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「息苦しくない演奏」の方法論~藤原真理さんのレコードの思い出〜 [演奏技術]

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「息苦しくない演奏」に関して,そもそも演奏の「息」とは何ぞや?

前回書いた拍節は,鼓動に相当する基本的脈動です。音が2つ以上連なれば,自然発生して来ます。2拍子,3拍子,4拍子とかいうのは記譜上の基本的約束事であり,必ずしもそれにきっちり縛られる訳でもありません。特有のリズムなり歌なりがあるからです。

1980年前後流行ったテクノポップは,聴きなれない人工的サウンドが新鮮で,驚きを持って受け入れられましたが,あっという間に飽きられてしまいました。機械的リズムよりも実はムラやゆらぎの方が面白かった,というか自然だったのです。既に古典的著書ですが,武者利光氏の「ゆらぎの世界」によれば,心臓の鼓動は健康時はゆらいでおり,病気になると規則的になるとの事です。規則的な拍節と言っても,小節内の拍の重みは均等ではありませんし,もっと決定的に大きな不規則性は,フレーズです。これは「うた」です。「演奏の息」に関する最も直接的な話かもしれません。

フレーズの始まりで息を吸い,終わりで吐くのが基本です。もちろん,声楽や管楽器では,息継ぎが必要なので,否応なくそうなるわけです。循環呼吸で管楽器を吹き続けられたら聴いている方も却って息苦しくなるかもしれません。幸か不幸か直接息を使わない楽器では,息をしないとか,息を止めていても演奏じたいは出来てしまいます。息を使う楽器の演奏の直接的要因が,息を直接使わない楽器の演奏では2次的3次的要因となってしまいます。

独奏で演奏の息というものをたぶん初めて意識したのは,藤原真理さんのデビューのチェロ独奏のレコード「夢のあとに、白鳥/藤原真理」でした。当然チェロ演奏に直接息は使いませんが,同レコードでは彼女の息遣いが聞こえて来て,ぞくっとする興奮を覚えた記憶があります。師のロストロポーヴィチ譲りのややスル・ポンティチェロの倍音の多い音。まるで夢の世界に連れて行かれる様でした。当時は,アナログレコードの後期でしたが,このレコードではマスターがヒスノイズ皆無のデジタル録音でした。それまでは,演奏が静かになると,サーと言いうノイズが聞こえるのは当たり前でしたが,それが無くて代わりに真理さんの息遣いが聞こえて来たのです。若い私の耳に,やや硬質で理知的な音,フレーズで聴き取れる真理さんの息遣い。。。

ギター独学の自分の演奏など,息をうんぬん言うレベルでは無いと思って,余り気にはしていませんでした。しかし,今になって思えば,むしろ,こういう音楽的基本事項は,曲が簡単なうちにきちんと身につけておくべき事だったのです。もちろん,チェロ演奏の息遣いも,ピアノ伴奏でメロディライン中心に弾く「うた」的な場合と,バッハの無伴奏の様な純粋な器楽曲の場合とでは異なってくるでしょう。ギター独奏の場合でも,両面あるように思います。
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