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曲の難所について考える(2)~具体例その1~ [演奏技術]

基礎練習の重要さを書いてきましたが,ポイントは如何に実際の曲の難所に対応できるかということです。

そこで,今回からは具体例です。

第一回目は,いわずと知れた「禁遊」の「愛のロマンス」です。この曲は,初心者向けの曲の様に言われますが,通しできれいに弾ける人は案外少ないのではないかと思います。

以前も触れましたが,この曲アントニオ・ルビーラというギタリスト作品であることでほぼ決着したようですが,いまだに改訂されないまま「スペイン民謡」とか,「スペイン伝承曲」とかになっていたりします。

曲の構成としては非常に単純でわかりやすいと思います。ホ短調のA部,ホ長調に転調したB部,ダカーポしてA部に戻っておしまいです。メロディは淡々とした四分音符で切々と来ます。和音も基本三和音,これ以上ないくらいの単純さが強いのだと思います。もしあの映画が無くてもギター界では知られる練習曲だったでしょうが,広く浸透することになり,ギター人口まで増やした,強力な曲となったのでした。

さて,技術面に関して言えば,いくつかポイントがあると思います。

・右手はメロディをアポヤンドで弾けること。アポヤンドでなくても,アポヤンド的な音で強調できることですが,むしろ私などトシヨリ派はアポヤンドしてしまう方が楽だと思います。これさえ出来れば,あとは同じパターンです。開放弦のみで右手だけの練習をしておけば良いと思います。後半メロディが②弦に移るところもやっておけばさらに良いでしょう。後半は左手の押さえが難しくなってどうしても意識が左に行きがちですから,特に有効だと思います。

なお,アポヤンド(レスト・ストローク)には,けっこう誤解があるようで,以下に私の見解をまとめておきます。メンドウなリクツはキライだという人は読み飛ばして下さい。

「弾いた指を隣の弦に持たせかける様に弾くことによって,特有の太いはっきりとした音が出る。」これは事実です。

しかし,論理的に「持たせかける事によって音が変わる」ワケはありません。「持たせかける」のは弾弦後だからです。あえて言えば,持たせられかけた弦の共鳴が消える事でしょう。

「持たせかける事」はフォロー・スルーであって,結果としてそのようになる動作で弾くことによって,特有な音になるわけです。ですから,持たせかけが無くても,ほぼアポヤンドの音を出すことは出来ますが,私などには寸止めのようなものでかえって難しいわけです。現代奏法として,この持たせ奏法を全くしない奏者もいます。

「持たせかける事によって音が変わる」というのは解釈としては間違いです。しかし,だからといって,「アポヤンドで音が変わる訳がない!」という意見も,これまた「過剰な単純化」による間違いです。解釈が間違っていると言って事実を否定してはいけません。

アポヤンド奏法というのは,結果としてのフォロースルーで説明される為,このような誤解を招くのだと思います。

正確に言えば,「アポヤンド奏法は「結果として,隣の弦に持たせかけるように弾くことによって,より弦に多くの表面板に垂直方向の初期変形(もしくは絶対的に大きな変形)を与えるような弾き方」と言えます。「アポヤンドで音が変わる」ことは弾く人たちには分かり切ったことですので,敢えてそんな面倒な説明はしないのだと思います。 以上です。


以前も触れましたが,メロディに尾ひれのようにつく右手のアルペジオはイエペス版とルビーラ版ではパターンが異なります。映画のバックに流れたのはイエペス版ですが,ルビーラ版がオリジナルと言われています。好き嫌いあると思いますが,はらはらと舞い落ちるようなイエペス版のほうが映画には合っているように思います。ルビーラ版のほうが,少し落ち着いた感じがします。弾き易さの点ではルビーラ版のほうです。

