カッコウの鳴き声とピッチについて [雑感]
ここでいうピッチとは,チューニングの基準とする標準音高のことで,通常A4音が440Hzとされてきた。私の使っている音叉もそうである。しかし現在では442Hzくらいを使うことも多いようだ。
バロック時代はピッチがかなり低かったらしく,現在古楽関係で使われるバロック・ピッチと言われるピッチは415Hzである。これは現在の通常の標準ピッチよりもほぼ半音低い。だから,例えばギターでは弾きにくい変ホ長調のリュート曲(例えばBWV998など)を調を半音下げてニ長調で弾くと,むしろバロック時代の音高になるというわけだ。
そこでふと思ったのは,カッコウ鳥の鳴き声である。家の近所に来たカッコウは正確にミッドーと鳴いた。これはすぐにピアノで確かめたので,間違いない。これは現代のピッチでの音階だから,もしカッコウの鳴き声の絶対音高がバロック時代と現在で同じならば,当時のピッチでの音名なら,ファッド♯ーのはずである。これは不思議である。多分ピッチは自然発生的に出てきたものだろうから,まず自然の音にドやソやミを合わせるのが道理ではないか。なぜ半音ずれるのだろうか?
ではバロック・ピッチは間違いなのかというと,まずそんなことはなさそうである。当時使用された音叉やオルガンの管などの証拠品があり,バロック時代中でも時期や場所によってばらつきはあるものの,それらの平均的ピッチが現在よりかなり低い415Hzということのようだ。とすると,カッコウ鳥が人間のピッチに合わせているのか?検索してみると,カッコウ鳥の音程にふれたブログなどがあるが,日本と欧米でも異なるし,鳥の個体差もあるようで断定的な結論は見当たらない。
どうも,人間の活動音を鳥が聴いて,合わせているのではないか。
例えば電車の音階制御というものがある。電車の騒音で避けられないモータなどのうなり音を,聞いて不快でない音階音にしてしまおうというのである。踏み切りの警報音(ミ・ミ♭ッ,ミ・ミ♭ッー)もしかり。逆説的だが横断歩道のカッコウ音をカッコウ鳥が聴いて合わせているのかもしれない。バロック時代の西洋にも鐘の音やラッパの音など,鳥に聞こえる音はあったはずだ。
逆に人間の音楽にはカッコウの鳴き声を模倣したものが多い。「かっこうワルツ」ほか有名なものがいくつかある。ギター関係では,ソルの時代は既に現在のピッチと大差ないとは思うが,第二グランドソナタ,第二楽章中盤に現れるカッコウ(私の勝手な解釈)も,ミッドーだ。鳥が人間の作ったカッコウ音に合わせているのか,あるいは人間との共同作業でだんだん高くなっているのか?いずれにせよ,バロック時代のカッコウはわざわざシャープをつけず当時のピッチで鳴いていただろうというのが結論である。自然界まで影響を与えるピッチはあだやおろかにはできない。
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