ギター曲と楽曲形式(2) [曲目]
以前紹介した「楽式論」の応用楽式として取り上げられている曲名を用いて,ギター曲として多く取り上げられているもの,およびそうでないものについて,ギター曲中心に何回かに別けて書く。なお,ここでは組み形式としてのソナタ,組曲,変奏曲と言った形態は含まず,独立楽曲のみ取り上げることにする。また,本書の記述に従い舞曲は後で取り上げる。
練習曲
エチュード。どの楽器でも有名なものがある。もともとは技術習得用だが,ショパンやリストなどには芸術性の高いものもある。ギターでは,もちろんソル,ジュリアーニ,アグアド,カルカッシ,カルリ,コスト,タルレガなど,特に古典黄金期のものは質・量とも事欠かず,ソルのものは内容充実したもののさきがけだろう。ロマン派以降タルレガ,リョベート,E.プジョール。近現代のものは少ないような気がする。その理由は楽器を良く知る作曲家でないと書けない事情があるのだろう。近現代練習曲として,もちろんヴィラ=ロボスの12の練習曲があるが,これは技術的に上級である。ブローウェルのシンプル・エチュード,ジェラルド・ガルシアの25のエスキス・エチュード。日本人のギタリストによる作品も色々あるようだ。バリオスがソルやタルレガの曲をモティーフに使って弟子たちに書き与えたものがあり,バリオス全集に載っている。セゴビアの「光の無い練習曲」などは,その名はつくが,一種のキャラクターピースだろう。
アルペッジオの練習として定番のヴィラ=ロボスの練習曲第1番
ノクターン
夜想曲。初級曲でC.ヘンツェのものが有名だが,本格的なものは余り無いようだ。もっともショパンらのピアノ曲以外はそう多くなく,ボロディンの弦楽四重奏第2番第3楽章がピアノ以外で例外的に有名な例だ。ショパンのノクターンのそのギター編曲はある。忘れてはならないのが,ベンジャミン・ブリテンのノクターナル。ノクターンではなく,ノクターナル。小品のノクターンではなく,ダウランドの歌曲「来たれ深い眠りよ」による変奏曲風の曲である。
(後注:メルツのノクターンがあった。彼はショパンとほぼ同時代。近現代ものではいくつかあるようだ。)
ロマンス
ギターではもちろん,「禁じられた遊び」の「愛の~」。音楽一般ではベートーベンのヴァイオリン曲が有名だ。初級曲でメルツのものは,最初に弾いた曲らしい曲がこれだった。ワルカーの「小さな~」は最初がヴィラ=ロボスのプレリュード1番と同じでかっこよかったので,独学で始めた頃夢中で弾いた記憶がある。もともとは,バラード(譚詩),レジェンド(聖譚詩)と同類の楽曲とされているが,かわいい小品が多く,ロマンティックな曲想をもつ自由な形式の曲とみなしてよいのだろう。
カプリッチオ
奇想曲,もしくは綺想曲。もちろん,タルレガの「カプリッチオ・アラベ」,アラビア風綺想曲がある。気まぐれな即興的な小曲。スケルッツォと同様に,3拍子系が多いようだ。テデスコの悪魔の奇想曲も有名。編曲だが,アルベニスのパバーナ・カプリッチオも印象に残る(舞曲のパバーナに入れるべきか困るところだがこちらだろう)。カプリースも同義。
バガテル
ベートーベンは性格描写の希薄な小品をこの名で呼び,「エリーゼのため」にがこの範疇で有名らしい。ギター曲では,ソルのものもあるが,ウォルトンの「5つのバガテル」が有名だ。一般的にも,てすさび,捨てるに忍びない小品のことを言うらしいが,寡作家のウォルトンはこの曲をオーケストラ曲にも編曲した。
無言歌
メンデルスゾーンのピアノ曲集が有名で,「ベニスの舟歌」など,何曲かギターにも編曲されている。だいたいは歌曲形式の器楽曲といった意味合いのようだ。
(つづく)
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