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弦を押さえるのに必要な力 [演奏技術]


左手で弦を押さえる荷重は「腕の重さ=ネコの体重」で十分という記事を書きましたが,では数値的にはどの程度のものでしょうか?初心者では全セーハは渾身の力を込めてもしっかり音が出ないという方もいらっしゃるかもしれません。
先日,弦の張力計算の記事を書きました。
弦の張力は6本足して,全部で約40kgf(ダダリオPro-Arteノーマルテンション弦で37.92kgf)です。この張力で張られた弦をフレットに押し付けるわけですが,12フレット上を押さえるとして,弦につく角度は十分小さいとして釣り合いの計算を行いますと,弦を押さえてuだけ変形させる力F は,

F =   4T 
 L 
u

と表されます。ここで,T は弦の張力,u は変位で弦高に相当,L は弦長です。以下にダダリオ社の弦に表示されている張力の値を用いて,弦高を①弦3mm,⑥弦4mmとして,各弦の弦高はそれを0.2mmづつ配分し,弦長L=0.65mとして,それぞれの弦をフレットに接触させるまでに必要な押弦力を計算すると以下の表になります。

張力データと12フレット上の押弦力の例(Pro-Arte, Normal)
張力T[kgf] 弦高u[mm] 押弦力F[kgf]
6.94 3.0 0.128
5.26 3.2 0.104
5.49 3.4 0.115
7.08 3.6 0.157
6.80 3.8 0.159
6.35 4.0 0.156

6本の弦のトータルでは約0.819kgfです。前記事を書いた根拠です。
12フレットをセーハするということはありませんから,良くある7フレットセーハではどうなるでしょうか?
途中計算は省略して結果のみ示しますと,その場合の押弦力の式は,

F =   9 
 2 
  T 
 L 
u

となり,張られた弦の剛さが端に行くにつれて強くなる効果が出てきて,4のファクターが9/2に増加しています。しかしこのポジションでは弦高が2/3くらいになっていますから,押弦力としてはむしろ下がります。比例計算しますと,トータル荷重は約0.614kgfです。

以下同様に,5フレット(弦長のL/4)では,

F =   16 
 3 
  T 
 L 
u

およそ3フレット(弦長のL/8)では,

F =   64 
 7 
  T 
 L 
u

およそ1フレット(弦長のL/18)では,

F =   324 
 17 
  T 
 L 
u

などとなります。端に近づくにつれ弦の剛さが急激に上がることが分かります(ネックは直線ではなくてゆるいアールを描くのが良いといわれる根拠になると思います)が,弦高が下がるため押弦力はそう増えません。

以上まとめますと,12フレット上は弦の剛さが最も低いですが,その分弦高が高くセットされており,ローフレットはその逆です。そうして,調整の良い楽器ならば,押弦力のフレットごとの差は無いように調整されるでしょうから,どのポジションで全セーハしても,押弦力は1kgfを上回らないものと思われます。

ただし,あくまでも,この数値は弦をフレット頂上まで変位させる最低限の力です。ビリ付かないようにするには,これよりもわずかに大きな荷重が必要です。だとしても,腕の重さで十分なはずです。


補足: こちらのブログによれば,ピアノの鍵盤が降りる荷重は,0.055kgf程度だそうです。これは,そーっとかすかに音が出るようにpppで弾いた時の荷重です。さすがにこの程度の荷重ではギターの弦は押さえられません。しかし,mpmfの弾き方での鍵盤の荷重(慣性力)は,0.3kgf~0.4kgfだそうですから,これでは1本の弦の押弦力としては大きすぎます。とすると,ギターの左手の押さえは,ピアノ鍵盤をp程度の音量で弾く感覚でよいと思います。
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Hagi

弦を押さえる為の必要十分な重さを示していただいたので、自分の左手の指はどれくらいの重さに耐えられるのかを、ものすごく大雑把に測定してみました。恥ずかしながらその方法は、各指について弦を押さえる時のような形にして、体重計に押し付けるというものです。結果は
人差し指:2.7Kg、中指:2.6Kg、薬指:2.2Kg、小指:2.4Kg でした。
また人差し指セーハの形では、約3.6Kg でした。
ということで、指の耐力は大丈夫そうです。
体の重さもメタボのお墨付きをもらっていますので心配ありません。
by Hagi (2014-02-25 10:38) 

lequiche

大変面白く読ませていただきました。
張力って微細なものなのかもしれませんが、
意外にバラバラなんですね。
このデータで見ると1弦と4弦が強くなっています。
もちろん張力だけが問題ではないと思いますが、
いろいろなファクターが影響して、
それが結果としての音に反映されているということが
よくわかりました。
by lequiche (2014-02-25 11:58) 

Enrique

Hagiさん,コメントありがとうございます。
弦を押さえる力も実測しておく必要があると思いますが,テンションゲージが無いので,力学計算で出してみました。当然実際の押弦ではこれプラスアルファの力が要るわけですが。
指の方の実測値を測ってもらって,これは有益です。なるほど腕の重みからして妥当な数値だと思います。
薬指がやや弱いことが分かりますが,それでも一番弱い指で一番きつい弦を押さえても,十倍以上の余裕があることが分かりますね。
セーハではその余裕はちぢまりますが,それでも数倍の余裕です。裏から親指で逆圧は掛けてないと思いますので,一方向からの荷重でも十分だという事の証明にもなるデータだと思います。
あと,感覚面では同じ張力でも細い弦だときつく感じるとかあると思います。私は④弦がややきつく感じるのですが,細いせいのようですね。

by Enrique (2014-02-25 12:38) 

Enrique

lequicheさん,nice&コメントありがとうございます。
弦の張力そのものはメーカーの表示値ですが,確かに弦ごとに結構バラバラです。セット弦でもバラバラのせいか,各弦をすべて違う銘柄を使う方もいるそうです。
ぴったり合わせることもできるはずですが,そうしない理由は,そうしても,体感的な張力は必ずしも下がらず,その割に音の張りが損なわれるからではないかと思っています。
体感的な張力に関しては,弾く方々には結構関心事ですが,まず,必要最低の数値を見ておこうと思いついたのがこの記事です。
by Enrique (2014-02-25 12:53) 

Tommy

これまで押弦の際に指に力を入れている感覚を、腕の重さ(猫の重さ)を利用して指先を弦にぶら下げる感覚にという発想は実にわかりやすい。 実際やってみると肩に力を入れる必要がないし、以外と左指も動かしやすいことがわかりました。 後はこれまでの力を入れる癖が抜けるかどうかにかかっていそうです。 ありがとうございます。
by Tommy (2014-02-25 13:24) 

Enrique

Tommyさん,コメントありがとうございます。
ご参考になれば何よりです。脱力重力利用のメリットは左手の自由さだろうと思います。親指の役割も変わってくると思います。疲れにくくなることと,動きが良くなること,特にスラーなどは余分な力が抜けないときれいには出にくいと思いますので。
by Enrique (2014-02-25 19:37) 

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