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弦の話ふたたび(3) [楽器音響]

弦の基礎となどに触れてきたが,ここでは最も重要な音色との関係を書いてみる。しかし,どうしても定性的・感覚的議論とならざるを得ない。

3.音色との関係
弦楽器の音色は弦で発生した振動が,胴で増幅・フィルタリングされる結果に左右されると考えられる。正確に言えば胴にはエネルギーを増やす働きはないので,胴の役目は弦の運動エネルギーを効率的に空気に伝えるインピーダンス整合器と考えることが出来る。一言で言えば,弦で発生した振動が,楽器の胴のフィルター特性を通過して音として鳴り響く。

一般に硬い音もしくは鋭い音と言うのは,ピッチを決定する基本波以外の高調波が多い音と言うことが出来る。ただし,高調波においてもその適度な偶数波はむしろ響きを含んだ柔らかい音になる。管楽器の音色にたとえると,フルートの音が楽器の構造上これにあたり,3次高調波を多く含むクラリネットの音と対比される。偶数高調波を含む音が柔らかい印象を与えるのは音楽的に言えばオクターブの関係が保たれるからであり,音自体柔らかく澄んでいる。一方奇数次の高調波を含んだ音は3次では5度音程,5次では3度音程となるなど,単音でも色彩感を伴う音となる。しかし奇数次高調波があまりにも多いと,歪んだ感じの音となる。極端な例は矩形波である。音程感こそあるが無機的な音となる。初期のファミコンの音がそうだった。逆の極端な例は完全な正弦波。まったく色の無い音となる。結局,不快になる前の硬い鋭い音というのは適度に高調波を含む音ということが出来る。一般の楽器においては楽器の共振特性(上で述べたフィルター特性)が嗜好の対象ということだ。
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上の記述を図示したもの

本ブログでは,簡単な弦の振動シミュレーション「弦の振動姿態(理想の弦の中央付近を弾く),および(理想の弦の1/4付近を弾く)」,弦の高速度撮影「弦の振動姿態(実際の弦の中央付近を弾く),および(実際の弦の1/4付近を弾く)」,実際の音のスペクトル解析(ギター音の特徴について)などを示して来た。振動シミュレーションでは,弦がジグザクの変形を伴いながら振動することがわかる。弦の中央付近を弾くと弦の振動形が三角波と台形波(面白いことに時間軸振動波形も三角波と台形波)になり,弾弦位置が端に寄るにつれ鋸歯状波(時間軸振動波形も)に近づいていく。このことは,駒の近くを弾弦するとより硬い(高調波の多い)音が出るという経験的事実,および測定結果とも一致する。

理想の弦には横剛性がない(引っ張り以外の変形には全くしなやか)という仮定によるものであり,現実の弦では曲げ剛さがあるため,弦の角張った変形は考えられず,角が丸まると考えるとその分高次高調波の励起も少ない。また別の観点であるが,弦の曲げ剛さが大きいと,押弦によるピッチ変化すなわち,弦長と周波数が「弦の話ふたたび(1)」の基本式で示されたような単純な反比例関係とならず,音程が狂う。これは,ピアノ弦のインハーモニシティと同義である。以上の議論より,仮に弦の特性として高調波が多く音程の良い弦が良いとすれば,太くて硬い(曲げ剛さの大きい)弦は高調波が出にくく,押弦位置によるピッチの理想状態からのずれも大きくなってしまい良い弦とはいえない。この考察に基づき,以前とある銘柄の弦を批判した。

(つづく)

タグ: 音色 高調波
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