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「白熱教室」の教訓 [日常]

最近は朝のTV体操時以外殆どTVを見ないのですが,久々に日曜の夜,ダラダラとTVをつけていましたら,「白熱教室」というものをやっていました。

この番組の元祖は,ハーバード大学の「政治哲学」のマイケル・サンデル教授の「正義とは?」というやつでした。以前時々見ていたのですが,いかにもアメリカらしいというか,「政治」と言うには振りかぶった内容ですし,「哲学」と言うよりもディベートであり,ちょっと距離を感じていましたが,アメリカのこの手の教授の方々,研究もさることながら,授業一つとってもこういうコーディネート能力がすごいのだろうなと思っていました。

どういう基準で選ぶのか知りませんが,マイケル・サンデル教授以外にも名物授業が取り上げられていました。私が時々見ていたのは,コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授のものでした。両親がインド出身の盲目の女性です。

選択の科学

選択の科学

  • 作者: シーナ・アイエンガー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/11/12
  • メディア: 単行本

人種差別に懲りたアメリカでは,人種はもちろん,年齢・性別・ハンディキャップなど,あらゆる差別は法律で禁止されています。女性,マイノリティ,ハンディキャップのある人の大学教授などへの就職を奨励しています。アイエンガー教授は,まさにこの政策に沿った人で,少なくとも表向きの経歴は白人男性のサンデル教授とは真逆の人です。

この日曜の夜はこの人の日本のK大学のビジネススクールでの講義でした。

もちろん,この人もアメリカで学んだだけあって実利的でパワフルですが,両親がインド出身だからか東洋人にも分りやすい感覚の方です。この方の専門(といっていいのかどうか知りませんが)は「選択」のようです。彼女のまっとうな著書や論文を読んだわけ訳ではなく,TVや新聞記事の内容でのみ判断しますが,すべての研究内容が「選択」というキーワードで貫かれているようです。

「選択」の幅は広ければ良いと言うものでもないようです。アメリカ人は「選択」を「自由・平等」といったアメリカ特有の肯定的な文脈で捉えており,何でも選択の幅が広ければ良いと思っている節があります。朝起きた時の目覚まし時計の選択?から一日が始まる様です。アメリカ人が一日にする選択は100以上,日本人などアジア人の10倍以上だそうです。しかし,先日の新聞の記事だったか,シャンプーの銘柄数を絞った方が却って売り上げが伸びたという事例が紹介されていました。数字は忘れましたがたしか半分以下だったと思います。また,良いリーダーというのは,部下に2つぐらいの選択肢を示せる人だそうです。選択肢が無いリーダーはリーダーシップは強いが独裁者的にとられ,一方7つ以上の選択肢を示すリーダーはリーダーシップが弱い人とみなされるのだそうです。

トップ企業のCEOと呼ばれる人たちは,一週間に百数十の選択をするそうですが,このうち9分以内で済ます選択が殆どで,1時間くらい掛ける選択は,3つぐらい(と言っていたと思います)。そこで,我々も,選択の基準を考えないといけません。選択は広ければ良いとはいっても,それに掛けられる時間は限られているわけですですから。CEOらの選択の事実から帰納される,彼女の方法(学生たちに実習させていた内容)は以下のものです。

(1)この1週間に行わなければならない「選択」をなるべく多く書き出す
(2)その事項を半分に削る 
(3)それらの事項で,選択を9分以内で行うべきものと1時間程度掛けるものに分ける
(4)1時間程度掛けるものを順位付けし,上位3項目を取り出す

この作業で最後に残った3つが最も大事な選択事項とのことです。誠にもっともな話ですし,この手の方法論は,川喜田二郎氏のKJ法などがあるのは昔読みましたし,現在なら色んなものがあるのでしょう。アイエンガーさんのは,ビジネス現場などの最新データに基づいているところが新しいのでしょう。

発表会の前など,自分の演奏に関して,漠然とした不安があるものですが,きちんと分析すれば,多くても3つぐらいの課題に集約出来るのでしょう。さらに真に重要な事と言うのは,1つが究極だと思います。

最後にシーナ・アイエンガーさん自身の選択が語られていました。何分彼女の境遇から,人生の選択肢が限られた。例えば,パイロットには絶対になれなかった。少ない選択肢の中だからこそ,それらの選択を十分吟味出来たのだということでした。最終的には「選択」というテーマ一つに選択したところが素晴らしいですね。
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アヨアン・イゴカー

選択の問題は、哲学的で大変興味深い主題だと思います。が、余り実利的になると、単なるハウツーになってしまいます。

白熱教室はこのシーナ・アイエンガー教授がコロンビア大学で行っているものを1回だけ見ました。水中の魚や蟹などが描かれている絵を見る実験で、欧米人は大きく目立つものに眼が行き、アジア人は全体に眼が行くと言う傾向が指摘されました。

私がしっかりと見た白熱教室は2011年10月30日から11月に阪大で行われた
NHK白熱教室JAPAN 小林傳司教授「社会と科学技術の関係を考える」
でした。この中では最も賢いとされている人々が、何故、原発事故を予測できなかったのかを、イギリスに於けるBSE問題を例に出しながら学生達に議論させてゆきました。このような授業を多くの大学でやれば、日本人「エリート」たちの判断力が健全になるのではないかと思いました。
by アヨアン・イゴカー (2012-09-02 17:46) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
アイエンガーさん日本人の選択にも興味あるようで,私が以前見た放送では,日本で緑茶に砂糖とミルクを所望したご本人が丁重に断られたことを盛んに説いていました。
ディベート的な授業は,一部あっても良いと思います。むしろ,教養的な授業にはかなりあってもいいと思います。ただ余りにも多いと,学生も疲れると思いますし,基礎学力の不安があります。もちろん学生の力がついて,自律的に学習して行ける力がつけば何よりなのですが。知識よりも知恵をつけることが重要だと思います。
by Enrique (2012-09-02 20:52) 

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