に計算しますと(計算式等は省略します),乾燥で順反り,湿潤で逆反りで,プラスマイナス1.5mm程度になることが分かります。
ただし,木材の材料定数は文献により結構異なり,さらには同一の調査でも2倍程度のバラツキはあることが分かります。また,今回の主題とはそれますが,木材は繊維方向と繊維と直角方向とで特性が全く異なるのはもちろん,さらには板目方向(tangental direction)と柾目方向(radial direction)とでもかなり異なります。特に前者よりも後者の方が乾燥収縮率が小さいことからも,割裂材(必ず柾目になる)の良さが分かりますし,板目材では表側が凹に歪むことも両者の収縮率の違いにより説明できます。
木材の膨張収縮は湿度によるものが支配的だと決めてかかっていましたが,アヨアン・イゴカーさんから,熱膨張も効くのではないかというご指摘をいただきました。確かにその通りだと思い,調べてみました。熱の方が即応的に効きますし,そもそも引き合いになっているバイメタルは熱膨張率の差ですし。
ちなみに金属では,比較的小さいWが4.5ppm/K,大きいPbで28.9ppm/K位です([ppm/K]は1度の温度変化で100万分の幾ら歪むか)。それに対して,木材は,繊維方向で,3~6ppm/K,繊維に直角方向で,35~60ppm/Kのなどの様です。木材といっても樹種様々ですが,この値は杉材の様です。面白い事に,木材の温度膨張率は,繊維方向では熱膨張率の小さい金属並みで,繊維と直角方向ではそれが大きな金属並みだということがわかります。
ネックの反り問題は,繊維方向に関してです。繊維方向に関しては,木材の熱膨張率はかなり低いということがわかりますが,低いながらも樹種による膨張係数の違いが分からないと分かりませんが,詳しいデータはあまり無いようです。ネットを探すと,このあたりしか見つかりません。
この表にはマホガニーとエボニーはありませんが,樹種ごとの熱膨張率のオーダーは分かります。
木材の物理特性を詳しく記しているのは,このあたりでしょうか。こちらの文献では,たくさんの木材のデータを示していますが,熱膨張に関しては,データを示さず,「通常の温度範囲では熱膨張はネガティブになる」と書いています。木材の繊維方向の通常の熱膨張は小さく,温度が上がると相対湿度が下がって,乾燥による収縮が効いてくるからの様です。
乾燥による長さ方向の収縮率は,大雑把な値ですが(精度の高い測定はムリなのでしょう),こちらに表があります。
繊維方向で見れば,マホガニーの収縮率が0.1%,エボニーのそれが0.2%です。同じく繊維方向の熱膨張係数はppm/Kのオーダーなので,仮に100度の温度変化による膨張としても0.01%のオーダーですから,純粋な熱膨張よりも相対湿度低下による乾燥収縮の方が勝っているといえそうです。そのため,見かけ上,熱収縮するということになります。
そこで,ここでは収縮にしろ膨張にしろ湿度で考えることとします。表の値より,マホガニーの最大収縮率が0.1%,エボニーのそれが0.2%として,かなり大雑把にエボニーの方の収縮率が2倍と考えます。これは最大の収縮率ですから,十分乾燥されて楽器になった材は,通常の環境下でどのくらい伸び縮みするのでしょうか?
指板のフレットの飛び出しや引っ込みがその目安になると思います。経験的に,指板のエボニーは幅方向に両側に0.15mmづつ飛び出したり,引っ込んだりするとします。その数値より,指板幅を60mmとしますと,膨張収縮のレンジはプラスマイナス0.5%となります。大雑把に両木材の長さ方向の伸び縮みを,幅方向の1/30程度としますと,指板のエボニーの長さ方向の伸び縮みは約0.03%,マホガニーの伸び縮みはその半分の0.015%とします。この値を用いて,材料力学の計算手法を用いてネックのナット上での真っ直ぐからの反り量をごくごく大雑把に計算しますと(計算式等は省略します),乾燥で順反り,湿潤で逆反りで,プラスマイナス1.5mm程度になることが分かります。
ただし,木材の材料定数は文献により結構異なり,さらには同一の調査でも2倍程度のバラツキはあることが分かります。また,今回の主題とはそれますが,木材は繊維方向と繊維と直角方向とで特性が全く異なるのはもちろん,さらには板目方向(tangental direction)と柾目方向(radial direction)とでもかなり異なります。特に前者よりも後者の方が乾燥収縮率が小さいことからも,割裂材(必ず柾目になる)の良さが分かりますし,板目材では表側が凹に歪むことも両者の収縮率の違いにより説明できます。
ちょっとした思いつきを書いてしまいましたが、改めて詳しく論考されていて恐れ入ります。
私のチェロは特に、気温が一定のときは狂いが少なく、突然温かくなった日や寒くなった日に音程が酷く、ずれるように思います。
ところで、木目と言えば、宮大工などの職人が木目を縦横組み合わせて、材木そのものの狂い(反り)を吸収させる技術があると言うのを読んだことがあったと思います。
by アヨアン・イゴカー (2017-01-30 00:11)
アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
金属など湿度の影響のないものは熱膨張率の測定は簡単ですが,木材は湿度の影響の方が大きく,温度変化による相対湿度の変化の影響が大きいことなどが分かりました。また,関連して板目と柾目の狂いの違いの原因を理解することもできました。
弦楽器の短時間の音程の狂いは温度変化による弦の伸び縮みのせいが大きいのだろうと思います。
木材のくるいに関しては,私も茶室風のものを建てた時,ある程度考慮に入れてやりました。表裏元と末はもちろん,狂いをどう分散させるかです。しかし,組んでいくと最後にはかなりの誤差が出てはまりにくくなりますが,撓めて嵌め込みました。無垢の木の変形は予想外に大きなものです。集成材などで狂いを抑え込んでしまえば簡単で良いですが,木の持ち味を半減させてしまいます。
無垢材を使いこなすには木目の読みが重要です。重要箇所には反りどめの技法はありますが,いずれも木に無理を掛けないよう構造としてバランスをとるような木使いが重要だと思います。
by Enrique (2017-01-30 06:37)