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ギター曲と楽曲形式(10) [曲目]

以前紹介した「楽式論」の応用楽式として取り上げられている曲名を用いて,ギター曲として多く取り上げられているもの,およびそうでないものについて,ギター曲中心に書いてきた。ここでは声楽曲に独特なものを曲目のみ追加するほか,本書に取り上げられていない楽曲形式に触れ,このシリーズを終える。


声楽曲に独特なもの

声楽曲のみの楽式というものはありえないが,人が歌うと言う観点で若干の補足をすると,まず,歌曲,歌曲集があげられる。また,アリア,レチタティーヴォ,カンタータがある。これらは,純粋な声楽曲であるが一部器楽曲の形式にもなっている。合唱形態には,独唱,重唱,合唱などがあり,様々な形態の伴奏がつく。
特にア・カペラ(教会風)は無伴奏合唱の形態をいう。宗教声楽曲として,コラール,アンセム,ミサ,レクイエム,オラトリオなどがある。劇場声楽曲の楽式として,オペラ,オペレッタ,楽劇がある。
あと,以下の区分にも入れられる可能性のものとして,ラフマニノフに有名なヴォカリーズがあるが,これは,本来「アアアー」など母音のみで歌われる歌唱法のことで,曲名にはなってもいわゆる楽式とはならないのだろう。


本書に取り上げられていないものおよび補足事項

カヴァティーナ映画「ディアハンター」のテーマ曲でジョンが弾いた曲が有名だ。やさしそうに聞こえる割にむずかしい損な曲だが,その美しさゆえ,超人気曲だ。Wikiによれば,これは楽式の一つで,第2部や反復部の無い素朴な形式の短い歌曲だったものを,現在アリアやレチタティーヴォと区別して呼称され,器楽曲ともなっているという。ベートーベンの弦楽四重奏曲第13番の第5楽章がその代表とある他,スタンリーマイヤーズ作曲のこの曲が最も有名とある。タンスマンのカヴァティーナも有名だが,これは組曲名だ。
シンドグレンさんの弾くマイヤーズ作曲カヴァティーナ。
一部編曲の異なるところがある。

子守歌はギター曲ではキューバの子守歌(アフロ・キューバン・ララバイ)が有名。こちらも,Wikiによれば,子守唄,子守歌(こもりうた)は子供を寝かしつけたり,あやしたりするために歌われる歌の一種で,世界各国で歌い継がれララバイ,揺籃歌ともいう。そのため,ゆっくりしたリズムを持つものが多く,ベルナルト・フリース作(モーツァルトの~と呼ばれるもの)やシューベルトのものブラームスのものゴダールのものなどが有名でショパンのピアノ曲などの器楽曲にもあるとある。フォーレの連弾曲「ドリー組曲」の中のものは村治佳織さんのCDでも演奏された。子守歌は,ベルセーズ(Berceuse:仏)とも呼ばれる。

その他には,アラベスクがある。ユーモレスクが入るならば,これも入れてもよさそうだ。それから,楽興の時が入るならば,唄と踊り(モンポウピポー) とか祈りと踊りとかも作曲家によっては一定の形式としているようにも見られる。バッハ以前さかんに用いられた古い舞曲名も入っていないものが多い。パヴァーヌ,ガイヤルド,ヴォルタ,サルタレッロ,などいくつか思いつくが,本書が刊行された年代からして無理も無いだろう。古楽が盛んに演奏されるようになったのは,ここ10年20年のことだ。

タンゴ,ハバネラなど特定の民族的リズムを持つ楽曲も指摘できる(近年クラシックでも十分市民権を得ているが,特定のリズムであり楽式との認識が無かったのだろうか?)ほか,エヴォカシオン(祈り),カンシオン(歌),ダンツァ(踊り),などの一般名詞的なもの(特定の楽式と言えるかどうか?),やはり舞曲であげた以外の,例えば,タラントス,ソレアレス,ファンダンゴ,ホータなどのスペイン舞曲としてよく扱われるものも抜けている。ブラジル音楽で重要なショーロ,などなど。中南米,アフリカ,アジア等のリズム等取り入れると殆どキリがなくなるかもしれない。

本来は楽曲名ではない速度指定のアンダンテ,ラルゴ,アダージョや,発想記号のカンタービレやエスプレーシヴォなどが楽曲名的に用いられたりすることも多い。ソナタ構造の曲の単一楽章を指定するのに便利と言う事情もあるのかもしれない。また,以上あげてきた楽式名や舞曲名を複合化したもの,例えばロンド・カプリチオーソとかパヴァーナ・カプリッチオとか,セレナータ・ブルレスカとか,さらに,特に近代の楽曲名には,以上あげてきた楽式名に固有名詞ほかの修飾語をつけたものなども多い。アランフェスの協奏曲とかラプソディーインブルーとか。蛇足ながら,曲がヒットするかどうかは,このネーミングによる効果も大きいのだろう。


ずいぶん前からビートルズの曲がそうであるように,ポピュラー曲が近年のクラシック音楽分野に果たしている影響は大きい(現在のクラシカルな曲とみなされている曲目にも当時のポピュラー曲は多いようだ)。楽式名に関しても,例えばラプソディーで検索してみると,クイーンのボヘミアン・ラプソディーが圧倒的に多い。ガーシュインのラプソディーインブルーにしても元々は殆どポピュラーのような曲だ。今後,従来の範疇でのクラシック音楽とポピュラー音楽,世界中の民族音楽との境界があいまいになるにつれ,それにともない楽式名も増加してくるものと思う。本記事の基にした石桁氏の「楽式論」はもうずいぶん古い本である。今回少し気がついた範囲で楽式名などを補足したが,特に近年はインターネットの爆発的普及により,知識のみならず,世界中に映像音声が手軽に手に入る時代となった。守安氏の講義にもあったが,例えばYouTubeの果たしている影響は計り知れないのだ。(おわり)

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