SSブログ

iPhoneでギターの弦の振動をとらえた? [科学と技術一般]

面白い事をやる人がいるなーと感心します。
ギターのサウンドホールの中にiPhoneを入れて,弦の揺れを撮影しています。



「へぇー,こんな風に揺れているんだー」と,オドロキの声も多くあるようですが,残念ながら,このように弦が変形して揺れている訳ではありません。誤解のないようにお願いします。ご本人もシャッターのせいだと分かっているようです。

まず,ギターの弦の振動は一番低い6弦Eの開放弦の基本波でも82.5Hz,1弦は330Hzですから,毎秒30枚の動画撮影ではその動きは全く捉えられません。1枚の画面を撮影している間に弦が振動しているという事です。

画面全体を同時に捕らえるシャッター(グローバル・シャッター)であれば,シャッター速度よりも動きが速ければぶれて映るだけです。また,ストロボ写真ですと,時間間隔は遅くても,瞬間・瞬間を止めて撮影することができます。しかし,iPhoneのカメラの様なローリング・シャッター(フォーカル・プレーン・シャッターとも)では,一枚の画面を撮るのに,画面をスイープして撮りますので,画面の左端と右端では時間差が生じることになります。一枚の画像を撮影している間に弦が何度も振動しているということです。弦の実際の変形ではなくて時間経過を記録していることになります。

以下のように考えると,納得できると思います。弦が全く変形せずに上下に揺れたとします。グローバルシャッターならば,弦は単に棒状に上下に動くだけですが,ローリング・シャッターですと,シャッターが画面内をスイープしている間に弦は何回も振動して,画面上に行き来した軌跡として写る事になります。6弦開放の最低音の82.5Hzでも,ワンフレーム1/30秒間に3周期弱揺れますから,1枚の画面には図の様に周期波形としてとりこまれる事になります。
Sampled Image.PNG

一枚の画面の中に時間経過が入るのでこういう現象が起きます。シャッターが走る方向と被写体の動く方向が直角ならば,動く物体は平行四辺形状に変形します。これをスキュー効果と言います。これは丁度直線のグラフのようなものですが,これが振動だと周期状のグラフになるという事ですね。弦の空間的な形を見ているのではなくて,一枚の画面の中にオシロスコープの波形の様に,時間経過を写し込んでいることになります。

解釈さえ間違わなけければ,大変面白いパフォーマンスだと思います。この結果から何かを推論しなければ別に実害はないとは思いますが,くれぐれも,弦が実際にこのように変形しているのではないということは再確認しておかないといけません。

こんなのもあります。飛行機のプロペラの枚数が大幅に増えて撮影されていますが,これなら信じる人はいないでしょうね?

タグ:iPhone
nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

nice! 4

コメント 4

Cecilia

一瞬、本当にそういう風に揺れているのかと思いました。
波の形が違うのがおもしろいですね。
by Cecilia (2011-10-06 16:33) 

Enrique

Ceciliaさん,nice&コメントありがとうございます。
人間目に見えるものを信じますから,一瞬その通りに揺れていると思っても無理はありませんね。
ギターは普通に弾くと特に2倍音が多いので,正弦波状にはならず,少しひずんだような形になります。6弦の形が典型例だと思います。弦の実際の形ではなく,「弦の揺れ方を表す波形」だと言う解釈さえ出来れば,身近なものを使った面白いパフォーマンスだと思います。
手前味噌になりますが,弦の正しい揺れパターンは,こちらです。
http://classical-guitar.blog.so-net.ne.jp/2009-08-13
http://classical-guitar.blog.so-net.ne.jp/2009-08-13-1
by Enrique (2011-10-06 17:50) 

アヨアン・イゴカー

この波形は、夫々の弦の持っている音色の物と同じと考えてもよいのでしょうか、オシロスコープに映る?そのように見えるのですが。
by アヨアン・イゴカー (2011-10-09 19:31) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメント有難うございます。
「波形」としてはほぼ正確にとらえています。オシロスコープに映るのとほぼ同じことですね。ただ,オシロスコープならば弦のある部分の時間波形ということがはっきりしていますが,これは空間的な画像とごっちゃになっていますので,非常に誤解を生みやすい画像です。
さらに誤解を恐れずに言えば,弦の空間形状と時間波形は相似形になる性質があるので,この画像自体は時間的波形を捉えているものの,それがまた弦の空間的波形のミニチュアになっているという,ちょっと厄介な構造になっています。ですから,この画像は弦の実際の変形とは異なりますが,弦の変形を間接的に捉えていると言えなくもありません。ただしその解釈のためには,「波形」の1周期分を弦の全長に引き伸ばしてそれがほぼ弦の変形に対応すると解釈しないといけません。
by Enrique (2011-10-09 19:55) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。