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同期現象とハーモニー [音楽理論]

3272377029_4e9406ae14_b.jpg同期はシンクロナイゼーションというが,結構不思議な現象である。複数の振動などがぴたっとそろうことを言う。例えば壁にかけた少し狂った2つのふりこ時計がぴたっとあってしまうような現象。共振と混同されることがあるが,異なる現象である。共振は外力の振動数が対象物の固有振動数とぴったり合った場合振幅が大きくなる現象だが,ずれると収まる。しかし同期現象は振動数が近づくと勝手に振動数を調節してぴったり合わさってしまう現象であり,協調している。解析面では線形・非線形の違いがある。

Synctor by Syntopia with CC-License Attribution とくにテーマと関係はない

結構この現象を応用したものがある。われわれが使う電力は同一の発電機で作られたものでなく,幾つもの交流発電機がつながって,ミックスしている。直流ではなく,50Hzなり60Hzの交流である。プラスマイナスが交番している周波数が異なれば直接つなげられないことは直感的にわかるが,周波数が同じと言え難しい。なぜならば,位相をぴったり合わせることもむずかしいし,周波数がわずかに異なるかも知れないし,負荷の軽重でもふらつく。ほんのわずかの違いであっても,時間経過でずれてくるはずだ。かりに百万分の1の周波数の誤差があったとしても,3時間ほどでプラスマイナスが逆転してしまい,送電が完全にストップしてしまうことになる(充分その前に止まるはずだろう)。24時間365日ぴたっと揃っているのはどう考えても不思議なことだ。電力会社の友人に聞いてみると,基準周波数を発生する小型発電所が置かれていて,それにどの発電所も協調させるという。

最近では太陽電池などでの自家用発電も増えており,これを電力系統に接続して日中の余剰電力を電力会社に売っている。これももちろん系統の電力の周波数にぴったり合うよう協調する。

中年以降のかたならば,昔のテレビ画面が良く上下に流れた経験をお持ちではないだろうか?白黒時代はもちろん,カラーになってからもあった。あれは,放送電波の画像信号と画面を掃引する信号の同期が外れることによって起こった。同期技術が画期的に進歩したため,まずあのようなことは無くなったが,昔のものでも,調整して近づくとふっと引き込まれてしばらくは安定していた。その後のものは引き込みの守備範囲が広くなって,鉄壁のシンクロ動作になったわけである。

同期でなく共振現象を利用したのは昔のラジオの選局だった。放送局の周波数にラジオ回路の固有周波数を合わせるのだが,ちょっとした振動などでよくずれた。

同期現象は考えてみれば奇跡的な現象である。この記事の目的はそれとハーモニーとの関係である。共振で合わせるためには継続的な努力が必要だが,同期現象の最大の特徴は近づくとどちらとも無く引き込まれ,びしっと協調してしまうことである。いわば,ある程度の努力をすれば,後は神の手が運んでくれ気持ちよくハモる。いわゆる「ハモり」が学術的に同期現象と同定されているのかどうかは知らないが,少なくとも似た現象であることは確かだ。これはコーラスやオケの楽器をやった方ならば経験していると思う。

発電機のハモりはいわばユニゾンだが,コーラスでは3度のハモりが美しい。これがいわば純正率の美しさである(ミーントーンもかなりよい)。これはピタゴラス音階でも,現在の12平均律でもダメである。前者はシントニックコンマといわれ21.5セントほど広いし,後者も14セントほど広い。これでは絶対にハモらない。もちろんこれは単なる理屈を言っているだけで,例えばコーラスなどをやっている人たちは,音律がどうのではなくて,耳と声で合わせているのである。平均律を支持する方に,「肉声や弦楽器でそんなに微妙な音程調整が出来るわけが無く,純正律信仰は教条主義」という意見もあるようだが,その考え方自体現実に起こっている現象をよく見ない教条主義といえるものである。おそらく,同期現象がピシッと合わせてくれるのである。いったんはまれば,はずすほうがむずかしい。もちろん,肉声が必ずしも純正律音階をたどるわけではなく,音同士の三度間隔がである。

問題はギターである。
鍵盤楽器よりは多少の調節が利くとは言え,基本的には平均律楽器である。きっちり平均律的に合わせても,そんなにひどい響きはしないという意見もあるだろう。むしろ,本来調性の無い平均律の申し子のような近現代曲をギターで弾いても,結構きれいに聞こえてしまう面がある。もちろん,多少のチューニングや押さえ方の工夫で多少イントネートされている面はあろう。しかし,それほどの天才奏者でなくても,きれいに聞こえる面が楽器自体にもあるのではないかと思う。

一つは音が持続しない点。弾いた瞬間音は最大だが,ここでは音程が無く,しばらく経ってから,余韻の方で音程感が出てくるわけだが,音程感が出てくると共に今度は音自体は減衰してしまう。良くも悪くも音程がごまかされてしまう。だから逆に言えば,チューニングは難しいのかもしれない。もう一つ考えられる点としては,この同期現象によりどこかの高次高調波同士でハモるのではないかと言うことである。ただ,これに関しては確かめたわけでも,理屈があるわけでもないギター愛好者の想像(妄想)であるが。


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koten

おー良いですねこの記事! 私が最近取り上げた話題とも直接関係しますし。私も「同期現象」の用語を使って説明した方が良いかも知れないなと感じました。

 鍵盤楽器の調律では、人間が「合っている」と感じる2つの音程には(何セントだかの)許容幅があり、特にオクターブでのその「許容幅」が大きいため、オクターブの調律は非常に難しい旨のことが本に書いてありますよね・・。

 これだけお詳しいんだから、Enriqueさんも早くうねうねフレットギターの(ヘビー)ユーザーになってくださいよ(爆)。

(2010年6/22の小生記事へのEnriqueさんの6/24コメントに、超遅まきながら(今日)気付きました。申し訳ないです)

by koten (2010-11-15 13:05) 

Enrique

kotenさん,古い記事にnice&コメントありがとうございます。
同期現象は共振現象と混同されることが多いのですが,この記事で書いたように,別の現象です。共振現象と考えるとピタッと合わないとダメだと思いがちですが,同期現象はそうではなく,pull in現象が起きます。その許容量は非線形性(いわば生楽器)で決まります。ヴァイオリンの発音機構などは典型的な非線形現象ですし,声などもそうだと思います。ギターやピアノでも非線形性が必ずあります。ハモりを同期現象ととらえられるかどうかの定説は知りませんが,共振現象ととらえるならば,同期現象の方がより現実に即していると考えています。
うねうね大いに興味ありますが,なかなか手が回りません。時間ができたら,kotenさんのように量産ギターで試すのが順当でしょうね。
by Enrique (2010-11-15 19:08) 

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