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半導体のこと [科学と技術一般]

8月も終わります。最近の自らの記事を見返して見て,投稿が滞っている上に,音楽系(クラギ系)のブログを標榜していながら,まるでその記事が無い!という事に愕然とします。近況等は改めて書く事にして,ここでは脱線ついでに私たちが日頃お世話になっている,半導体の話を書きます。

半導体というと,何を連想するでしょうか?コンピュータや家電品の内部に使われている,重要な電子部品。このくらいが最も簡単な説明でしょうか?現代生活ではこれのお世話にならない日は無いものですが,案外中身に関しては知られておらず,ブラックボックスの代表格ではないでしょうか。 詳しく書いたらキリが無いですし個別の説明はネット上に沢山ありますので,ここでは,基礎から最近のモノまでの話を一回で。


まず半導体を物質として語るときは,まず元素の周期表*です。半導体になる元素にはシリコン(ケイ素)やゲルマニウムなど,炭素と親戚の元素が中心になり,その周りにも多数親戚が存在します。文字通り,「半」導体で,条件により導体になったり絶縁体になったりします。
periodic210.gif
 
1947年ベル研のバーディーン**,ブラッテン,ショックレーにより発明された半導体素子「トランジスタ」***に使われたのはゲルマニウム(Ge)でした****。その後,ケイ素(Si)が使われ,現在に至っています。これらの物質は,4本の結合手を持っていて,結晶を形づくる原子格子のタイプは普通ダイヤモンド構造をとります。ダイヤモンドが硬くて強いのはがっちりとした形で結合形態も共有結合という最強の化学結合であるところからも来ているのですね。ゲルマニウム,シリコン,と上がってくると今度は炭素,すなわち本物のダイヤモンドです。実はダイヤモンドも半導体ですがまだ使われていません。ダイヤモンド構造を立体的に表したのが下のアニメーションです。
 
半導体になる元素だけを取り出した周期表を示します。炭素,ケイ素,ゲルマニウムの系列は4本の結合手なので,IV族と言います。IV族だけで構成されている半導体を元素半導体といいます。一方,III族とV族や,II族とVI族が半々で化合物となってもダイヤモンド構造の半導体が出来上がります。これを化合物半導体といいます。これで有名なのは高性能な半導体のGaAsや,青色で有名なGaN,昔から受光素子で使われるCdSなどがあります。
periodic210半導体.gif
素材としての半導体だけではあまり有用な素子になりません。ダイヤモンド構造のこれらの素材は電子ががっちりと手を組んでいて(電子の局在)殆ど電流(電子)が流れません。しかし,不純物をわずかに加える事により,半導体の素材としての性質をコントロールすることができます。不純物の種類によりn型とp型の2種類あり,多くの素子ではこの2タイプを組み合わせて様々な動作を実現させます。下の図はn型,p型を分かりやすく見るため,平面的に表わしています。 5本の結合手を持つP(リン)が4本の結合手のSiの中にぽつんと入ると,余剰の電子が出て,これがn型半導体の伝導を担います。次の図は3本の結合手のB(ホウ素)がやはりSiの中にぽつんと入ると,今度は電子の不足した孔(正孔)が出来て,これがp型半導体の伝導を担うことを示しています。
n型半導体の例.png
CC License Attribution with N-doped Si.svg 
 
p型半導体の例.png
CC License Attribution with P-doped Si.svg
 
あたり前のようにマンガチックに描いていますが,1950年代の半導体素子開発の初期では,不純物を入れる前の半導体が常温でほぼ絶縁物状態になる「真性半導体」を如何に実現するかが課題でした*****。入れる不純物の量が,0.01ppm位のものですから,もともとの半導体がそれより何ケタも純度が高くないと話になりません。