・どちらの版にしろ左手の押さえに難しいところがあります。というか,特にホ長調部分はセーハ含めてほとんど,きちんと押さえられるかどうかにかかっています。

前半は冒頭から6小節目まで,1弦のメロディ以外は開放弦のままですので,快適に弾きやすいです。このまま行ってくれれば申し分ないわけですが,和音が変わらないといけないので,7小節目が5フレット半セーハでAmの和音,9小節目で7フレット全セーハでB7の和音を弾きます。なお,Amの和音を1拍先取りする版もあり,好みでしょう。10小節目1拍目のレ♯は4指のストレッチがあるので,初心の方は少し厳しいかもしれませんが,前半は弾きやすいので,ここでめげていては後半にたどりつけません。余分な力を抜いて4指をすっと出す感じです。もしこの状態を長時間持続したら結構きついでしょうが,1拍分だけですので,何事もないように通過したいものです。11小節目からは,また弾きやすい開放弦部分が待っています。最後はバスがミシソミと降りてきます。
この曲,パターンは同じなのですが,Bのホ長調部分の方が格段に難しくなっていますので,まず前半Aのホ短調部分をきちんと弾けていないと,Bのホ長調部分は急に苦しくなると思います。いわば,技術的難所はこのB部分です。B部分冒頭から,前半Aでは開放弦で済んでいた③弦の1フレットを押さえないといけません。まず,ここのストレッチが大事です。ここがうまくいかない場合は,ストレッチの基礎練習をしないといけません。ローポジションで1,2,3,4フレットを1,2,3,4指できれいに押さえられるかどうかですので,練習項目としては異なりますが半音階の練習なども良いかもしれません。

この曲の特にホ長調部分は左手のストレッチと,セーハの練習が必要だと思います。

特にコードチェンジの際,チェンジ前の三連アルペジオの最後の音がしっかり鳴っているかどうかが,技術的に良い演奏には重要です。コンクールの際(特に課題曲の場合)はこういうところがチェックされるのだそうです(往々にして,良い演奏でも低評価を受ける原因はこういうところの不出来に起因するようです)。以下,Yepes版の後半部(ホ長調部分)です。三連アルペジオの最後の音をスタカートで示しておきましたが,実際の演奏ではこうしかできません。

4小節毎にフレージングすると,譜例の段の最後は少しブレスが入ってもいいですが,問題はフレーズの真ん中の2,3小節目のところでのコードチェンジはメロディはもちろん,伴奏もスムーズに行かないといけませんが,Yepes版では,三連アルペジオ最後の音をスタカートで弾くにしても,これを弾いた後,パッと瞬間的に左手の押さえを変えないといけません。
禁遊後半(Yepes).png

また,8小節目の3拍目で,9フレットの小セーハに滑り込ませる運指もあり,その方がラクですが,1拍後にブレスを控えているので,ここは1拍ガマンしてブレス部で小セーハにチェンジする方が音楽的だと思います。

以前も触れた通り,わずかのアルペジオパターンの違いですが,以下に示すRubira版のほうがコードチェンジが容易です。特にフレーズの真ん中では,三連アルペジオ最後の音を敢てスタカートで弾かなくても,ムリ無く行く様になっています。特に譜例2小節目の終わりの音は,②弦開放弦で,いわばペダルが効くので余裕を持って移動することが出来ます。その他の段の真ん中でも,こちらの方がムリが少ないことが分ると思います。
禁遊後半(Rubira).png

「禁遊」後半は,前半に比べれば難所の連続です。しかし,細部においては,オリジナルと言われるRubira版の方がYepes版よりも左手の負担がやや少ない事がわかります。



さて,バッハのシャコンヌを独自のシンプルな編曲で見事に演奏されるJohn Feelyさんですが,この「禁遊」でもまじめに遊んでいます。こちらの編曲ではメロディが低音に移っています。

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アヨアン・イゴカー

全ての音符をそれぞれ要求された通りに出す、それは演奏としては当たり前のことなのですがかなり難しいことだと思います。ピアノについても、弾いた音が全て意図した通りの音量、音色にすることは、いつも難しいと感じています。
by アヨアン・イゴカー (2013-11-04 00:48) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさんnice&コメントありがとうございます。
全ての音を楽譜通りに弾くと言うのは当たり前の事ながら難しい事だと思います。しかし楽器を知り尽くした作曲家の作品は楽譜通り弾けば立派な音楽になると思います。
ピアノの場合,音が繋がらない場合ペダルが使え,それが前提だったりもしますが,そういうメカニズムのない楽器のでは音価通り出すのも一苦労です。しかし,楽器が高度になれば音の量や強度も要求もグレードアップしますから,どの楽器でもまず楽譜通りというのがイチバン難しいのかも知れません。
by Enrique (2013-11-04 07:08) 

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