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糸巻き一回転でどれだけ音程変化するか? [楽器音響]

ギターをやっている人ならば,カンと経験で,糸巻き一回転で音程がどれだけ変化するか?は掴んでおられる事だと思います。かく言うワタシも,「このくらい捲くとこのくらい」の体感的なものはありますが,楽器が替わって,糸巻きのかたさやスムーズさ,ペグのアタマの大きさなどが変わると,少し感覚が変わる気もします。

体感的な「ひと巻き」というのは,「くいっ」と「ひとひねり」ですが,ペグのつまみの付き方として,「ひとひねり」は約180度のはずです。ですので,「くいっ」「くいっ」と二回くらいやらないと実際の一回転にはなりません。それに,そもそも現在の通常の楽器ではウォームギヤのついたマシンヘッドになっているので,ウォームで大幅に減速してファイン調整になっています。

じっさい,微妙に調整する時は,ホンのちょい。角度にして10度とか15度とか,そんなものでしょうか?実際に捲いてみて,電子チューナで測ればすぐ分かることですが,何分私は電子チューナを持ちあわせていませんし,感覚では数字は出しにくいです。しかし,この手のものはヘタに実測するよりも計算のほうがずっと正確簡単だったりします。

ペグの一回転(360度:ふたひねり)で何セントの音程差になるのでしょうか?

ここでは,弦がきっちりと標準の音程に調弦されているとして,そこから一回転上げ下げすると,音程がどれだけ変化するかを考えてみます。弦のピッチは弦の線密度と張力で決まるのでした。まず,弦の張力を求めます。弦のひずみεと張力T[N]との関係は,フックの法則で以下の通りです。

T = εES

ここで,Eは弾性率[N/m2],Sは断面積[m2]です。EもSも変わらないものとすれば,張力Tはひずみεに比例することになります。ひずみεの定義は,Lを弦長,⊿Lを巻きとり量として,以下の通りです。

ε =   ⊿L 
 L 

一方,張力T[N]で張られた長さL[m],線密度ρ[kg/m]の弦の基音の高さ(振動数ν[Hz])は,

ν =   1 
 2L 
T / ρ 

のように表されるのでした。ここのTに前式を代入すると,

ν =   1 
 2L 
εES / ρ 

Sが変わらず線密度ρも変わらないものとすれば,音の高さの変化の比ν'/νは,以下の様に,所定の音程に相当する弦のひずみεからペグの一回転で変化したひずみε’の比の平方根で表されることになります。

ν'/ν =  ε' / ε 

ただし,ここで所定のひずみεを求めるのがちょっと不正確になりますが,最初に示したひずみと張力の式を用いて,ナイロンの弾性率Eを3.3GPaとして,メーカー発表(以前のパッケージ表示のもの)の弦の直径と,張力から逆算しますと,

①弦: 0.0518 
②弦: 0.0298
③弦: 0.0196

のように,弦により異なった値になりますので,ここから一定量のひずみを与えても(同じ量巻いても),弦により値が異なることになります。なお,低音側の巻弦に関しては,太さと張力との関係がはっきりしないのでこの方法は使えません。

ここで,ペグの一回転に対応する弦のひずみεは,私の楽器ではウォームギアの歯が14枚で,弦巻き取り部の直径が9.6mmなので,


弦長を650mmとすると*,

ε =   9.6π / 14 
 650 
  ≒ 0.00331

です。弦のひずみのみが変わって,他の数値が一定とした場合,この値が上で求めた各弦の初期のひずみに加わり,その比率の平方根が音程の上昇分ということになります。これらの値をセント値に換算しますと,

①弦:(上げ)54セント,(下げ)-57セント
②弦:(上げ)91セント,(下げ)-102セント
③弦:(上げ)135セント,(下げ)-160セント

となります。弦により幅がありますが,ペグ一回転で半音(前後)変化するようです。低音の巻弦に関しては,方法を再考します。

後注:音程は弦のひずみの平方根で音程が変化する為,音の変化は一定量巻いても初期の弦のひずみに依存する事に気づいたので,前記事を訂正しました。
一回転のひずみの元の長さを弦長650mmとしましたが,実際にはナットから糸巻き間の長さも入るので,ピッチの変化はこれよりもやや小さくなります。

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Hagi

「ペグの1回転で何セントの音程差に」・・・やってみました。(笑)
条件は、
弦:ハナバッハ黒(交換して2日ほど)
チューナー:SEIKO STMX1 (セント表示します)
糸巻き:スローン(5710Bかなぁ?)
ギターの弦長:650mm
方法は、各弦の音程を合わせた状態から1回転緩める。
結果(チューナーの表示)は以下の通りでした。
①弦・・・ 表示は[D#-30] (半音以上の-130セント下がった)
②弦・・・ 表示は[A#-40] (半音以上の-140セント下がった)
③弦・・・ 表示は[F  +35] (半音以上の-165セント下がった)
④弦・・・ 表示は[C# ±0]  (ちょうど半音下がった)
⑤弦・・・ 表示は[G#-5]  (ほぼ半音(-5セント)下がった)
⑥弦・・・ 表示は[D#-30] (半音以上の-130セント下がった)
「精度不明+私の気心」のいい加減な測定ですが、
概ねEnriqueさんの理屈を裏付ける妥当な結果のように思います。
因みに、市販のいろんなチューナーがありますが、数セントの誤差が
あるように思います。人間の耳の方が精度が高いですね。


by Hagi (2014-06-03 19:31) 

Enrique

Hagiさん,実測ありがとうございます。
「一回転半音」というのはどこかで聞いた気がするのですが,ついぞ思い出せないので,算術でやっています。ほぼ予想通りでほっとしております。
スムーズな音程変化にはナット上での弦のすべりの問題がある様な気がします。それで私は固体潤滑剤を使用しています(何の事はない9Bの鉛筆で溝をなぞっているだけですが)。
しかし,交換して2日というのも,随分新鮮なのをお使いですねひょっとしたら,まだ伸びが収まっていないのかなとか。弦の伸びに関してはまた検討予定です。
というか今回は,糸巻きの機構の問題ですが,Hagiさんもベラスケス付属のライシェルでしたでしょうか。
確かに,音程差を確かめるのは,人の耳の方が精度は高いですし,分からなければ,隣の弦と比較してみれば良いわけですしね。
by Enrique (2014-06-03 20:36) 

Hagi

実測したギターはベラスケスで、そのライシェルです。
糸巻きのヒステリシスというか、リニアでない部分がうっとおしいです。
「固体潤滑剤」今度試してみます。
by Hagi (2014-06-03 21:11) 

Enrique

Hagiさん,ありがとうございます。同じ楽器と糸巻きでしたら比較として理想的です。仰るとおり,糸巻き機構はゆるむ方と締まる方で,ヒステリシスがあるので,上げる方が正確だと思います。テンションが掛かっていますから,無理からぬ事ですが。下げる方が下がりすぎるというのも,体感的には感じる事です。これも検討課題です。
それから,単なる思いつきでしたが固体潤滑剤はあまり関係無さそうですね。すべりが悪いのであれば,一定量弦が戻された状態なら下がりが少ないはずですが,結果は逆ですから。
太い弦ほど下がりが多い様なので,これはメカ的なものでなくて,弦の材料特性なのかも知れません。いずれにせよ弦そのものの性質を見ないといけません。
by Enrique (2014-06-04 05:02) 

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