 
トランジスタと言う言葉は余り最近聞かれませんが,現在でも半導体素子の中心はトランジスタである事には変わりありません。しかし,昔のように,トランジスタ1個1個を個別に使う様な事は殆ど無くて,高度に集積化されて,ワンチップで複雑な処理をこなす回路になっています。トランジスタ1個を1ビットとして使う分かりやすいメモリ素子なら,例えば32Gbit(4GB)チップならば320億個のトランジスタを回路パターンとして作りこんでいることになります******。
 
また,個別の素子もかつてのPNPやNPN構造のバイポーラ・トランジスタと呼ばれるものではなくて,FET(電界効果型トランジスタ)と呼ばれるものに主流が移っています。これはゲート電極に加える電圧で動作し真空管に近い動作になっているところが面白いところです。下図に断面構造を模式的に示しますが,真空管のグリッドに相当する電極はゲートと呼ばれ,ここに加える電圧で真空管のプレート電流に相当するFETのソース-ドレイン間に流れる電子(正孔)をコントロールします。現在主流のMOSFETとよばれるものは,ゲート電極の金属が絶縁物の酸化物を介して半導体と接合されている(Metal Oxide Semiconductor)もので,こう言われるようになりました。
MOSFET.png
CC License Attribution with Lateral mosfet.svg
 
MOSFETには電流担体の種類によりn型とp型があります。上に示したものもn型です。昔の真空管はいわばn型でした。空間を飛ぶ電子にはマイナスのそれそのものしかありませんが,固体中の電流の流れには電子そのものと,正孔と呼ばれる電子の抜け孔の動きも電流として寄与させることができるからです。いわば,極性が逆に働く半導体素子を2種類持っていることになります。これらを組み合わせると画期的な回路が出来ます。相補型MOSFETいわゆるCMOS(Complementary MOS)です。あたかも社会における男と女のように相補的な役割を演じることが出来ます。

トランジスタは3本足のものですが,2本足のダイオードも重要な役目を果たしますし,4本以上のものもあります。これらは上述のおもにn型とp型の接合により様々なものを作り出す事が出来ます。
 
素材としてはいまだにシリコンが主流ですが,さまざまな素材のものも作られています。今が旬の太陽電池やLEDはダイオードの仲間です。太陽電池はやはりシリコン素材が主流です。日本の誇る青色LEDは既述のように窒化ガリウムという素材を使います。
 
太陽電池は1つの素子のpn接合ダイオードの接合面を広く広く作りますし,LEDでも基本的に一個の発光素子は1セットのpn接合で作られます。
 
半導体の性質を決める重要な指標値にバンドギャップエネルギー*******というものがあります。これは,半導体中で電子などが動き回れる状態に飛び移るのに必要なエネルギーの大きさを言いますが,これが大きいと,光らせる半導体ならばよりエネルギーの高い青色が出る********とか,太陽電池で使う場合ならより短波長の青や紫外光の光を吸収できるとかがありますが,用途に見合ったバンドギャップエネルギーの大きさが必要です。

半導体素子はもともとエレクトロニクスと呼ばれる小電力回路から進展したものですが,その後,インバータや周波数変換所等にも使う大電力用の素子もあり,現在盛んに用いられています********。
 
小電力用の方には,アナログとデジタルがあります。元々開発された素子はアナログ回路を想定しましたが,コンピュータの急速な発達に伴い,その01に対応した,いわば電子スイッチとして用いられるに至ってデジタル用の半導体というものが急速に伸してきたわけです。

アナログは文字通り,信号を拡大増幅する作用が最も重要です。一方デジタルはアナログ動作を飽和させてスイッチとして使っているのが主な用途です。スイッチとは言っても,もちろんそれを膨大に組み合わせて複雑な処理をするMPUや,情報を記憶するメモリ素子などがあります**********。

液晶テレビなどでお世話になる液晶デバイスそのものは,半導体とは異なりますが,表示を光らせたり光らせなかったりの個別のシャッターの役目を液晶にさせる電圧スイッチの役割をするのが半導体(トランジスタ)の役割です。
 
