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クラシックギター曲の調に関して [雑感]

先日来の演奏のアップに際していただいたコメントで感じた事です。
音律の問題はあるにしても,ギターは24調全て弾けます。しかし現実にあるクラシック・ギターの曲はシャープ系の調の曲が多いですね。ギタリスト(弾く人間という意味)にとって当然でも,他の楽器の人にはぴんと来ないことのようです。

ギターほど極端でないかもしれませんが,ヴァイオリンもそうですね。ヴァイオリン音響にも造詣の深かった故糸川英夫氏は,自作ヴァイオリン・イトカワ号を開発するにあたって,どの音を重視するか調べました。ラジオで放送されたヴァイオリン曲の音をしらみつぶしに調べた結果,E音が最も多かったのだそうです。E音が多いということは,ホ長調・ホ短調,イ長調,ニ長調などのシャープ系だということです。

例えば有名なヴァイオリン・コンチェルトは多くがシャープ系です。メンデルスゾーンがホ短調,ベートーベン・チャイコフスキー・ブラームスがニ長調と全てシャープ系です。面白いのは,パガニーニの第一番,変ホ長調ですね。変ホは弾きにくいはずじゃ?そうです。パガニーニは,自分は実際には半音高くチューニングして運指はニ長調で弾き,オケに変ホ長調で弾かせた。いわゆるスコルダトゥーラです。なんとヴァイオリンを移調楽器として用いたのですね。原調重視の現在では,どちらもニ長調で弾くそうですが。

ヴァイオリンのE音は1弦の開放音です。オクターブ低いですがギターもそうなので,何か親しみ感じます。音響工学的には,ヴァイオリンの胴は癖のあるフィルターなので,確かにどの音を重視するかのアプローチは正解でしょう。音のバランスの問題はあるにしても,調に対しては中立的,むしろショパンなどフラット調号の多い調の曲が多いピアノとは違いますね。

ギター曲に戻りますと,やはり有名曲は殆どがシャープ系です。ジュリアーニはイ長調を偏愛しましたが,やはり楽器を目いっぱいガンガン鳴らすのが彼の身上だったのですね。ソルの魔笛変奏曲はホ長調,グランソロはニ長調で何れもシャープ系,ただソルはフラット系も結構使っていて独特な美しさがありますが,ギターブームの当時,難しすぎると批判もされました。ジュリアーニのギターコンチェルトも当然?イ長調。確かに有名な第1番,および第2番いずれもイ長調です。第3番がヘ長調ですが,どうもこれは通常のギターでなくてテルツギターという,一種の移調ギターを使ったようです。これは通常のギターより1音半高いので,運指上はニ長調ということになり,演奏上はシャープ系ということになります。

アランフェスのコンチェルトは第1楽章ニ長調,第2楽章ロ短調,第3楽章ニ長調で,やはりシャープ系ですね。いずれもシャープ二つです。セゴビアは生涯この曲を一度も弾かなかったので有名です。この曲が,神様にとって,格下(だと思ったであろう)R.S.デラマーサに献呈されたことや,その後イエペス青年が弾いて脚光を浴びて興味を失ったことなどが伝えられています。ピアニストのロドリーゴが如何に天才であっても,いきなりギターの効果的な曲が書けるものではありませんので,調の選定を含め,かなりデラマーサの意見が入っていると見ていいでしょう。ロドリーゴは,その後セゴビアに,サンスの曲を協奏曲風に扱った「ある貴紳のための幻想曲」を献呈して和解したのも有名な話です。セゴビアはアランフェスのキーが高すぎると言いました。たしかに,2楽章はイ短調でも良かったかもしれません。そうすれば随分弾きやすく,もっと落ち着いた感じにはなったでしょう。しかし,そうすると,第1・第3楽章はハ長調?これはあまりぴんとこないですね。同主調のイ長調ならありかもしれません。

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nyankome

弦楽器はどうしても弾きやすい(弾き難い)調がありますね。
仰るようにギターは、フラット2つまででしょうか。
シャープは4つまでは大丈夫ですね。
リュートは逆にフラット系が弾きやすいです。
by nyankome (2010-08-11 00:48) 

Cecilia

>ヴァイオリンのE音は1弦の開放音です。オクターブ低いですがギターもそうなので,何か親しみ感じます。

私も親しみを感じています。
E線、A線が弾きやすいというのもありますね。
やっぱりシャープ系が弾きやすいように感じます。(E線のミのシャープは音を取りやすいし。)
by Cecilia (2010-08-11 06:51) 

Enrique

nyankomeさん,nice&コメントありがとうございます。
フラット系はつくたびに解放弦がつぶされていく感じですね。シャープは押えればいいだけなのですが,フラットは,ちょっと困ります。
ルネサンスリュートはG moll調弦ですから,フラット系はずっと弾きやすそうですね,この辺にも楽器の性格の違いがあるのですね。
by Enrique (2010-08-11 09:24) 

