ギター曲と楽曲形式(8) [曲目]
以前紹介した「楽式論」の応用楽式として取り上げられている曲名を用いて,ギター曲として多く取り上げられているもの,およびそうでないものについて,ギター曲中心に書いてきた。前回までは単独の楽曲に限ったが,ここからは組形式によるものを概観する。
組型式によるもの
組曲(スイート)
バッハやヘンデルによって確立された古典的組曲は,
1.アルマンド 2.クーラント 3.サラバンド 4.ジーグ
の4曲が骨格になり,さらにこの前にプレリュードがつけられたり,ジーグまでの間に適宜間奏曲的に,メヌエット,ガヴォット,ポロネーズ,パスピエ,ブーレなどが挿入される。
ここでは,本書の例(イギリス組曲第5番)とは別に,ギターでよく弾かれるバッハのリュート組曲1番と呼ばれているもの,ホ短調BWV996を取り上げる。
まず,プレリュード(前奏曲)がつく。このプレリュードは即興的な前半部分パッサジオと,フーガ的な後半部分プレストからなり,この一曲だけでも変化に富んでいる。
プレリュードの前半部分パッサジオ
プレリュードの後半部分プレスト
第2曲アルマンド。調性のせいもあり,まるでギターオリジナル曲のように,なだらかな起伏を持って心地よく響く。第2曲アルマンド冒頭
第3曲クーラント。後半はドラマティックな盛り上がりを示す。第3曲クーラント冒頭
第4曲サラバンド。
第4曲サラバンド冒頭
上であげた基本構成に追加される,いわば間奏曲として,第5曲ブーレ。明快な2声部で出来ており,やはりギターにぴったりの曲だ。
第5曲ブーレ冒頭
定石通り,終曲ジーグ。フィンガーボード上ではかなり難しいが,バッハ自身必ずしも鍵盤ではなく,リュートなどのフィンガーボードを想定したのだろう。しかし,オリジナルとされるリュートの標準チューニングでは弾きにくい不思議な曲でもある。
終曲ジーグ冒頭
バッハの作品には,イギリス組曲,フランス組曲のネーミングのもののほか,いわばドイツ組曲としてパルティータと呼ばれるものもある。バッハの作品に限らず,古い組曲には調性の統一があるが,近代の組曲ではそれが余り無くなっている。
組曲に近い型式に,セレナードがある。これは「夕べの音楽」として,声楽器楽にかかわらぬ楽しく愛情のこもった楽曲だったものが,転じて多楽章の幻想曲の配列集合となった。従って近代の組曲はむしろこちらに近い。ギターでよく弾かれる,マラッツのスペイン・セレナータなどは,単一楽章のセレナード。有名なモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」は多楽章のセレナードだが,第1楽章はソナタ形式で書かれ,第4楽章はロンド。これはむしろ次項で述べる組み形式としてのソナタだ。その他,セレナーデと同様な楽曲に,ディヴェルティメント(喜遊曲)がある。これは,セレナードが恋人のいる窓の下で演奏される音楽なのに対し,晩餐の場の音楽,すなわちディナーミュージック(ターフェル・ムジーク)の性格を持つ。(つづく)
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