シリコンやゲルマニウムの元素半導体,GaAs(ガリウムヒ素)やGaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体含めて無機物質ですが,最近では有機半導体というものもかなり出てきています。特に有機ELや有機太陽電池などが有名です。すぐに無機半導体にとって代わるような性能や信頼性はまだ出てないようですが,紙のような表示素子,安価な太陽電池など非常に魅力的な応用を含み,要チェックですね。 
 
日頃使う,半導体素子のお話を思いつくままにしました。
 

後注 
*フリーでエクセルのデータで提供されているものがありましたので,使わせてもらいました。以前は周期表と呼んだと思うのですが。
 
**バーディーンはトランジスタの発明と超伝導のBCS理論構築で2度のノーベル賞をとっていますが,1度目子供を連れて行かずにスウェーデン国王にしかられ,「今度は連れて行きます」と言って実現したという逸話があります。
 
***トランジスタの発明に関しては異説もあります。カナダ人,日本人,ヨーロッパでも「トランジストロン」という素子が研究されていたことは事実の様ですが,現在のものの原型になったのはベル研のものでしょう。
 
****これ以前にも半経験的に作成された鉱石検波器やセレン整流器などというものがありましたが,これらはダイオードでありトランジスタではありません。後に半導体工学が進んでこちらは鉱石やセレンなどの半導体と金属との接合による,ショットキーダイオードと言われるものに分類されました。
 
*****半導体の純度を高める方法はゾーンメルト法という方法がベル研で開発されましたが,その素材のインゴットを作る製法はポーランドの科学者チョクラルスキの開発した結晶作成法が現在でも用いられています。ウエハと呼ばれる基板がインゴットからスライスして作られ,集積型の半導体では基板上に乗るn型p型の素子はSiなどを含むガスから真空中で作成されています。
 
******もちろん信号制御部分がプラスアルファになります。 細かな回路パターンの製造は,写真の現像露光のようなフォトリソグラフィという一連の工程で行われます。細かい細かい回路パターンを作るプロセス屋さんは,もっぱら回路の線幅の実現がチャレンジです。45nmルールとか32nmルールとか言うやつですね。すでに光学顕微鏡で見える解像度の限界をはるかに超えています。光の顕微鏡で見えないものを光で描いているのですから,人の所作といえ不思議なくらいです。
 
*******この概念の説明には固体物理の初歩の知識が要りますが,電子が原子格子からの束縛を逃れるのに要するエネルギーと見て大体良いでしょう。ちなみに,本物の(炭素の)ダイヤモンドは非常に大きなバンドギャップエネルギーを持っていて,従来にない用途が検討されています。 
 
******** 「青色」はバンドギャップエネルギーの大きい窒化ガリウム素材そのものを作るのが最大のネックだったようです。前にも書いたかもしれませんが,意外な企業が開発しました。窒素の原料として使う大量のアンモニアを扱える化学メーカーでなくては作れなかったのです。開発の中心だった人の話は有名です。 
 
*********パワーエレクトロニクスと言われる分野ですね。この分野は非常に大切ながら慢性的専門家不足です。
 
**********我々は現在コンピュータ中心部のレジスタと呼ばれる部分に玉が1個づつ64ケタ並んだ電子ソロバンを,何重かのソフトウェアで機械語に翻訳された01の並びの演算命令を1秒間に数10億回パチパチ弾いてもらってコンピュータを使っています。当然その並んだソロバンは半導体素子の役割ですし,途中の演算結果などを保存しておくメモリもそうです。コンピュータはデジタル半導体の塊です。そのためか世の中デジタル万能のようにもなっていますが,実際にはアナログ半導体も非常に重要です。もちろん双方乗り入れたハイブリッド半導体素子もあります。 最近目にする事の多い,SDメモリやUSBメモリの中身は,NAND型フラッシュメモリというもので,電源が無くても記憶を保存できる不揮発性メモリの一種で日本の発明です。
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