Enrique

Ceciliaさん,nice&コメントありがとうございます。
シャープは好きですが,ミのフラットは嫌いですね(笑)。ギターはまだしも,多分ヴァイオリンでは音がとれません。
VnのE線,A線は音が出やすくて素直な澄んだ音ですね。低音弦は難しい感じがします。上手に弾くとこわい感じがしますし,そうでないとねぼけた感じでコントロールが難しそうです。
by Enrique (2010-08-11 09:40) 

myu

はじめまして、myuと申します。
いつも興味深く拝見しております。
リコーダーアンサンブル“夢笛”に所属してギターも弾いています。
木管楽器の一種であるリコーダーの曲は、フラット系が多いですね。
リコーダーのようにキィの無い原始的なフィンガリングの楽器は、
基本的に音を下げるのは簡単ですが、
シャープが付いた場合は、原理的には一音上の音を半音下げて作るので、非常にややこしくなる、のが原因だと思います。
実際フラット系の曲のほうが和音も合わせやすく、響きも美しく感じます。
リコーダーとアンサンブルする時は、
フラット系の曲の場合は迷うことなくカポタストを使用しています。
C-durでも3フレットにカポタストを付けて(A-durフォームで)弾くケースが多いですね。
by myu (2010-08-16 12:02) 

Enrique

myuさん,コメントありがとうございます。
出かけていまして,お返事遅くなりました。いつもご覧いただき光栄です。
キーのあるフルートはシャープ系も平気の様ですが,やはり本来の管楽器系はフラット系のようですね。シャープを出すのに上の音から半音下げるのでは,音のイメージが変わってしまいますものね。
>C-durでも3フレットにカポタストを付けて
なるほど,ギターではハ調も決して弾きやすくはないですからね。
本来的にはリュートのほうが合うのでしょうが,手軽には行かないですから,3カポのギターは重宝しますね。
by Enrique (2010-08-17 22:51) 

koten

 どうもぉ~ 生還トンネル(?)をくぐって復活してきました(笑)

 ギターでフラット系が弾き辛いのは、「低音弦、特に6弦5弦の1フレットを多用する」のが主な要因ではないか、と感じてます。

 高音弦の1フレット(CやFやG♯)は1の指で押さえるのが楽で、その場合でも234の指は比較的自由に動かせますが、低音弦の1フレットを1で押さえたとたん234の指の動きが大きく制限される感があります。特に低音弦の1フレットは押さえる力が大きく要求されるので(例えば初心者が大セーハで一番苦労するのがF)、2,3フレットの低音弦を1で押さえた場合より余計にそう感じますね。

 そういう意味では、ヘ長調の曲の6弦開放音をFに指定したソルの発想はユーザーフレンドリー(?)だし、逆にセーハ練習曲のあの変ロ長調の曲は地獄(笑)ですよね。

 フラット系の長調だと、低音の1フレットが主音で開放弦が導音になるので、音量の観点から音楽的に美しく演奏するのに相当な知識と技術が必要となり、ある意味不自然といえば不自然なので、ギターでは避けられる傾向があるのではないでしょうか。
対して、フラット系の短調の中でも、ニ短調は低音開放が主音(ルート音)になるので重宝され(但し6弦=Dの調弦が多い)、ト短調も6弦3フレットがルート音なのでそれなりに使われる(但し5弦=G6弦=Dの調弦も多用される。(ハ短調はいずれの開放弦の音も主音とはならず、それゆえ(?)、作られてはいるが相対的に演奏が困難となる。)

 ですので、これを発展させると、5弦を半音上げてB♭にする変ロ長調の曲や、4弦を半音上げてE♭にする変ホ長調の曲も作れそうな気がするのですが、どうなんでしょうかね。ディアンス編で6弦をE♭に下げる曲が幾つかありましたよね・・。
by koten (2010-08-23 10:58) 

Enrique

kotenさん,コメント&niceありがとうございます。
お元気そうで何よりです。
ギターで弾きやすい(にくい)調の話は鍵盤オンリーの人にはなかなか分かってもらえないですが,弾く人には一発で通じますね。
フラット調号は付くごとに解放弦がつぶされて行きますね。それでもまだ短調はニ短調でもト短調でも主音に解放弦があるから良いのですね。短調だと必ずしもシャープ系が弾きやすいとも限らないですね。それでもやはり二つ目のミのフラットが一番きつい感じがします。高音は解放弦を一切使わないなら(ペダル音として使いたいところではありますが),やはりベース音ですね。
by Enrique (2010-08-23 18:50) 

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