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シューベルトとギター [雑感]

このタイトルの記事は昔から良く見かける。曰く,「貧乏な彼はピアノが買えず,ギターで作曲した」,「歌曲はギター伴奏だった」,等々。たしかに,有名なセレナーデの伴奏音形はギターそのもの。古くは70年代だったかのザルツブルク音楽祭でラゴスニックが「美しき水車小屋の娘」でペーターシュライヤーの伴奏をした。

一曲だけ有名な作曲家というのは多いが,その楽器用で一曲だけ有名というのは,おそらくこれだけと思われる,「アルペジョーネ・ソナタ」がある。しかも,小品でなく3楽章の堂々たる楽曲。これだけの名曲をこの特殊な楽器(弓で弾くギター)のために書けたのが,ギターに造詣があった証左ともされるわけだ。

アルペジョーネの代わりのビオラないしチェロを,ピアノの代わりのギターで伴奏というのが昔のパターンだったが,もう約十年前になるか,ジョンはアルペジョーネの代わりにギターで弾いたCDを出した。ガダニーニの19世紀ギターでジュリアーニのコンチェルトとカップルだったので記憶にある人も多いと思う。これはコロンブスの卵のようなものであった。譜面どおり弾ける。ただし音が伸びないので,逆にピアノ伴奏の方を音の伸びる弦楽オケに編曲していた。ギターを再開して間もないこともあり,張りきってCDを購入し,妻にも聞かせたが,最初の音を聞いただけで,「これはシューベルトではない」と酷評していた。シューベルト特有のほの暗さが無いというのだ。ギター愛好者(自分もそうだが)と一般音楽愛好者(妻はピアノとチェンバロ)とで判断が分かれるところである。勿論通常のジョンの演奏そのものは,「上手ねー」と,ギター・キングにむかって先入観の無い評価。

従来パターンの組み合わせだが,2005年だったか趙靜さんのチェロと大萩康司さんのギターによる演奏は一世を風靡したと言っていいほどすばらしかった。これは誰もケチが付けられないのではないかという感動ものの演奏だった。やはり,この曲はギターに近い楽器用とはいえ,音が伸びることが重要なのだろう。この場合ギターはピアノの代わりとして伴奏に回った方がよかった。いずれの楽器もオリジナルではないのだが,それぞれの楽器で最高の仕事をしていた。

最近,鈴木大介さんが,メルツ編のシューベルトを弾いている。ギター愛好家の立場からすれば,独奏でよくぞここまでという引き込まれる演奏だが,妻には聞かせていない。何というか不安でもあるが,割とファンのようなので,聞かせてみたい気もする。曲目はシューベルトではなかったが,アメリカでカネンガイザーを聞いたときは,モーツァルトのトルコ行進曲以外は絶賛していた。トルコ行進曲は心臓に悪かったと。彼の編曲譜面は,弾いてみると想像ほど難しくはなく,魔笛程度のテクニックで弾ける。しかし,鍵盤の申し子のような曲。完璧に弾けた上に優雅さと余裕がないといけない。他のクラシック・ギタリストでこの曲を弾いたという話を聞かない。随所に瞬間脱力(+エクストラクト)を取り入れた彼のテクニックを持ってしても,時々危なくなった。むしろ,こういう曲に大真面目に取り組むところに彼の人のよさやポピュラーギタリストのような屈託のなさも感じる。

残念ながら,シューベルトにはオリジナルの独奏曲はないようだ。むしろ,本人の手で伴奏楽器として室内楽用いられたり,当時から有名曲をギタリストが上手に編曲し,ヨーロッパの家庭等で楽しまれていたようだ(例えば,Handbook of Guitar an Lute Composers)。昔,「現代ギター」に載っていた,フリスネックの「鱒の主題による変奏曲」も忘れがたいが,すでに手元になく,改めて楽譜を入手したいと思っている。


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奥村治

arpeggione アルペジョーネ研究をしています。楽器の復元とともにレパートリィ開発など手探りですが。2016年 日本音楽表現学会編集刊行「音楽表現のフィールド2」東京堂出版で、アルペジョーネ再発見と出して書いております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
by 奥村治 (2019-02-03 10:51) 

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