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あがりの原因と具体策 [メンタル]


あがりを克服できていない人間が書いていますが,先日あげたカトー・ハヴァシュさんの本(今井・藤本訳)から,楽器演奏に関する共通事項はそのままに,ヴァイオリンの技術に関わるところは,なるべくギターに翻訳して,私が感じるところをざっと挙げてみたいと思います。



総論
・「あがりは恥」という思考パターンが,問題を見えにくくし,短所を隠す。
・人間としての存在にとって,最も重要な価値観が脅かされた時,不安を感じる。

ロマのヴァイオリニスト
あがらない理由 ⇒ 社会的制約無し。聴き手を喜ばすかどうかだけ。
学べるもの ⇒ 自然なリズムの脈動。リラックス = 脱力

身体的側面
1.楽器の保持
構えの確立。楽器を生きた重さとして軽く感じる。完全なバランスが取れ,手で支えている感覚が無くなれば理想。
2.弓が震える恐れ
ギターでは弓は使わないが,あがりのかなりの症状は右手の不調に現れる。
・必要以上の力で拍の伝達が妨げられる。
 ⇒ 体からわきおこるリズムを体感し楽な構えを。演奏動作が自然の動作になるよう。
3.音程が外れる恐れ
ギターは音程ズレの恐れは小さいが,4指の不安は共通。
・4指は左手の問題の大半を占める
 ⇒ 使う前に演奏を止めてみる。動揺を抑えられ,不要な緊張やねじれに気づく時間を確保。
4.ハイポジションとシフトに対する恐れ
・持ち方に対する不安 ⇒ 「持つ」のをやめる。
・ハイポジションでの手のこわばり ⇒ ボディがシルクやサテンの手触りとイメージする。
・指板が実際以上に長く感じる ⇒ 横から見てそう長くないことを実感する。

精神的側面
1.音量不足ではという恐れ
・自分の音は聴くことはできない ⇒ 自分の出せる音量で満足する。
・イメージを先に,音は後から。逆になっていないか。
2.速いパッセージ演奏の恐れ
・体全体のこわばり ⇒ こわばりを解く
・左右のシンクロ ⇒ 楽譜を音名で読んでから音を出す
・動きが大きすぎ ⇒ ムダな動きをしない
3.曲を忘れてしまう恐れ
・身体的こわばり ⇒ こわばりを解く
・機械的な丸暗記 ⇒ 曲をセクションに分割
・左右の協調 ⇒ 弾く前に,弾く真似をしながら音名を歌う
・技巧的パッセージの不安 ⇒ 生きた左手のコントロールに右手が答えるように
・肥大化した「自己」が起こす不安 ⇒ 系統だった頭脳的トレーニングで「己」にこだわる気持ちを捨てる
もっとも予期せぬ瞬間に襲う。感受性の強い演奏者ほど危険。一番最初に影響を受けるのが記憶。
多少時間が掛っても,曲を忘れる恐怖から解放されるための練習法
(1)楽器を持たずに楽譜をよく読む
(2)楽譜をセクションに分ける
(3)フィンガリング,版その他を良く見て批評する
(4)拍子をとって最初のセクションを歌う。
(5)想像の楽器で最初のセクションを弾くまね。身体全体で力強くリズムを取り,音名で歌う。
(6)楽譜を見ないで,同じことをする。忘れたら,直ちに楽譜に戻ってその原因をつかむ。
(7)楽譜を見て,音名を口に出しながら弾く。難しい箇所はとりだして練習し体の緊張を解く。
(8)同様に楽譜を見て,音名を口に出しながら弾く。問題個所で緊張しないようあらかじめ意識する。
(9)暗譜で弾く。もし忘れたら,楽譜に戻り,その原因をつかむ。
(10)以上をすべてのセクションで行う。難しければ1セクション以上弾かない。
(11)セクションの演奏順序を変えても良い。
(12)最後のセクションからでも弾けるようにする。

