弦の話ふたたび(1) [楽器音響]
以前にも弦の話を書いた。複雑な楽器音響に比べ,弦の場合基礎事項は単純である。
ここでは,基礎事項の確認とともに,現実に最も興味のあるところの,弦の張力などについて具体例を交えながら,しばらく書きたい。
1.弦振動の基礎
弦の振動数νは,弦が十分しなやかで変形は少ないことなどを仮定すると,一次元の波動方程式で表されるが,これを両端固定の境界条件の下で解いた解として表される。結果のみ示せば,
となる。ここで,νは音程(振動数),Lは弦長,Tは張力,σは線密度(単位長さあたりの質量),nはn=1を基本波とするハーモニクスの次数である。
なお,この関係式はギターの弦などのように,柔らかい弦の場合わりあい正確に成り立つが,ピアノの弦などの硬い弦では,振動数νが単純にこのnとLの関係が整数倍および反比例の単純な関係にならず,これをインハーモニシティという。たとえば,n=2に対して,振動数が2.007,n=3に対して3.017,n=4に対して4.028,といったぐあいに少しづつずれていく。ピアノの調律曲線は,この低音弦のずれたハーモニクスと高音弦とが共鳴するようずらして調律されると了解される。
具体的な数値を見ておこう。上式に従うと,一定ピッチを得るためには,弦長が長い方が,弦の線密度(単位長さあたりの質量)の大きい方が張力を高くしないといけない。この関係式(長さに対し張力変化は2乗)で算出すれば弦長650mmの楽器に対して640mmの楽器では3%ほど,630mmでは6%ほど張力が低下する。ほぼ1センチあたり3%ほどの変化である。630mm~660mmで9%ほどの変化だ。
一方,弦の線密度は張力と反比例だ。弦のデータとして線密度[kg/m]が示されることはあまり無い(伸びの効果を無視すれば重さを量って,長さで割れば出るので,上式から張力も計算できる)が,テンション表示を見れば,ハードとライトで最大10%ほどの差だろうか。
(つづく)
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