言葉の力
身体的側面を上回るものではなく個人差があるが,リラックスさせる言葉のグループがある。

イメージの力
精神的不安があまりにも大きく,身体的解放が失敗したときはイマジネーションの利用が救済策。
例えば,層を軽く重ねるイメージを持つ。演奏者は床に軽く乗り,楽器は体に軽く乗り,手は楽器に軽く乗り,というような軽いものが何層にも重なったイメージ。そこから音楽がにじみ出す。
音楽と自由な身体の動きで満たされて,他人にそれを伝えずにはいられない状態にする。

社会的側面
・オーディションなどで,将来がかかっている場合,審査員の気持ちになってみる。緊張した演奏を幾つも聴く大変さを想像してみる。

まとめ
1.練習の工夫
「コンクール参加者のプレッシャーで最も深刻なのは,長時間の練習を毎日続けなければならないという強迫観念」
・自分の身体精神を理想的な状態にととのえる。多忙でストレスを抱える場合は特に要注意。
・精神面での問題は単に身体のひずみから出たことが多い。
(1)身体のこわばりを解くには何をすればいいか,常に知っている事。
(2)建設的で前向きな意識を持てる様にすること。
この2つが正しく組み合わされた後,
(3)「己」にこだわる気持ちを捨て,自由に流れる音楽のコミュニケーションの中に,みずからを解放する。
練習時間は長さではない。様々な場面で緊張を解くための練習をする。

2.試験公開演奏等に向けてのアドバイス
・早めに準備して,途中1ケ月ほど課題曲から離れる。その間,課題曲よりも難しい曲で身体・精神面のさまたげを取り除くことに専念。
・聴衆に「与える」気持ちで練習する。「与える」相手がいなければ,椅子でも机でも何かに向かって演奏する。

3.練習のポイント
・部屋や体調を整える。
・自然な動きと無理で不自然な動きを区別。
・歌う。身体から出た音が楽器を通して聴き手に伝わるように。
・練習を創造的なものと思う。
・1人で弾く時も大ホールで弾く時も,音楽は与えるものと思う。


以下感想です。同書は,具体的な練習法まで挙げているので,それに従って取り組めば効果があるものと思われます。特に印象的なのは,練習時に「止めてみる」ことは,身体各所のこわばりを発見してするのに大変有益だと思います。あらゆる練習が身体のこわばりに気づき,それを取り除くことのようです。
しっかりリズムをとって音名で歌い,楽器を弾く前にほぼ暗譜を済ませるというのはなかなか刺激的ですが,これをやっている人はどのくらいいるだろうか?と思います。今度新曲に取り組む際はやってみようと思います。すんだ曲でも効果あるのかも知れませんが,なかなか出来ません。あと,イメージの力,気持ちの持ちよう,これも最終的には重要のようです。ハイポジションを弾く時に,左手がかたい楽器のボディに触れるとこわばるので,シルクやサテンのイメージを持つと言うのもなかなか良さそうです。

床から楽器,手までが重層的に重なっているというイメージを持つことは,確たる理由は説明できませんが,私も似たような経験があります。飛行機に乗るのが怖かった時期,足が床について体が堅いものに乗っているイメージを持ったら,怖くなくなりました(実際飛行機の速度では空気は堅くなって,大地と同じになっているのだと理屈でも納得しました)。また,若い頃不眠に悩まされた時,前身の力を抜いてベッドに沈み込むイメージを持ったら眠れる様になりました。面白いもので,いつでも眠れるという自信がつくと,その方法を使わなくても自然に眠れる様になりました。

楽器の構えを安定させ,楽器を殆ど意識しないほど軽く感じ,あらゆる筋肉のこわばりを排除する。楽譜の音のイメージが先にあって,しっかり歌える。しっかり覚えた曲のリズムが体の中から出て来て自然に弾ける。重層的な安定したイメージを持つこと。そんな状態が理想かなと思いました。

そして,なによりも「与える」こと。本ブログ開始直後の5年前にも「ギビング・モード」に関してはギター教師ライズナーの金言として触れましたが,いまいちピンと来ていなかったかも知れません。要は自分の音楽を聴いてもらいたくて仕方のない状態にまで自己をチューニング・活性化させることが肝要のようです。


「あがり」を克服する―ヴァイオリンを楽に弾きこなすために

「あがり」を克服する―ヴァイオリンを楽に弾きこなすために

  • 作者: カトー ハヴァシュ
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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